翌日も、俺はこいしの元へ向かった。

心の中で複雑な葛藤がある中でも、こいしと接する時は接していかなければいけない

ドア開けてリビングへ入る。



こいしは昨日状態のままだが、冷蔵庫に保存してあったオムライスが忽然と消えていた。

「えっ…」

冷蔵庫を開けて固まってしまった。

「こいし、オムライス食べたの?」

そう質問してみるものの、こいしに反応はなかった。

「…ん」

ま、まぁ…食べてくれたんだな。

食べてくれたのなら、また、料理作ったら食べるかな?

一筋の希望が見えてきた気がした。

「こいし、朝食食べる?」

「…いらない」

そう、こいしは冷たく流した。

「そっか、じゃ、俺だけでも食べちゃうよ」

野菜の和え物と、焼き魚…といったような和食を机に運ぶ。

「いただきまーす」

こいしの分の茶碗も用意して、料理に箸を付ける。

昨日よりは栄養を重視した献立、こいしも食べてくれるといいんだけど…。

チラッとこいしの様子を伺ってみると、こいしは料理を見つめていた。

「食べたいなら食べていいんだよ?」

首を横に振って拒絶するものの、瞳は料理を向いている。

やっぱり、俺のこと警戒しているのかな?

「首を振ってても、目はずーっと料理向いているよ」

「ははっ」」と少し笑ってしまいながら。

野菜の和え物を箸で掴んで、こいしの口へ運んでやる。

「ほら、食べてみなよ」

少しの間、和え物を見つめて、何も言わず、こいしは和え物を口へ埋めた。

瞳は虚ろだったけれど、その姿を見れただけで、俺はなんだか幸せな気分になった。

口を動かして飲み込んだ時には、俺が初めて作った料理を、おいしいと言ってくれた母親の笑顔を思い出した。

「…まずぃ」

「あ、あははは…」

や、野菜苦手なのかな?

苦笑いしかでなかったけど、とても嬉しかった。

「これ…」

次は焼き魚を指差した。

「ん、食べたいの?」

コクンとこいしは頷いた。

「ははっ」

思わず喜びが表情へと表れてしまった。

焼き魚を小さく切って、こいしの口へ運んであげる。

「…まずぃ」

と、同じ一言を呟いた。

さ、魚嫌いなのかなぁ…?



まぁ、食べてくれただけでも嬉しいからな。


それから、こいしは俺の料理をチマチマと食べては「まずぃ」と呟いていた。

なんという天の邪鬼…。

いや、本当にまずいのだろうか。

だとしたら心の涙が溢れてくる。

「じゃ、片付けるよ」

食器を流し台へと運んで、洗い物をしながら思うこと。




初めて幻想郷に来た時は、食われてしまいそうになったけど、妹紅や橙がいたんだ。

ナズーリンが黒い気に包まれた時だって、星や明鈴、妹紅がいた。

椛が嵐に巻き込まれた時は、パチュリーが援護をしてくれた。文だって一緒になって探してくれていたはずだ。


でも、今はどうだろう。


俺は一人だ。


まるで、紫とかが仕組んだ、俺に対しての試練のように思えるのだ。

それがなんだか不思議だった。

あぁ、俺はなんだかんだいって、色んな人に支えてもらっているんだな…。

改めて実感して、こいしも、俺のように色んな人に支えてもらっているはずなんだ。

それに気が付いて欲しかった。

…大丈夫さ、今は一人だけど。

ここには、さとりにお燐、空がいる。

きっと、サポートしてくれるはずだ。

そして、すぐ、紫達に会える隙間だって…。

手で空気を探る。

「・・・。」

あれっ、隙間がないぞ!?

またなにか合ったのだろうか。

それとも、これはやはり、俺に対しての試練なのだろうか。

「ははっ」

思わず笑ってしまった。

これが試練だとしたら、受けて立ってやるさ。


確か…棚にパスタがあったから、今日の昼食はスパゲッティでいいかな。

ここの台所にはケーキの型や乳製品、幅広い食品が常備しているようだった。


こいしの部屋の食材はだいたいものが腐っていたが、俺が借りている部屋から持って来れば問題ないだろう。

「こいし、冷蔵庫にスパゲッティ入っているから。食べたかったらたべてね」

昼食を作り終えると、俺はこいしの部屋を出た。

「…いつか、黒い気のことをさとりに聞いてみた方がいいだろうか」

通路の窓から見える、青空ではない黒い天井。

そうだった、ここは穴の奥深くなんだったな。

なんか、青空見えないとやる気でないなぁ。

ガチャ。

何かの音がして振り向く。

「…ん?こ、こいし?」

こいしは今、鍵を閉めたのだろうか?

じゃあ、いつも閉めていたのか…?



これで、侵入者とか来ないんだろうけど…。

「…てか、ここに侵入者とかいないよな」

いたら見てみたいな。

…。


ドアノブを見つめながら考えること数分、俺は諦めて、自分の部屋に戻っていった。



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