―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
―――――――――あれ、私どうしたのかしら…。
視界に映っているのは、今まさに太陽が落ちようとしている茜色の空と…。
建物の残骸らしきものが遠くまで転がっている。
視界の左右には幼い手の平を懸命に握って上下させていることから、自分が走っていることがわかる。
だけど、私には苦しい感覚も、瓦礫の山を走っている感触なんてない。
まるで、映像をそのまま、視界へ出力しているような感じである。
「ぉかあ、さん…おか、、、さん」
幼い少女の声が聞こえる。聴覚も共有しているのかしら…。
声音から、深刻な状況であることはわかった。
「おかあさん、おかあさんっ!おかあさん!」
涙混じった叫び声。
がむしゃらに走っている様子が流れてくる、あぁ、何かどこかの映画を見ているようだけど。
それでいて、なぜか他人事のように思えない、違和感。
しばらく瓦礫の山の光景が続いていたが、突然映像が乱れて、視界の二分の一が地面になってしまった。
どうやらこの子は転んでしまったようで、元々低かった視点が更に低くなっている
それでも必死に見上げている先には、ボロボロになった一軒の家があった。
―――――――――――っ!?
私は目を丸くしてその光景を眺めようとしていたが、次第に眩しい光が視界を奪っていく。
必死にその光景にすがろうとしたものの、私の前に映ったのは木造の天井。
「…あの家」
頭の痛みは自然と消えていて、窓からはオレンジ色の光が差し込んでいた。
それは、私が随分と寝ていたことを伝えていた。
「一体、どれくらい寝てたのかしら…」
上半身を起こすと、私の右手には白いワンピースが握り締められている
「…間違えて掴んでしまったかしら」
でも、何でこんなモノがルカちゃんの家に…。
はっ、まさかルカちゃんは好きな女性にワンピースを着せて楽しむという変態性癖の子なのかしら?!
と思ったけど、案外普通の性癖なのね…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
買い出しが終わり、家へ戻ってくるとアルマエルマの姿が見当たらない。
「風のように来ては去っていく、感じ。風を使う者として、本当に似合っているなぁ」
本当に帰ってしまったわけではないのだが、どうも目の離すことのできないヤンチャの子供のようである。
アルマエルマの性格から考えて家の中の捜索でもしたのだろう、特にベッドの下とか。
「僕の家は貧乏なのにな」
独り言を呟きながら、自分の部屋を覗いてみるもそこに姿はない。それに部屋を捜索した形跡というものも見当たらない。
「ここじゃないのか…」
だとしたら、両親の部屋になる、が。
両親の扉を少しだけ開けて覗いてみると、アルマエルマが横に倒れるような体勢で眠っていた。
「アルマエルマ、だ、大丈夫、なのかな」
苦しい表情を浮かべるアルマエルマの元へ近寄ってみると、きゅっと服の袖を掴まれてしまった。
「えっ…」
驚くこと数秒して、そっとアルマエルマの横へ腰掛ける。
…。
さっき僕がしてもらったように、頭を優しく撫でてみると、苦しそうな表情が和らいだ気がする。
「こういうのあんまりしたことないからなぁ…」
手に触れただけで、紫色に輝く髪の毛が丁寧に手入れされているのがわかる。
とても良い触り心地だった。
「おっとと、ここで夢中になっちゃだめだめ」
アルマエルマの手の力が柔らかくなったため、僕は優しく手を振りほどいて。
母さんの私物で、まだ残っていた白いワンピースを変わりに手の平へ置くと、変わり握り締めていた。
「おか、あ、さん…」
消え入りそうな声で呟いたアルマエルマ。
僕は心臓がつかまれてしまいそうになるほど驚いた。
なぜなら、自分の母親のワンピースを握り締めてお母さんと呟くものだから。
てっきりアルマエルマと血縁関係にでもあるのかと…。
「んわけないか」
当然である、どこも似てない。
だとしたら、考えれる可能性は一つしかないだろう。
アルマエルマの両親の夢を見ているということだ。
やはりアルマエルマには家庭内で何か問題があった様子が伺える。
それを、僕が首を突っ込んでいいかは全くわからない…。
「ここは大人しく引き下がっておくほうが、いいのかなぁ」
次期に話してくれる。
そう信じて、僕は食事の準備を始めようと思った。
いきなりどこかへフラフラ出て行ってないだけ、マシだろう。
起きたぐらいには料理も出来上がってるはずだから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
腕によりをかけて料理を作っている匂いにつられたのかは、わからないが…。
扉の開く音がして振り向くと、アルマエルマが立っていた。
「あぁ、起きた?」
なぜか手に握り締められているはずのワンピースを着用していた。
「これ、ルカちゃんの私物?」
「母さん、のだっ!」
僕がワンピース着ているみたいじゃないかっ!?
