・わけあっていつも書かないような内容のやつです
・わけあっていつもと違う文体です
・わけを知らない人は見なくていいと想うよ
ーーーーー切りとりーーーーーー
空は晴れていた。いや、晴れていなかったのかもしれない。街がクリスマスの模様に浮かれ出した11月の夜の空には、晴れという言葉は似つかわしくないのだろう。ただ、男の心は曇天でも晴れと感じるほどに澄んでいた。
(オープニングテーマ)
何てことはない。言ってしまえば友人知人が集まった単なる食事会である。それ以上でもそれ以下でもない。それでも男の心の中には湧き上がる何かがあった。それ以上になりうる期待とそのために仕込んだ種と、ほんの一欠片の不安が。
少し前に待ち合わせ場所についた。早く来る理由は見当たらないが、早くついてしまった。胸中の想いがそうさせたのかはわからない。街中を急ぎ足で交差する人々の中から、まだ来るはずのない友人を探した。寂れたラーメン屋のその前で。
男が女を見つけた。女も男を見つけた。二人で待つことになると、期待が膨らみ続ける。破裂寸前の風船のように、沈む直前の客船のように。
二人は別の男を待った。共通の意識と期待を持って。そのことを話し合ったわけではないが、言葉にせずともわかりあっていた。それほど大きく強い刺激を別な男は持っていた。ある筋ではレジェンドと呼ばれるに至るほどの怪物だが、それはまた別の話。
話を戻そう。
しばしの会話と沈黙を繰り返した後、二人の視線は同じ一点を見つめていた。一人というべきか。それなりの都会のそれなりに賑わう駅のそれなりに着飾った若者たちに紛れ、全身緑色の男がその場に現れていた。唯一無二の存在感と覇気。レジェンドである。長いので以下この男を緑と呼ぶことにするが、皆の脳内では是非レジェンドと読んで欲しい。なぜこの人物がこれほどまで緑にこだわりを持つのか、それなりに長い付き合いの男もその訳を完全には理解していなかった。する必要がないのかもしれないが。
(参考・legend)
ともかく、二人は緑と合流した。この日のメインゲストは実は緑である。数週間前にも同様の集まりはあったのだが、緑は一人名古屋へ旅に出ていたらしい。元々別な用事で緑に会う必要のあった男は名古屋土産を受け取ることを言い訳に緑を呼び出していた。ここで言い訳という言葉を使用したのには、それ以外の複雑な理由もあるからなのだが、それは今はまだ伏せておくことにする。当分の間は。季節の霧が晴れるまでは。
緑の軽快なトークを聞き流しながしていると、もう一人の女(以下丸と呼ぶ)も合流した。丸は自身最大の趣味と言っていいものの年に一度の祭典からの帰りだった。誘った男も正直来るとは思わずダメ元で声をかけたのだが、とにかく丸は来た。お祭り気分がそうさせたのか、はたまた別な何かに導かれたのか。ただ一つわかることは、丸はいつもより上機嫌だった。そして疲れて見えた。
四人が揃ったので男の案内で店へと向かう。道中は緑の爆笑トークや丸の祭の件が主な話題だった。目当ての店へ来たが、既に一杯で入れなかった。仕方なく別な店へ向かうが誰も不満は漏らさなかった。緑のトークが場を盛り下げることを許さなかった。それほどまでに緑のトークスキルは超人的である。さすが、一般人とは比べ物にならないほど劇的な人生を送ってきただけのことはある。ほどなくして別な店へ着いた。詳細は伏せるがこの店は緑が始めての体験をした店である。密かに気に入っているのだろうか。その割りには場所は覚えていない様子だが。緑にとって地理的な位置など価値を持たないのだろう。重要なのはそれが翠かどうかなのだ。
緑はビールを頼んだ。いつものぬるいハイネケンではなくアサヒスーパードライエクストラコールドを頼んだ。他の三人はウーロン茶を。同じ烏龍茶を。モツ鍋が売りのこの店で緑は餃子が食べたいと言い放った。女と丸は若干驚いた反応を見せたが、男は冷静だった。緑のことをよく知る男からすれば、なんてことはないいつもの光景である。
グラスを合わせ、話に花を咲かせる。ここでの話題は主に緑の近況や今後の予定についてだった。女や丸がどこまで興味があったのかは不明だが、緑について話題には事欠かなかった。これほどまでにいぢり甲斐のある人物もそうはいないと思われる。もちろん良い意味で。皆で緑の家に行く約束もした。そのために緑は近々家を掃除する必要がある。まるで年末のネズミ達がそうであるかのように。
料理を取り分けたり注文に気を回すのは主に男の役目だった。それは気の利かない女やすっかり出来上がった緑、場慣れしていない丸の為にに仕方なくというよりも、単に男が他に任すより自分で担当した方がうまくいくと判断したからに他ならない。もちろん良い意味で。
緑はモツ鍋と餃子と酒と意識を胃に流し込んだ。まるでワルツのように。絶えずエクストラコールドを注文する緑に普通のとそんなに違うんですか?と男は質問した。あまりわからないと答えた緑は、その後も変わらずエクストラコールドを注文し続けた。まるでタンゴを踊るかのように。モツ鍋の残量と反比例するように緑は出来上がっていった。
(出来上がった緑)
丸はあまり料理に手をつけていなかった。今回に限らず丸はいつもあまり食べていないように見えた。口に合わないのか単に食が細いのか、それ以外の他の理由なのか。そして少しばかり携帯を気にしていた。
