気が付くと、彼女の手を握ったまま僕は眠ってしまっていたらしい。

スライム娘やエルベティエ、たまもはすでにいなくなっていて、明け方の日差しが窓から差し込み始めていた。

閑散としたその場所に取り残されていたのは僕とパピー。

どうして、エルベティエ達がいなくなったのか、それはなんとなくだが僕にはわかる気がした。

彼女たちが自分の役目を終えていないのに、どこかへ行ってしまうわけがない。

それは結末を意味している。

ただそこにしっかりと居座っている、沈黙だけがその事実を示していた。

脳みそに血液が巡っていくのがわかる。

心臓の鼓動のたびに、僕の思考回路は回復しつつあった。

手足の感覚が戻ってくるのを感じたが、僕はそれを手放したくなる。

この世界から消えてしまいとも思った。




なぜなら




--------彼女の手はもうすでに、その熱を保っていなかった。



「嘘だよね…」


しかし、その質問に答えてくれる者などいない。

ずっと眠ってしまっていたから、どのような経緯なのかもわからない。

そんな情けない勇者なんだ、僕は。


「パピー、起きてよ、まだ旅は続いてるんだよ?」

体全体に熱がこもっていくように感じた。

この熱をパピーに与えてやりたい、そうしたら、この冷たい手から感じられるはずだから。

そのゆくもりを。


「パピー、パピー!!」

体全体の水分が蒸発していくのに、目元からは涙が溢れてきた。

彼女の手だけでは、わからない。

僕は彼女の体を抱きしめた。

「パ…ピィ…」

とても苦しそうな表情のまま、彼女は息絶えてしまっていた。

彼女の明るい笑顔は既に失われている。


ドラゴン族特有の、高い体温は感じられない。

既に冷え切ってしまった彼女の体からは、死の匂いがした。

それが、僕の涙腺を更に崩すだけには十分だった。

涙が彼女の肩へ落ちては、肌を濡らす。


奇跡が起きるのなら、彼女の命を生き返らせて欲しい。


今ならどんなものにだってすがりつく覚悟がある…。

「パピー…応えてくれないんだね…」

彼女の表情は、昨日のまま、辛そうで、苦しそうだった。

どうにかして、彼女の表情を変えたいと思った。

それが、僕にできる最後のことだと思った。

だから、僕は

彼女の顔が安らかになるように。

そっとキスをした。

これが僕とパピーの最後だった…。

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