「あぁ、その可能性は予想できなかったわ」
一番高い確立なんですけど!?
「それより、白いワンピースなんか着て食事したら汚れちゃうよ…?」
すでにテーブルにおいてあった料理を見渡して、アルマエルマは横に首を振った。
「ううん、これを着てご飯が食べたいわ」
「そ、そう?」
「これ大切なお母さんの私物のよね?このまま食事しちゃって大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ?それにしても、母さんの私物着たいなんて物好きだね」
意図はさっぱりわからないけど、アルマエルマの自由にさせてあげたいという気持ちだった。
「いただきます」「いただっきますっ」
アルマエルマは料理を口に運んで「おいしぃ、本当に、おいしぃ」と呟いた。
「そ、そんなに?」
アルマエルマの驚き具合は度を越えていたので、多少動揺した。
口に運んだ後のスプーンを、目を見開きながら見つめているのだ。
「こんなにおいしぃ、料理、食べたの初めて、かも」
途切れ途切れにしっかりと繋いだ言葉に、嬉しさでいっぱいになるのは十分だった。
「ちょっとオーバーリアクションな気がするけど、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「ううん、食べたらみんなこんな反応になるわ」
「そうかなぁ?アリスはいっつもバクバク食べてたけど」
「魔王様…ちょっと羨ましいわ…」
それからも、アルマエルマは箸進めていき、口に運ぶたびに賞賛の声を聞くことが出来た。
「というより、手作りのご飯食べたの初めてだわ」
満足そうな笑顔を向ける。
「そうなの?…四天王が誰かの手作りの料理を食べているところなんて想像できないけどね」
「食事は精を頂ければいいわけ。だから、料理を食べるなんて 嗜むか腹ペコマンぐらいかしらね」
その腹ペコマンはあなたの上司です。
「でも、こんなおいしぃ料理なら毎日食べてもいいぐらいかも」
「えへへ、ありがとう」
あれ、アルマエルマを元気付けるためにご飯食べさせたのに、僕が満足しちゃって、いいのかな…?
「ルカちゃんありがとうね、気を遣ってもらっちゃって」
「あ、やっぱり気付いてたんだ」
「当たり前よ」
嬉しそうなため息がアルマエルマから漏れた。
食事が終わり、食器を片付けていると、辺りはいつの間にか暗くなり始めていたことに気付く。
「アルマエルマどうするの?」
「ルカちゃんが泊まっていいっていうのなら、泊まるわ」
「うん、気が済むまでここにいるといいよ」
僕は僕で久しぶりにここに帰ってくることができて嬉しかった。
あぁ、あの長かった旅も終わりを迎えたという実感が湧いてくる。
もうここで生活し始めてもいいんじゃないか。と思える程。
ここで、か…。
そういえば、ここのちょっと行った先にアリスが落ちてたんだよなぁ。
それからアリスを拾って…。
「懐かしい」
アルマエルマはやっぱり過去に何かあると思うけど。
みんなが頑張って平和を取り戻したこの世界で、必ずアルマエルマは必要とされる存在だから。
これからの未来は、楽しいことをしていきたいなぁ。
そんなことを思いつつ食器を片付けていく。
「私も手伝うわ」
「アルマエルマはお客さんだから、のんびりしてていいよっ」
すると、おでこをツンッと突くアルマエルマ。
「いーいーのっ、ルカちゃんと一緒に台所に立ちたいの」
「なにそれ」
「あはは」と笑いながら僕の隣で食器を拭く作業を始めるアルマエルマ。
「服、汚れちゃうよ…?」
「大丈夫、注意してやるから」
それからもずっとアルマエルマはワンピースを着用し続けているみたいだった。
お風呂から出た後も。
「そろそろ寝る時間だけど、まだワンピース…?」
「えぇ、私はコレで構わないわ」
微笑んで、両親の部屋のドアを閉めたアルマエルマ。
一体あのワンピースに、何の思い出があるっていうのか…とても気になる。
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END
間違えてデータ消したわ━。.゚+:((ヾ(。・д・)シ)).:゚+。━ぃ
―――――――――あれ、私どうしたのかしら…。
視界に映っているのは、今まさに太陽が落ちようとしている茜色の空と…。
建物の残骸らしきものが遠くまで転がっている。
視界の左右には幼い手の平を懸命に握って上下させていることから、自分が走っていることがわかる。
だけど、私には苦しい感覚も、瓦礫の山を走っている感触なんてない。
まるで、映像をそのまま、視界へ出力しているような感じである。
「ぉかあ、さん…おか、、、さん」
幼い少女の声が聞こえる。聴覚も共有しているのかしら…。
声音から、深刻な状況であることはわかった。
「おかあさん、おかあさんっ!おかあさん!」
涙混じった叫び声。
がむしゃらに走っている様子が流れてくる、あぁ、何かどこかの映画を見ているようだけど。
それでいて、なぜか他人事のように思えない、違和感。
しばらく瓦礫の山の光景が続いていたが、突然映像が乱れて、視界の二分の一が地面になってしまった。
どうやらこの子は転んでしまったようで、元々低かった視点が更に低くなっている
それでも必死に見上げている先には、ボロボロになった一軒の家があった。
―――――――――――っ!?
