その後も、アリスがグランベリアのように突撃してきたり、エルベティエに絡まれたり(いろんな意味で)して、やっとこさ魔王城を出て行き、みんなに挨拶しようとした時。


「あら、ルカちゃんじゃない、起きたの?」

その声は…と振り向くと、紫の色のロングへアーを風になびかせているアルマエルマがいた。

そういえば、四天王で唯一アルマエルマが来ていなかった。


「アルマエルマも久しぶりだね。心配かけちゃったみたいだし」

すると、アルマエルマは優しい笑みを浮かべて横に首を振った。

「ううん、ルカちゃんタフだし、きっと起きてくれるって思ってたわ」

半分人間じゃないし、治癒能力も高いからね。

でも、そんな理屈じゃなくて。

何か違う確信があるんじゃないか。アルマエルマの表情に僕はそんな風に感じた。

「そっか、四天王のみんなも元気そうだったから一安心だよ」

「どちらかとうと、元気か心配だったのはルカちゃんなんだけどね」

あははっと二人は笑いあう。

あれ、なんだろうか、アルマエルマの何かが変わったような。


んむぅぅ…わからない。

柔和になった?

「ところで、どうしたの?」

「どうしたのっていうのはひどいわねぇ」

「ご、ごめん、でも言葉見つからなくて」

でも終始温かい笑顔なアルマエルマだった。

「うーんと、ルカちゃん私と一緒に、サキュバス族の村へ行ってほしいんだけど、どうかな?」

「ん?大丈夫だよ」

どうせ、全ての村を周る予定だったから特に変わらないだろう。


「じゃ、私の手を握っててね」

「う、うん」

何か嫌な予感がした僕は、少しだけ躊躇しつつ、アルマエルマの手を握る。

すると、体が地面から浮き上がって、木よりも高く飛び上がった。

僕はアルマエルマに吊るされる感じで青空の下を飛んでいる。

はっきり言うとすごく怖いです。

「ちょ、ちょちょ、他に飛んでく方法なかったの?」



「背中に乗せても良かったけど、羽が少し邪魔なのよねぇ…」

僕は鳥に捕まってしまって、巣に連れて行かれる獲物のような格好で目的地へと向かうのだった。

こう言ってしまうと、サキュバスに捕まって、サキュバスの群れに連れて行かれるような気分になる。

「仕方ないわね」

アルマエルマは僕を軽々と持ち上げると、両手で抱きつく様な形で飛び始めた。

アルマエルマの豊満な胸が僕の顔に押し付けられる。

えっ、そういう体面で抱きつく…?普通に逆じゃ…。

恥ずかしさと、なぜだか木々の上を飛んでいるのも関わらず人々の視線があるんじゃないかという思いが体温を上げる。

「アル、マエルマ…む、胸当たってる」

きっと言われなくてもわかっているはずだけど…。

「あら、ごめんなさいね、うふふっ。もう少し我慢してて」

しかし大人の余裕というのだろうか、僕がやっとこさ恥ずかしさの中で搾り出した一言も、簡単に足払いされてしまったのだった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


アルマエルマはサキュバスの村とは少しだけ離れたところに着地した。

「あれ、ここでいいの…?」

村の中心はずっと向こうなはずなんだけど…。

「いいのよ、ついてきてね」

アルマエルマはそう言って、サキュバスの村とは逆方向の、そう深くはない森の中へ入っていった。

「ちょ、ちょっと…」

急いでアルマエルマを追うと、そこにはひっそりと佇んでいる家があった。

もうボロボロで手入れが全くされていないことから、人が住んでいる様子もない。

しかし、一体なんでこんな外れた森に家があるのだろうか。

「アルマエルマ、この家は…」

少し先を行くアルマエルマへ言葉をかけると、彼女はゆっくりと振り向いて。



――――――――――「私の両親の家よ」




アルマエルマの一言で、僕は彼女がどのような人生を歩んできたのか興味を持った。


今まで、掴み所のなく、風のような軽いイメージの彼女。

もしかしたら、それは真実を隠す分厚い壁なのかもしれない。

僕はそう思えて仕方なかった。

そう、取り繕っているのだと

上辺だけなのだと。


それでも、どうして僕をここに連れてきたのかはわからなかった。



―――――――――――――――――――――――――――

今回は、主人公がアルマエルマになる場面も・・・っ!