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世界への驚異が消え去り、一ヶ月ほど眠りについていた僕は今まで出会ってきた魔物達へ会いに行っていた。

最初は、僕が育った村へあいさつに行き、次は、初めてグランベリアと対峙したり、盗賊団三人組が生活する街。

「イリアスベルク」に到着したのだった。

ここの町の高級宿サザーランドのおばさんにはとてもお世話になったので一言あいさつに行くと、プチラミアと一緒に出迎えてくれた。


プチラミアはあまあま団子が作れるようになったから今度ご馳走してくれると言った。

今度、アリスと来れば喜ばれそうだな、僕の分無くなりそうだが。

そして、宿の裏口に来て欲しいというお願いをされた。

「…た、多分、い、行くよ」


何か嫌な予感もするので僕は返事を適当に濁らせて次の街へ移動することにした。

すごくやっちゃいけないような気もしたが…。

まぁ、チビ達はこの村で仲良くやってるし、魔物と人間の共生を望む身として一番理想の形だからね。わざわざ僕が介入しなくても大丈夫なはず。

「…カ、ルカ!」

と、ハピネス村(ハーピーと共存している村)へ行こうとした矢先に、僕は聞き覚えの声の呼び止められる。

振り向くと、小さい体で尻尾を左右に振りながら走ってくるドラゴンパピーの姿があった。

ちなみに、ここでいう尻尾を振るというのは、犬が好意の表現でやるものではなくて、一生懸命走ってくるから尻尾が右へ左へと動いてしまっているのもの。

「パピーじゃないか」

宿の裏口で待っているというプチラミアのセリフを思い出して、何か嫌な予感がしてしまった。

「どうして行ってしまうのだ。待っていたのに」

パピーは不機嫌そうにそうは言う。

なんか 裏口っていうところが怪しいわけで…。

はっ、僕は疑うなんて真似を…!

今更遅い。

「ご、ごめんよ。旅で出会ってきた魔物たちに挨拶しにいくから先を急いでて…」

魔王城からここへ来るまでクリック一つなのだが、どうしてイリアスベルクへ来るまでの道のりのついでに他の街へ行かなかったのか、僕を操作するプレイヤーさんに問いたい。

というメタイ発言は置いといて。

「そうか…。引き止めてしまって悪かったのだ」

純粋無垢というのだろうか、パピはすぐに納得してくれた。

僕がパピーを騙しているような感覚になるのはどうしてだろう、なんか罪悪感が…。


「う、うーん…。裏口にはいけないけど、パピーが何かやりたいこととかあったら、僕が協力するよ?」

せめての罪滅しとなれば…。

僕がパピと同じ身長まで屈んでやると、パピは元気よく頷いた。

「あたし、ルカと一緒に旅をしてみたいのだ!!」

そう言い放った。

冗談じゃないよね?と問うまでもなくパピの瞳は輝いていた。

「んーと…仕事している鍛冶屋はいいのかな?」

パピは確か炎が吐けるはずだから、鍛冶屋で雇ってもらっていたはず。

「親父さんには言ったのだ。ルカの名前を出したら「行ってこい!!」って元気よく言われたのだ」

「そ、そっか…」

親父さんとの話がもうすでについているなんて…。

この会話に誘導して、まさか、策士?