私は目を丸くしてその光景を眺めようとしていたが、次第に眩しい光が視界を奪っていく。
必死にその光景にすがろうとしたものの、私の前に映ったのは木造の天井。
「…あの家」
頭の痛みは自然と消えていて、窓からはオレンジ色の光が差し込んでいた。
それは、私が随分と寝ていたことを伝えていた。
「一体、どれくらい寝てたのかしら…」
上半身を起こすと、私の右手には白いワンピースが握り締められている
「…間違えて掴んでしまったかしら」
でも、何でこんなモノがルカちゃんの家に…。
はっ、まさかルカちゃんは好きな女性にワンピースを着せて楽しむという変態性癖の子なのかしら?!
と思ったけど、案外普通の性癖なのね…。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
買い出しが終わり、家へ戻ってくるとアルマエルマの姿が見当たらない。
「風のように来ては去っていく、感じ。風を使う者として、本当に似合っているなぁ」
本当に帰ってしまったわけではないのだが、どうも目の離すことのできないヤンチャの子供のようである。
アルマエルマの性格から考えて家の中の捜索でもしたのだろう、特にベッドの下とか。
「僕の家は貧乏なのにな」
独り言を呟きながら、自分の部屋を覗いてみるもそこに姿はない。それに部屋を捜索した形跡というものも見当たらない。
「ここじゃないのか…」
だとしたら、両親の部屋になる、が。
両親の扉を少しだけ開けて覗いてみると、アルマエルマが横に倒れるような体勢で眠っていた。
「アルマエルマ、だ、大丈夫、なのかな」
苦しい表情を浮かべるアルマエルマの元へ近寄ってみると、きゅっと服の袖を掴まれてしまった。
「えっ…」
驚くこと数秒して、そっとアルマエルマの横へ腰掛ける。
…。
さっき僕がしてもらったように、頭を優しく撫でてみると、苦しそうな表情が和らいだ気がする。
「こういうのあんまりしたことないからなぁ…」
手に触れただけで、紫色に輝く髪の毛が丁寧に手入れされているのがわかる。
とても良い触り心地だった。
「おっとと、ここで夢中になっちゃだめだめ」
アルマエルマの手の力が柔らかくなったため、僕は優しく手を振りほどいて。
母さんの私物で、まだ残っていた白いワンピースを変わりに手の平へ置くと、変わり握り締めていた。
「おか、あ、さん…」
消え入りそうな声で呟いたアルマエルマ。
僕は心臓がつかまれてしまいそうになるほど驚いた。
なぜなら、自分の母親のワンピースを握り締めてお母さんと呟くものだから。
てっきりアルマエルマと血縁関係にでもあるのかと…。
「んわけないか」
当然である、どこも似てない。
だとしたら、考えれる可能性は一つしかないだろう。
アルマエルマの両親の夢を見ているということだ。
やはりアルマエルマには家庭内で何か問題があった様子が伺える。
それを、僕が首を突っ込んでいいかは全くわからない…。
「ここは大人しく引き下がっておくほうが、いいのかなぁ」
次期に話してくれる。
そう信じて、僕は食事の準備を始めようと思った。
いきなりどこかへフラフラ出て行ってないだけ、マシだろう。
起きたぐらいには料理も出来上がってるはずだから。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
腕によりをかけて料理を作っている匂いにつられたのかは、わからないが…。
扉の開く音がして振り向くと、アルマエルマが立っていた。
「あぁ、起きた?」
なぜか手に握り締められているはずのワンピースを着用していた。
「これ、ルカちゃんの私物?」
「母さん、のだっ!」
僕がワンピース着ているみたいじゃないかっ!?
