翌朝、窓から差し込む朝日が視界を照らすと同じに、体全体に感覚が戻ってくる。
と、お腹の方に感じるはずの無い重みと圧迫感が・・・。
「よ、妖狐か・・・」
妖狐が寝ていたベッドは、妖狐だけが切り抜かれたような形で佇んでいた。
僕が身じろぎをすると、妖狐は「ぅん・・・」と声をあげて眠たそうに瞼を開く。
「な、なんであたしのベッドで寝てるのルカ・・・?もしかして夜這い・・・?」
「なんでそういう解釈になるの!妖狐が僕のベッドに潜り込んできたんじゃないか」
妖狐は手足全てを使ってかなり強く抱きついてしまっている。
これを僕がやるのはさすがに難しすぎるよ!
「ルカは意外に激しいのが好きなんだね」
「どうしてそうなるの!?」
そして、微かにお腹の部分が濡れていることに気づいたが、僕は黙っておくことにした。
妖狐をどけて、一緒に居間へ向かうとたまもが椅子へちょこんと座っていた。
「…なんでいるんだたまも」
この家の大きさからして、もう一人ぐらい狐がいてもおかしくはないが…。
「まぁまぁよいではないか」
たまもは妖狐へ朝食を作るように指示をして、僕は対面する椅子へ座る。
「で、何の用事なんだよ?」
「用というほどのことではないが、ウチは少しの間村を離れて仕事をしにいくのじゃ」
たまもは「それを伝えにきたついでにご馳走になりに来た」とニコニコしながら言う。
近くの台所で料理をしている妖狐の耳にしっかりと届いてるようで、後ろ姿からでも耳がピクピクこちらへ反応しているのがわかる。
そんなに気になるのか…。
僕は久しぶりに平和な日常を見た気がして、心が暖かくなった。
「妖狐は料理ができるんだね」
「ウチもできるぞ?と言っても、ここに住む大半の住人ができるがの」
ほかの魔物と違って男性と寄り添って生きていく種族であるため、家事は基本中の基本。と説明を付け加えた。
七尾さんは本当にできるのか心配になってきた。
体型的な意味で。
「たまもは料理下手そうだな」
「どういう意味じゃっ!!」
ショックを受けつつも反発的な表情で身を乗り出す。
「全く、お主に今度はウチの手料理をご馳走してやるわ。ミミズn「それ以上はやめてくれ」
たまもはやっぱり料理が下手であることが発言から明らか。
すると、目の前に簡単な朝食が運ばれてくる。
反射的に手伝いをかって出て、一緒に料理を運んでいると、たまもから「初めての共同作業じゃな」と茶化された。
妖狐の顔は朝っぱらから真っ赤である。
「きつねの里での初夜は激しかったのかの?」
「そんなわけないだろっ!!」
冷静に対処していた僕もついに身を乗り出して反発してしまった。
たまもは本当に食事をしにきただけなようで、伝えることだけ伝えると帰っていってしまった。
「わかっておるな、ルカ」と言いたいような視線を僕へ送ったあと。
「じゃあ、今日はルカとデートがてらに里を散歩しよっか!」
妖狐は何か思ったのか突然そう切り出すと、僕の腕を絡めて歩き出した。
戸惑いつつも、特にやることもない僕は妖狐についていくことにした。
里の住人たちは笑顔で僕達にあいさつをしてくれる
「おはよう、ルカ、妖狐」「おはようございます、ルカさんに妖狐ちゃん」
僕は、まるで昔からこの里に住んでいるかのような感覚を覚えて
それは、僕が住んでいた村でよくある光景だった。
ここに住んでいれば、とっても''幸せ''なんだろうな。
僕はつい、そう考えてしまうのだった。
一通り里を一周してから、里の外れにある、小さな丘と大きな木の下で
僕と妖狐は肩を並べて里を眺めていた
「この里はのんびりしていて、住みたいと思えるね…」
「ルカはもうここに馴染んでるね」
馴染んでいるというよりかは、ここの住人たちがとても親切なのだ。
僕は昨日来たばかりだし。
「でも、僕はまだ、迷っているのかもしれない」
妖狐と夫婦になってから日が立っているものの、心の整理がつかないことがいくつかあった。
突然夫婦となったことは当然のこと。
