僕が四天王と戦っている時といい、イリアスと戦っている時といい、四天王にはとてもお世話になった。

僕を強くしてくれて、守ってくれた四天王。

次はいつか、僕が…。

「ルカは知り合いが多いのだな」

「あら、初めまして、ね?」

アルマエルマはパピーと同じぐらいに屈んで、お茶目な笑顔を見せた。

「紹介するよ、こちらはドラゴンパピー。僕が旅の途中で会った魔物だよ」

「初めましてなのだ」

パピーは元気いっぱいに笑顔を見せてくれた。

あぁ、よかった、笑顔が見れて。

「アルマエルマよ。以後よろしくね」

キラッと星出るかと思うわせるほどかわいらしいウィンクをみせる。

「おい、アルマエルマ」

すると、更に聞き慣れた声がアルマエルマの背後から聞こえた。

「この声は…グランベリア?」

身長の高いアルマエルマによって遮られていたためか、グランベリアは僕を見つけると目を大きく見開き。僕の両腕を両手で押さえ込むように掴んだ。


「ル、ルカ!!もう歩いて平気なのか?」

「あぁ、大丈夫だよ…。ちょ、力、つよっ」

「あ、あぁ…すまない」

グランベリアの怪力が次第に抜けていくと、僕の腕が広がっていくような感覚。

そういえば、そうだったな…。

僕は一ヶ月程寝たきりであった。もしかしたら、死んでいたかもしれない。

「全く、心配かけるようことはするんじゃない」

僕の容態が変わりないことを確認したのか、グランベリアは安堵して僕にデコピンをした。

その鋭い爪でデコピンをしたら傷ができて血がでるんじゃないかっていう…。

血は出てないけど痛い。

「私はルカちゃんがきっと戻ってくるって信じていたわよ。それにしても、グランベリアちゃんたらお母さんみたいなこと言うんだから」

額を抑えている僕の上から、アルマエルマの包容力のある声が聞こえた。

ふふっと笑って口を押さえるアルマエルマ。

でも、そんなアルマエルマの方がグランベリアのお母さんぽかった。

「ルカは一体どういう状況だったのだ?」

あまり僕に関しての事情を知らないパピーはそう聞いた。

「ルカちゃんはね、イリアスとの戦いで一ヶ月ぐらい寝込んでたの」

「そ、そうだったのか!?全く知らなかったのだ」

「それを公表してしまうのもまずかったからな、一応伏せておいたのだ」

アルマエルマの続きをグランベリアが言う。

自分でこれを言うのもなんだが、世界を救った勇者が寝込んでいたまま起きてこないなんて話になったら、世界中は大騒ぎになってしまうだろう。

なんの騒ぎかわからないけど。



「こ、公表って、なん、なのだ…?」

パピーが驚いたのはその点だった。

そうか…。

「あぁ、この二人は四天王なんだよ」

「しししし、四天王…!?」

四天王ってそんなに知られていないのか?

その場でガクガクブルブルし始めるパピーを、グランベリアは凝視した。

「それにしても、お前は…」

僕はそのグランベリアの姿を見て冷や汗を浮かべる。

クィーンハーピーと同様、グランベリアもパピーについて気が付いてしまったことあるのだろうか…。

確かに、ドラゴンと似た形相をしているグランベリアは更に詳しいのかもしれない。

でも、またその話をされると…。

「ルカの恋人か何か、か?」

グランベリアが鋭い視線をパピーに向けて、僕の予想の180度逆のことを言った。

パピーは今にも泣き出しそうな勢いで縮こまって、僕の服を強く掴んでいる。

「グランベリアちゃん、パピーちゃん泣かせるようなことしないの」

めっ!とされるグランベリアとアルマエルマは親子みたいだった。

「いや、しかし…」

グランベリアも自分がパピーにしたことに気づいたのか、ハッと我に帰ってから咳き込んだ。

被害者のパピーは現在震え中。

「パピー、僕の友人だから大丈夫だよ」

パピーの頭を優しく撫でてあげると、幾分か震えが収まった。

「グランベリア、この子とは旅の途中で会った仲だよ」

「そうか、こ、恋人とかではないんだな…?」

さっきしっかりと恋人と言っていたのに、今更頬を赤くするグランベリア。

「あら、赤くなってかわいい…」

「ふんっ!!!」

ちょっかいを出そうとしたアルマエルマの目の前で力強い握りこぶしを作るグランベリア。

つまり 潰すぞ。と言いたいのだろう。


ちなみにまだ頬は赤いままである。

「で、どうなのだルカ!!恋人でなかったら…もしかして、夫婦なのか!?」

なんだか興奮して僕の話を聞いていないようだ。なんか悪化していないか?

「いや、だから旅の途中で会った仲だから、そんなんじゃな、いたっ!」

痛みの先にはパピーがその爪で僕の腕を突っついていた。

「むぅぅ…」

少しだけ震えて、瞳には涙を溜めている。

しかし、その表情から読み取れるのは

不機嫌。

「え、えぇ…」

これじゃあ、八方塞がりじゃないか…!