女は笑顔だった。余程楽しかったのだろうか。それとも作り笑顔の世渡り上手なのか。もしかすると先の気が利かない様子も気が利かない振りをして男を意のままに操っていたのかもしれない。ともかく、楽しそうに笑っていた。もちろんいい意味で。
男は密かにパズドラをしていた。
シメのちゃんぽんをたいらげると、緑が次はどうする?二軒目?と言い出した。すっかり出来上がっているのだろう。すると女が突然ボウリング!と答えた。男と丸は少し驚いたが緑は乗り気だった。腕に自信があるらしかった。緑がその気になった時点でボウリングへ行くことは決定した。緑には誰も逆らえない。
料金は年長の緑が多めにだした。が、実際緑が食した量・飲んだ酒代は他の三人よりはるかに大きいので、実は妥当な金額負担である。このあたりもいつものことであるが。
(劇中歌)
前述の通りここはそれなりの都会である。当然、ボウリング場もいくつかある。賑わう場にもそうでない場にも。四人はあえてそうでない方を選んだ。その方が空いているであろうという単純な理由が主であろうが、その方がこの四人にはお似合いだという哀しい自虐の意も含んでいたのかもしれない。それをそう口に出すものはいなかった。ただただこれからの期待と高揚感を冬の鳴き声のように発していた。
そこは、緑が好みそうな店が立ち並ぶ通りの一角にあった。一時代前、そんな空気である。緑には懐かしささえ感じられたが、逆に若い女には新鮮に見えなくも無かった。丸は黙っていた。男は密かにパズドラをしていた。
申し込み時、料金の関係で(仮に二度と来なくとも今回だけで入会金以上安くなる)会員になることを勧める男。素直に応じる緑。それとは対照的にどうせ二度目はないからと頑なに拒む丸。丸にはこういう所がある。損を被っても極力手元にモノを残したくないらしい。あるいは個人情報を登録することに深い抵抗があるように思われた。恐らくポイントカードや会員カードの類はほとんど所持していないのであろう。それでも、拒むのが面倒になったのか最終的には丸も会員となった。
ボウリング終了後の話であるが、女は丸にまた近々来ようと誘っていた。丸も満更でもなさそうだった。しかし丸が乱雑にポケットへしまったあの会員カードはまだ手元にあるのだろうか。それは本人にしかわからない。
ボウリング大会が始まる。無論、大会と呼べるほどのものではないのかもしれないが、当人達は大会の気分だった。それぞれの意地とプライドとパスタに入れる塩ほどの敵意を抱いて。
(緑ボウリング)
緑は本気だった。彼の奥から蘇る若き日の情熱と体内のアルコールが緑の心臓を熱く激しく高ぶらせた。加えて、緑は勝負事が好きである。人生は日々闘いの連続であり、その全てに勝利することが緑を緑たらしめている。その覇気迫る姿は戦国時代の武将を彷彿とさせた。彼の周りには敵などいなかった。己とコアラを除いては。
女は笑顔だった。盛り上がっていた。盛り上げていた。心底楽しんでいたのか、または生まれ持っての接待上手なのか。その両方か。ともかく、女は笑顔だった。周りも笑顔に導くほどに。それほど女の笑顔と醸し出す空気は魅力的であった。
丸は疲れて見えた。朝早くから祭に興じていた疲れがでたのだろうか。あるいはボウリングなどしたくはなかったのか。この場に草原物語があれば丸は元気になったのか?そんなことを男は密かに考えていた。パズドラ片手に。
1ゲーム目は女が勝った。2ゲーム目は緑が勝った。総合すると緑が優勝した。これが日々闘いに明け暮れながらも未だ敗北を知らない緑の実力である。ひよっとすると女の接待プレイの可能性もあるが、ともかく緑がNo.1だった。5454isNo.1。5454なのにNo.1。
(参考5454ラップ)

丸の終電の時間が迫っていた。もう1ゲームぐらいは大丈夫だったのかもしれないが、丸にはそんな気も体力も残っていなかったのだろう。丸にあわせて皆2ゲームでやめた。勝利に酔っている緑が気持ちの良い所で収める意味もあったのかもしれない。先のスーパードライエクストラコールドと勝利の美酒に酔った緑はともかく上機嫌であった。どこまででも、夜空のシリウスまで飛んでいけるほどに。その効果かは不明だが、緑が全ての支払いをしてくれた。女、男、丸は感謝した。5454isNo.1。
駅に着いた。解散するのが名残惜しいのか少しその場で話し込んだ。いつ緑の家に皆で遊びに行くかについて話し合った。緑は味のない答えに終始した。よほど家に人を入れたくない理由と恥じらいがあるように見えた。それでも三人はクリスマス前後に緑の家を訪れることに決めた。料理の心得がある丸がもつ鍋とカルボナーラをふるまってくれるそうだ。事態は動き出した。
飲み足りない、遊び足りない緑は一人夜の街に消えた。緑がどんな店へ行くのか男と女は興味があった。追跡しようかとも考えたが、知らなくていいこと知らない方が幸せなこともこの世にはあると、思いとどまった。後から緑本人の報告によると行きつけの店、浮世離れした格好の若い女性達が接客してくれる店へ飲みにいったとのことである。男と女、丸は解散した。
空は晴れていた。
(エンディングテーマ)