アリスのこと、この世界の、こと…。
そして、出会ってきた人々のこと、魔物のこと。
本当にこの村で僕が、のんびりと過ごしてしまっていいのだろうか。
あらゆる荷物をまだ背負っている僕がここにいて、いいのだろうか。
「ルカがまだ、受け入れられないのはわかるよ。これは狐の掟だし、ルカは人間だからね…」
「でも、あたしを置いて行くなんてことはしないでね」
ぼそっと呟いた言葉を僕が掴むことはできなかった。
しかし、妖狐の表情に憂いをおびているのを僕は感じた。
妖狐は僕の方へ振り返り
「ねぇ、ルカ、どこか遠くへ行かない?」
その瞳を僕に向けて、突然、予想だにしていない言葉を口にする。
今までこの里を目指して来て、昨日歓迎会を終えた僕たち二人の間で交わされる会話ではまずないはず、なのに。
僕たちの間に一際強い風が通り過ぎる。
「どうしてそんなことを?」
僕は単純に聞き返すことしかできない。
今までの努力が無駄になるのではないか、とか、そういうことを思っているのではなくて
妖狐の本音が聞きたかった。
「あたしはこの里が嫌い…里のみんなは親切で人当たりがいいけど、それが逆に怖い」
じゃあどうしてこの里へ来たのか。と質問しようとしたが、それがきつねの風習なのかもしれないと思った。
そして、妖狐は僕の思考を読んだかのように「きつねの里へ帰ってきて儀式を行えば、夫婦としてきちんと認めてもらえるから」と言う。
儀式というのが昨日の歓迎会だとしたら、僕はすっかり騙されてしまったわけだ。
「あたし達はもう立派な夫婦になったわけだし、今からどこへ行っても何の心配もないの」
「だから、あたしのことを知らない土地へ行って、のんびり暮らそ…?」
少しだけ目を伏せた妖狐はそう呟く。
どうして、そこまでしてこの里を離れたいと思うのか。
不思議で気になった僕は、首を縦に振ることはなかった。
続く
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と、お腹の方に感じるはずの無い重みと圧迫感が・・・。
「よ、妖狐か・・・」
妖狐が寝ていたベッドは、妖狐だけが切り抜かれたような形で佇んでいた。
僕が身じろぎをすると、妖狐は「ぅん・・・」と声をあげて眠たそうに瞼を開く。
「な、なんであたしのベッドで寝てるのルカ・・・?もしかして夜這い・・・?」
「なんでそういう解釈になるの!妖狐が僕のベッドに潜り込んできたんじゃないか」
妖狐は手足全てを使ってかなり強く抱きついてしまっている。
これを僕がやるのはさすがに難しすぎるよ!
「ルカは意外に激しいのが好きなんだね」
「どうしてそうなるの!?」
そして、微かにお腹の部分が濡れていることに気づいたが、僕は黙っておくことにした。
妖狐をどけて、一緒に居間へ向かうとたまもが椅子へちょこんと座っていた。
「…なんでいるんだたまも」
この家の大きさからして、もう一人ぐらい狐がいてもおかしくはないが…。
「まぁまぁよいではないか」
たまもは妖狐へ朝食を作るように指示をして、僕は対面する椅子へ座る。
「で、何の用事なんだよ?」
「用というほどのことではないが、ウチは少しの間村を離れて仕事をしにいくのじゃ」
たまもは「それを伝えにきたついでにご馳走になりに来た」とニコニコしながら言う。
近くの台所で料理をしている妖狐の耳にしっかりと届いてるようで、後ろ姿からでも耳がピクピクこちらへ反応しているのがわかる。
そんなに気になるのか…。
僕は久しぶりに平和な日常を見た気がして、心が暖かくなった。
「妖狐は料理ができるんだね」
「ウチもできるぞ?と言っても、ここに住む大半の住人ができるがの」
ほかの魔物と違って男性と寄り添って生きていく種族であるため、家事は基本中の基本。と説明を付け加えた。
七尾さんは本当にできるのか心配になってきた。
体型的な意味で。
「たまもは料理下手そうだな」
「どういう意味じゃっ!!」