「グランベリアちゃん 発情しすぎよ、もう…」

そこは興奮しているという使い方をして欲しかった。

相変わらずアルマエルマはグランベリアにちょっかいを出して楽しんでいる。


「だ、だ、誰が発情しているだと!?」

グランベリアには予想通り、大変挙動不審になっておられる。

アルマエルマに喰ってかかろうとするが、なんとか我に返ったふりをして平然を装う。

あまりに取り乱すのが自分らしくないというのは感じたのだろうか。

「そう、グランベリアちゃんは発情しているのが普通なのね」

「なるほど」

僕も納得する


「違うわっ!!」


グランベリアの人を刺すような視線も、その表情によってなんとか緩和されていた。

「ルカは誰が好きなのだ?」


クイクイッと服を引っ張るパピーはまだ拭いきれていない涙を溜めながら、上目遣いで聞いてきた。

パピーが爆弾を投下したっ!

「い、いや、そんな人…」

「そ、そうだ!ルカはどうなんだ?」

と僕へ話題が向いたのを好機と読んだのかグランベリアも食いついてくる。

さすが凄腕の戦士だけあって、ちゃんと矛先の向けるタイミングもわかっていらっしゃるようだ。

すごく迷惑。

「私も気になるわ、ルカちゃんったら誰に惹かれているのかしら?」

「い、いないって言ってるじゃないか!アルマエルマ勘弁していただけないでしょうか」

「なんでアルマエルマだけなんだっ!」

グランベリアはつり目である。

この状況が漫画だったら、絶対カッ!という文字が使われているに決まっている。

正直、イリアス戦よりこの話は怖い展開になりそうなのだ。

アルマエルマはアルマエルマで話術が巧みなので、やめていただきたい。

「ふふ、そうね、そろそろ私達はお暇しましょ?」

「色々と気になるところだが…。まぁ、コロシアムでお前の泣き顔が見れるのが楽しみだな」

挑戦的な笑みをアルマエルマへ向ける。

四天王なんだから仲良くすればいいのに…。

「もしかして、二人は戦うの??」

「えぇ…真剣勝負は見世物じゃないとか、よく言っていたのにねぇ」

「今日は卑怯な技を使わず、正々堂々と戦うのだ、いいなっ!」

「わかっているわよ」

えーと、それってかなりまずいんじゃ…。

「ちょっと!二人が真剣勝負したら大陸が吹き飛ぶぞ!?」

「大丈夫よ、私がてきとーにあしらっておくから、今日はつまんないバトルになりそうねぇ」

「それは真剣勝負とは言わぬぞっ!?」

グランベリアは確かに剣の技ではそこらへんの腕の立つ魔物でも敵わない。

しかし、アルマエルマはクィーンサキュバスという地位でありながらも、肉弾戦を得意としている。

これはとても分が悪い。懐に入られてしまえばグランベリアの剣より、鍛え抜かれたアルマエルマの拳の方が先にクリティカルヒットするに決まっている。

アルマエルマは風の使い手で素早いのも特徴…。

「グランベリア、やめたほうがいいんじゃないのか」

コロシアムは観客もいるのに、四天王が負ける姿なんて…。


ていうか、コロシアムで戦う必要あるのか…?


「ふっ、私がこの一ヶ月何もしないで生活をしていると思ったか?」

「ま、まさか…」

「今はグランゴルド城(アント達が住んでいる城)で剣の指導をしているが、私も訓練を怠っているわけではない。対アルマエルマ用にな」

キリッとした笑みをこぼすグランベリア。

…魔王城でやってください。

「世界を旅した勇者だけあって、ルカは知り合いが多くて羨ましいのだ」

「そうかな?」

四天王の二人がコロシアムへ向かったと同じくして、僕達もプランセクト村へ向けて歩き始めていた。

「でも、ごめんね、僕達ばかり話し込んじゃって」

「いいのだ、ルカ達の話を聞いてると楽しいのだ、それに、ルカの色んな事を聞けるから面白いのだ」

へっぽこ勇者の時にパピーと出会ってから、次に会ったのは天使が攻め込んできた時だったから。

パピーは僕がどんな旅をしてきたのかあまり知らないのか。

知っててもアリスぐらいだけど。

「あたし、ルカの事あまり知らなかったのだ。だから一緒に旅をして知ってみたいとも思ったのだ」

「そうか…そういえばさ、どうしてパピーは僕についてこようって思ったの?」

「う…ん、なんとなくなのだ」

息詰まるような口調の後、パピーはそう答えた。

「そっか、まぁ、旅なんてそんなもんだよね」

目的があることもいいけど、こうやってフラッと気分で旅するのも楽しい。

平和になった世界だからこんなことができる。

「以前の世界だったら、パピーを旅に何か連れて行くなんてできなかったね」

あの時のへっぽこ勇者がそれを考えたかはどうかは不明であるが。

「うむ、これもルカのおかげなのだ」

そうやって、パピーは僕を褒めてくれた。

素直に嬉しい。

まるでこれを言われたいがために、この会話をしたように見えるが、見間違いだろう。

「……それよりルカ、この子は誰なの?」

と、そこで一人のねっとりと耳に絡みつく女性の声が聞こえた。