こんな人たちを知っていた、こんな二人を。
彼らは愛し合っていた。彼らはとても若く、彼女はとても美しかった。男はみすぼらしく粗野な感じだった。
彼らは一緒にいれば何だって楽しかった。スーパーに行くだけのことがわくわくする冒険だった。
二人はくだらないことでもいつも笑っていた。男は彼女の笑顔が好きだった。
それ以外のことを彼らは気にしなかった。一緒にいることだけが彼らの望みだった。そして男はこの上なく彼女を愛していた。
そのうち彼女がお金の心配をするようになった。男はお金がないことに身を切られる思いだった。彼女を支えることに。
だが彼女のそばを離れて働くことにますます男の心は乱れた。
男が仕事から帰ると彼女がいないことを。約束した迎えもないことを。静まり返った部屋の中。
男は彼女を責め、彼女はそれを被せるように男を責めた。
そしてある晩のこと、彼女から妊娠していることを告げられる。思いもよらないことだった。
男は彼女のために家庭を築くことに一生懸命になった。
だが事態はおかしくなった。彼女の様子が変わり始め、周囲のことすべてに苛立ち、何にでも腹を立てた。
男は出会った頃の二人を取り戻そうと必死に努力をした。
彼女は逃げる夢を男に話した。何もかも投げ捨て逃げることだけが望みだと。夜、ハイウェイを裸足で逃げる夢を。そして実際に彼女は裸足で走り抜け、男はあとを追い続けた。
男は彼女が子供のように駄々をこねるさまを、どうあがいても無理だと悟り決心した。彼女に促され家を出ることを。
彼女はただ静かに眠りたかった。男もただ静かに眠りたかった。
男は帰る家もなく暗闇を走り続けた。ただひたすらに日が昇るまで。そして暗闇とともにまた走り続けた。
落ち着きを取り戻した男は気づいた。もっと早く彼女の異変に気づくべきだったことを。眠らない彼女を見過ごさずに…
Ry Cooder のボトルネック・ギターが静かに響き渡り、優しく包み
桜の花が咲く頃
日の光りを
憩いの場を
緩やかに吹き抜ける風とともに
あなたのもとに
『おやすみ』