ショックを受けつつも反発的な表情で身を乗り出す。
「全く、お主に今度はウチの手料理をご馳走してやるわ。ミミズn「それ以上はやめてくれ」
たまもはやっぱり料理が下手であることが発言から明らか。
すると、目の前に簡単な朝食が運ばれてくる。
反射的に手伝いをかって出て、一緒に料理を運んでいると、たまもから「初めての共同作業じゃな」と茶化された。
妖狐の顔は朝っぱらから真っ赤である。
「きつねの里での初夜は激しかったのかの?」
「そんなわけないだろっ!!」
冷静に対処していた僕もついに身を乗り出して反発してしまった。
たまもは本当に食事をしにきただけなようで、伝えることだけ伝えると帰っていってしまった。
「わかっておるな、ルカ」と言いたいような視線を僕へ送ったあと。
「じゃあ、今日はルカとデートがてらに里を散歩しよっか!」
妖狐は何か思ったのか突然そう切り出すと、僕の腕を絡めて歩き出した。
戸惑いつつも、特にやることもない僕は妖狐についていくことにした。
里の住人たちは笑顔で僕達にあいさつをしてくれる
「おはよう、ルカ、妖狐」「おはようございます、ルカさんに妖狐ちゃん」
僕は、まるで昔からこの里に住んでいるかのような感覚を覚えて
それは、僕が住んでいた村でよくある光景だった。
ここに住んでいれば、とっても''幸せ''なんだろうな。
僕はつい、そう考えてしまうのだった。
一通り里を一周してから、里の外れにある、小さな丘と大きな木の下で
僕と妖狐は肩を並べて里を眺めていた
「この里はのんびりしていて、住みたいと思えるね…」
「ルカはもうここに馴染んでるね」
馴染んでいるというよりかは、ここの住人たちがとても親切なのだ。
僕は昨日来たばかりだし。
「でも、僕はまだ、迷っているのかもしれない」
妖狐と夫婦になってから日が立っているものの、心の整理がつかないことがいくつかあった。
突然夫婦となったことは当然のこと。
アリスのこと、この世界の、こと…。
そして、出会ってきた人々のこと、魔物のこと。
本当にこの村で僕が、のんびりと過ごしてしまっていいのだろうか。
あらゆる荷物をまだ背負っている僕がここにいて、いいのだろうか。
「ルカがまだ、受け入れられないのはわかるよ。これは狐の掟だし、ルカは人間だからね…」
「でも、あたしを置いて行くなんてことはしないでね」
ぼそっと呟いた言葉を僕が掴むことはできなかった。
しかし、妖狐の表情に憂いをおびているのを僕は感じた。
妖狐は僕の方へ振り返り
「ねぇ、ルカ、どこか遠くへ行かない?」
その瞳を僕に向けて、突然、予想だにしていない言葉を口にする。
今までこの里を目指して来て、昨日歓迎会を終えた僕たち二人の間で交わされる会話ではまずないはず、なのに。
僕たちの間に一際強い風が通り過ぎる。
「どうしてそんなことを?」
僕は単純に聞き返すことしかできない。
今までの努力が無駄になるのではないか、とか、そういうことを思っているのではなくて
妖狐の本音が聞きたかった。
「あたしはこの里が嫌い…里のみんなは親切で人当たりがいいけど、それが逆に怖い」
じゃあどうしてこの里へ来たのか。と質問しようとしたが、それがきつねの風習なのかもしれないと思った。
そして、妖狐は僕の思考を読んだかのように「きつねの里へ帰ってきて儀式を行えば、夫婦としてきちんと認めてもらえるから」と言う。
儀式というのが昨日の歓迎会だとしたら、僕はすっかり騙されてしまったわけだ。
「あたし達はもう立派な夫婦になったわけだし、今からどこへ行っても何の心配もないの」
「だから、あたしのことを知らない土地へ行って、のんびり暮らそ…?」
少しだけ目を伏せた妖狐はそう呟く。
どうして、そこまでしてこの里を離れたいと思うのか。
不思議で気になった僕は、首を縦に振ることはなかった。
続く
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