それから何も口にせずさっさと魔王城へ到着してしまった。

アリスのこの強引さはいつものことであるが、一体どうしたというのだろう。

魔王城へと引っ張られていくと、魔王城には主力メンバーが揃っていた。

四天王はもちろんのこと、あらゆる種族の王様。

「ルカお帰りなのじゃ!試練に負けずによくぞ乗り越えた!」

戻ってきた僕に対して拍手を送るたまもだが、僕はそんな試練等一度も目にしていなかった。

「いやいや、何そのやらせっぽいセリフ!何でみんな拍手してるの!?まだ全然挨拶できてないけど!?」

「何じゃ…皆に会わずに辛抱堪らず魔王城へ戻ってきてしまったのか」

「何が辛抱堪らずなの…?」

「お主はわかっておる、く・せ・に?」

みんな、薔薇色のような笑顔を振りまいている。

うん、何のことかさっぱりわからない。

「式じゃよ、魔王様が式を早めたいと言うものだから、大至急式を用意したのじゃ」

「はぁぁぁ?!式って結婚式!?」

「そうじゃそうじゃ」

コクコクと頷くたまもに周りの士気も上がってきていた。

「いやいやいや!話急すぎるし、まだアルマエルマも…」

「何だ、私と結婚するのが嫌と言うのか」

「いや、そういうわけじゃなくてさ…アリスの方こそどうなんだよ!?」

「わ、我は別に、か、構わぬ…」

今はそういう反応いらねーっ!!!

「何を言っておるか、魔王は実力の強い者と交わって、また強い子を産んで行くのじゃ。ルカを逃したら結婚等できぬぞ」

「わ、わわ」

アリスは図星を押されて目を丸くしているが、僕にはそれどころじゃなかった。

「アルマエルマと話をさせてくれよ!?まだアルマエルマとの問題も解決してないんだよ」

「それは却下、ダメ絶対」

じと目で早々と言われてしまった。

突然のことで頭いっぱいな僕は今にもパンクしそうだ。

すると、ストンという着地の音がした。

僕は期待の眼差しでアルマエルマの方へ振り向く。

「アルマエルマ何とか言ってほしい。話が早いって」

「何のことかしら?私は何も聞いてないわよ…」

「えっ」

四天王の三人はそれぞれ表情を浮かべているものの、喜んでくれているはず。

では、なんでアルマエルマには話が行ってないんだ…?

「ウチは試練と言ったはずなのじゃが…」

たまもが小さく零したのを、僕が拾い上げることはなかった。

なぜなら、アリスが言った衝撃的な一言で体が硬直してしまったからだ。


アリスはこう言った。

――――――――――「アルマエルマには、四天王を、やめてもらう」

はっ…今なんて言った…。

アルマエルマも同じように固まっていた。

「魔王様、それはちと言いすぎじゃぞ!?」

数秒送れて、第一声を上げたのはたまもだった。

たまもの他二人と、種族の長達も驚いていた。

目を見開いて驚いていたアルマエルマの瞳は、ゆらゆらと揺れている。

その小さな口も開けられている。

「な、何言ってるんだアリス!?そんなこと許されるはずがないだろう!?だって、アルマエルマには…」

アルマエルマには、大切な居場所がここにしかないっていうのに…!それはあまりにもひどすぎる。

居場所がなくなるなんて、そんな悲しいことっ…!!


彼女は目の端に雫を溜めたかと思うと、すぐに逆方向へ飛んでいってしまった。

「アルマエルマ!!待って!!」

僕はその姿を必死に追跡しようと駆け出すが、アリスが行く手を阻む。

「何をするんだよアリス!?今追わないと、アルマエルマがどこへ行っちゃうかわからないだろうっ!」

「それでいい、それが一番、幸せな選択だ」

「もういいっ!」
僕はアリスの手を振り払って、アルマエルマを追いかけた。

何が幸せなんだ!?アルマエルマを四天王から解雇したら、アルマエルマは不幸になってしまう…っ!!

「行くなルカ!!死ぬことになるぞっ!」

後ろで聞こえる叫び声も、今の僕を阻むには半端なものだった。

アルマエルマを見つけなければ…!