「あぁ、その可能性は予想できなかったわ」
一番高い確立なんですけど!?
「それより、白いワンピースなんか着て食事したら汚れちゃうよ…?」
すでにテーブルにおいてあった料理を見渡して、アルマエルマは横に首を振った。
「ううん、これを着てご飯が食べたいわ」
「そ、そう?」
「これ大切なお母さんの私物のよね?このまま食事しちゃって大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ?それにしても、母さんの私物着たいなんて物好きだね」
意図はさっぱりわからないけど、アルマエルマの自由にさせてあげたいという気持ちだった。
「いただきます」「いただっきますっ」
アルマエルマは料理を口に運んで「おいしぃ、本当に、おいしぃ」と呟いた。
「そ、そんなに?」
アルマエルマの驚き具合は度を越えていたので、多少動揺した。
口に運んだ後のスプーンを、目を見開きながら見つめているのだ。
「こんなにおいしぃ、料理、食べたの初めて、かも」
途切れ途切れにしっかりと繋いだ言葉に、嬉しさでいっぱいになるのは十分だった。
「ちょっとオーバーリアクションな気がするけど、そう言ってもらえると嬉しいよ」
「ううん、食べたらみんなこんな反応になるわ」
「そうかなぁ?アリスはいっつもバクバク食べてたけど」
「魔王様…ちょっと羨ましいわ…」
それからも、アルマエルマは箸進めていき、口に運ぶたびに賞賛の声を聞くことが出来た。
「というより、手作りのご飯食べたの初めてだわ」
満足そうな笑顔を向ける。
「そうなの?…四天王が誰かの手作りの料理を食べているところなんて想像できないけどね」
「食事は精を頂ければいいわけ。だから、料理を食べるなんて 嗜むか腹ペコマンぐらいかしらね」
その腹ペコマンはあなたの上司です。
「でも、こんなおいしぃ料理なら毎日食べてもいいぐらいかも」
「えへへ、ありがとう」
あれ、アルマエルマを元気付けるためにご飯食べさせたのに、僕が満足しちゃって、いいのかな…?
「ルカちゃんありがとうね、気を遣ってもらっちゃって」
「あ、やっぱり気付いてたんだ」
「当たり前よ」
嬉しそうなため息がアルマエルマから漏れた。
食事が終わり、食器を片付けていると、辺りはいつの間にか暗くなり始めていたことに気付く。
「アルマエルマどうするの?」
「ルカちゃんが泊まっていいっていうのなら、泊まるわ」
「うん、気が済むまでここにいるといいよ」
僕は僕で久しぶりにここに帰ってくることができて嬉しかった。
あぁ、あの長かった旅も終わりを迎えたという実感が湧いてくる。
もうここで生活し始めてもいいんじゃないか。と思える程。
ここで、か…。
そういえば、ここのちょっと行った先にアリスが落ちてたんだよなぁ。
それからアリスを拾って…。
「懐かしい」
アルマエルマはやっぱり過去に何かあると思うけど。
みんなが頑張って平和を取り戻したこの世界で、必ずアルマエルマは必要とされる存在だから。
これからの未来は、楽しいことをしていきたいなぁ。
そんなことを思いつつ食器を片付けていく。
「私も手伝うわ」
「アルマエルマはお客さんだから、のんびりしてていいよっ」
すると、おでこをツンッと突くアルマエルマ。
「いーいーのっ、ルカちゃんと一緒に台所に立ちたいの」
「なにそれ」
「あはは」と笑いながら僕の隣で食器を拭く作業を始めるアルマエルマ。
「服、汚れちゃうよ…?」
「大丈夫、注意してやるから」
それからもずっとアルマエルマはワンピースを着用し続けているみたいだった。
お風呂から出た後も。
「そろそろ寝る時間だけど、まだワンピース…?」
「えぇ、私はコレで構わないわ」
微笑んで、両親の部屋のドアを閉めたアルマエルマ。
一体あのワンピースに、何の思い出があるっていうのか…とても気になる。
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間違えてデータ消したわ━。.゚+:((ヾ(。・д・)シ)).:゚+。━ぃ