親父さんはせめて、引き止めてあげてください。

「う、うん、じゃあ一緒に行ってみる?」

「うんっ!」

ここで断ったら、パピーはおとなしく引き去ってくれるのだろうけど。

僕の罪の意識が更に重くなる気がして、少しだけでも旅を経験させてみようとか思った。

飽きれば自分から帰ると言い出すだろう。

「それじゃあハピネス村に向かうからね」

「わかったのだ!」



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ハピネス村へ到着した。

パピーはイリアスベルクからハピネス村へ行くまで、今までのどんな仕事をしたのかや、僕がいない間ににどんなことをやっていたのか話してくれた。


アリス以外と旅をするのは初めてだから、彼女の小さな歩幅に合わせて歩いたり、笑顔で話してくれるパピー、様々なものが新鮮であった。

「あら、勇者ルカではないですか」

村へ入ると、まるで待っていました!というようにクィーンハーピーが現れた。

先ほどのパピー達と言い、なんだか待ち伏せされているような気がしてならない。

「勇者ルカ、あなたのおかげで世界が救われまし、た」

とクィーンハーピーはなんだかどこかで聞いたことのあるセリフを言おうとして、僕の隣にいたパピーを凝視した。

「あの、そちらの方は…あのグルメな旅人ではないですよね」

クィーンハーピーが言いたのはアリスのことだろう。もういい加減魔王様と呼んでもいい気がするけど。

「あぁ、ちょっと事情がありまして、ついてきたいって言うもんですから」

「…そうですか、それにしてもとても珍しい種族を従えているのですね勇者ルカ」

珍しい種族?パピーが…?

そういえば旅の途中でドラゴン族には何度か会ったことがあるけれど

パピーのようなドラゴン族には会ったことはなかった気がする。

似ていると言えばグランベリアぐらい。

「もう数が激減してしまっている種族の生き残りでしょう…。ドラゴン族は元々、種族自体が希少ですから」

「そ、そうなんですか?」

そんなこと、アリスでさえ言ってなかったというのに、どうしてここまでクィーンハーピーが知っているのだろうか。

「不思議そうな顔していますね、私はクィーンハーピーですよ。空を飛ぶものには自然と知識が舞い込んでくるものです」

僕達、人間とは計り知れない時間を生きている魔物だからこそなせる業なのかもしれない。

パピーは少しだけ寂しそうに僕達会話を聞いていた。

平気を装っているパピーの頭を僕は優しく撫でてあげた。

「すいません、少しだけ話しすぎてしまったようですね」

クィーンハーピーは申し訳なさそうに目を瞑る。

「我々ハーピー族は勇者ルカに、とてもお世話になっております。特別なご馳走を用意しておりましたが、日を改めてる方がいいでしょう」

「えぇ、申し訳ないです」

「いえいえ、困ったことがありましたらなんでも聞いてください」

そう言って、クィーンハーピーは去っていった。

気が付くと空はオレンジ色染まっている。随分と話し込んでしまったようだ。

「パピーには色々と聞きづらかったよね。ごめんね」

「いいのだ、事実だからな」

パピーはそう肯定する。

「そうか…話せるようになったら話して欲しいな」

この村にお世話になるわけにもいかないので、僕とパピーは村とは少し離れた草原で暖を取ることにした。

途中で村人に泊まっていくように誘われたが、丁重にお断りする。

「少し風に当たってきていいか…?」

僕が頷くと、パピーは林の方へ入っていってしまった。

「急にシリアスな話になるから、よくわからない…な」


燃えている木々を見ながら、そう呟くことしか僕にはできなかった。

つらい過去がある。

僕には両親がいないし、母さんが病にかかり、村の人たちに邪魔者扱いされていたこともあった。


でも、そんな僕のことを知っている人は、ひと握りしかいない。

もう僕は吹っ切れてしまっているけど。

踏み込んでしまったら、いけないことがある。

僕は果たしてパピーの問題に足を突っ込んでしまっていいのだろうか…。


彼女の元気な姿を奪ってしまって

いいのだろうか。


茂みをかき分ける音が聞こえて、パピーの姿を捉える。

パピーの目はやはり  寂しそうだった。



「あたし達の種族は 人間と共存を望んだ種族だったのだ」


静かな闇を揺らしたのは

パピーのいつもより低い声だった。


「だが、人間達はあたし達を魔物というだけで忌み嫌い。討伐を行い、あたし達の種族は激減したのだ」



その一言に僕は驚きで言葉を失ってしまった。









パピーの手は、声は震えていた。

それがどれだけつらい過去だったのか…。

そんなレベルじゃない。

僕の想像を超えていた。


果たして


僕がパピーの隣にいていいのだろうか。






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以前投稿した一話は予告編のようなものです。同じ文章ですが汗