彼女の居場所を…。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「ふっ、逃げられてしまったのぅ魔王様」

「…」

「やはり今のルカにはアルマエルマしか眼中にないみたいじゃ、少しソッとしておいてもよかろう」

二人の会話をこっそり聞いている周りの長達も、何が起こったのかさっぱりわからないまま、呆然と立ちつくすのであった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アルマエルマが向かったであろう方向へ足を進めるが、空に飛んでいる姿が見られない。

先程まで晴れていた空は、今の僕の心境を表すかの如く、どす黒い雲を覆い始めている。

見つけられない、どこへ行ったのかさっぱりわからない。

そう、まだ僕は彼女について何も知らない、それが現状なのだ。

どす黒い雲から、溢れるように雨が降り始めた。

僕の体温を奪っていくには十分な雨の量と、周りは人間の視界を奪う闇に包まれている。

「だめか、だめだったか…」

見つけることはでき、ないのか。

知ることはできないのか、理解することは…。

「そんなの絶対に嫌だ、後悔なら後にするっ」

自分に言い聞かせるようにして、僕は風の力を使って同じく飛んだ。

アエルマエルマのような羽なんてないけど。

もしかしたら燃料切れで倒れてしまうかもしれないけど。

このまま、見つけられないままなんて、その方がよっぽど、嫌なんだ。

「アルマエルマ!!どこなんだっ!!答えてくれよ!!」

雨脚が強くなってしまって、僕の声は届いている様子はなかった。

だから暗い闇の中を駆けていく。

魔王城に広がる草原には人影らしいものは見当たらなくて。

魔王城の先にあるゴルド地方にも、山を越えたサン・イリア地方も

海を越えたイリアス大陸に来た。

大雑把に探していたため、もしかしたら見逃しているかもしれない。

それでも、可能性があるとしたら…。

「ハア、ハァ…」

ボロボロだった。

大陸をこの時間で越えたのだから当たり前だ。

僕が半分天使でなかったら、既に体が壊れてしまっているレベル。

母さんに感謝しなければいけないだろう。


もうメーターは限界を越えた数字を指しているはずだ。

イリアスベルクを横目に、イリアスヴィルへと足を進める。

あの神秘的な泉が横目に見えた。

その時、誰かと目が合ったそんな気がしたのだが。

僕はその思いを振り切って進んだ。

今は確実に彼女がいるであろう場所がある。

それは予想に過ぎないのか。

僕の家。

…扉は開いてなかった。

電気すらついていない。

しかし、彼女がいない理由にはならない。

そう考えて玄関を開けても。

静けさと闇が空間を支配しているだけだった。

誰かが新たに入った形跡もない。

両親の部屋にも、自分の部屋にも…。

失敗してしまったの、かもしれない…。

アルマエルマにはもう、帰れる場所がない。

僕が彼女の立場ならどうであろう。

アリスに四天王にやめろ、といわれ、種族からも拒絶されて。

信じられる人がいない


僕だって同じ状況になったことはあったけど。

こんな畳み掛けるように出来事が起きてしまうと、きっと心が押しつぶされそうになる。

僕にはわかる。



もしかしたら、自殺だって考えるかもしれない。

「そう考えたら、僕って以外と恵まれてるのかも」

僕はここにきて、似合わない程笑えてしまうのだった。

「何やってんだろ僕…ほんっと」


情けなくて、笑えてしまう。

足が強く、震えてしまっている。

それは疲れているためか、それともアルマエルマを探すことが出来ない不安のためかわからない。

イスに腰掛けて、拳を強く握り締める。そんなことしか僕にはできなかった。

「本当、いつも流されてばっかりで、それでアルマエルマを傷つけるなんて…」

あの時アリスに…。

「ほんっと何やってんだろう」

その言葉は闇に飲み込まれていった。

今まで何とかしてきたはずなのに。

確かに、繋ぎとめなければいけない時に限って。

失敗してしまうなんて…。


あきらめていた、もうあきらめようとしていたその時。

ドアがノックされた。