早苗が去ってから数分した頃だろうか、また、訪問者が現れる。

それは、ネコミミをはやした少女と奇妙な一つ目を持っている少女、さとりとお燐だった。

「えっと…確かさとりとお燐だよね?」

幻想郷に降り立った日以来、再会することはなかった二人組み。

久々に顔をあわせる気ががする。

「久しぶりぃ」

「えぇ、そうよ」

二人は早速、俺の隣に座った。

「お見舞いありがとうね。二人共」

多分、新聞記事を見てくれたのだろう。

みんながお見舞いしてくれる時期とはずれているけれど。

ちょっと遅れたお見舞いだ。

「えーと、今日はお見舞いというわけではないのよ」

さとりはそんなことを言う。

「えっ、違う用件?」

「そうなの。神無、あなたを誘いにきたの」

真剣な眼差しで、俺の瞳を見つめるさとり。

何か、重大な感じがした。

「よかったら、地霊殿へ来てくれないかしら」

「ち、ちれい…でん?」 

「えぇ、この妖怪の山にある穴の奥地の建物よ。今は温泉とかで観光地になっているわ」

「げ、幻想郷に観光地…すごく意外だけど興味は湧いてきた」

へぇ~、ここに観光地なんてあったのか。

…誰が観光するんだ?

「ま、まぁ、面白そうだし、幻想郷探検にはいいよな。行ってみたいかも」

すると、さとりの表情は柔らかくなっていった。

「行かない」なんていわれないか心配だったのだろう。

「来てくれるといいわ。地霊殿の主である私が誘っているのだから、最高のおもてなしをするわ」

「えっ!?君って地霊殿の主なんだ、すごいな」

いやいや、全然見えないよ。

観光地を取り締まる主。

こんな背の小さい子なのに、よくやるな…。

実を言うとお金持ちのところの子供とかなのかな?

だって、従者みたいについている子がいるし。

「今、背が小さいとか思ったわね?」

まるで思考を見透かされたような感じ。

「えっ」

「さとり様の能力言ってないじゃないんですか?」

お燐がそう助言をすると、「あぁ」と手を打つ。

「あっ、そうだったわね」

コホンと咳き込むさとりは、とても言い憎そうな顔をする。

「えっとね…私には…その、生物の心を読む能力があるのよ…」

「そりゃ言いづらいわな」

俺は何の変哲もなくそう思った。

「…やっぱり、あなたは逃げたりしないのね」

「に、逃げる?」

「私の能力を聞いて逃げ出す者も多いの。でも、あなたは逃げたりせずに、変わらず接してくれる」

「…なるほど」

「なんとなく、出会った時から分かっていたわ。心の底にある深い傷と、優しい心」

さとりは俺の過去を言い表した。



「心を読むのって、俺の過去とかもわかるんだな」

あまり知ってほしくないことだった。

俺の過去なんか知ったところで面白みもなくて、ただ人を暗くさせる程度。

みんなが逃げていってしまうとは、こういうことなんだろうか。

「あなたは、出会った当初よりずっと、綺麗な心になっているわ」

「綺麗な心に…?」

思いがけない言葉に、思わず手の平を見てしまう。

この空っぽの心が、「綺麗な心」…?



「空っぽじゃないわ。私を受け入れてくる程の優しい心と綺麗な心を持っているわ」

「…自分じゃわかんね」

俺はただ単に、思ったとおりに生きているだけさ。



「ふふっ、そうね」

さとりは口を押さえて笑った。

「でも、そんなあなただからこそ…」


小さな声で、さとりは何かを呟いた。

「地霊殿へ来て欲しいの。明日」

「あぁ、俺は別にかま…明日!?急過ぎないか?」

「私も色々とあって…。明日来て欲しいの」

「そ、そっか…」

まぁ、行って帰ってくるぐらいなら、バッグに入っている物で十分だろう。

「あ、ちなみに泊まってもらいたいわ」

「えっ」

俺、これでも風邪なんだぞ!?

後、泊まる道具もないし。

「急で申し訳ないけど、泊まる衣服とかはこっちも用意できるわ。風邪薬もね」

思考を読み取ったのかそう付け加えた。

案外便利かもしれないと思うのは俺だけだろうか。

あまり思ったことを口に出さない俺にとって、心を読むとってくれるさとりはしっかりと俺のことを理解してくれると思った。

「そ、そうか」

さとりは、どうしてここまで俺を招きたいのだろうか?


「明日、地霊殿で会いましょうっ、」

そう笑顔で、最後に念を押すように言うと。

急に来て、急な用件を持ち出した二人は手を振って、去っていった。

やりたいことだけやって帰って行く。

何だか素早い二人だな。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

突然の事が多すぎて、ボーとしていると、早苗と二人の神様が入ってきた。

「あっ、白鳥さん、夕食ができました」

早苗は先程と同じようにおかゆを持っていた。

もう早苗にとって病人の食事はおかゆとイコールなのかもしれない。

「神無、体調はどう?」「神無、風邪の具合はどうだ?」

ニコニコしながら、諏訪子様と神奈子様が聞いてきた。

どこにニコニコする要素があるんだろうか不思議だ。

「だいぶ良くなりました。これも、三人のおかげです。ありがとうございます」

「困ったときはお互い様ですよ、はい、これおかゆです」

俺におかゆを手渡してくれると、早く食べてくれないかなーというようにニコニコと見つめ続ける。

「ありがとう」

一口運ぶと、懐かしい、母親が作ってくれたおかゆを想い出した。

「うん、おいしぃ」

「そうですか、よかったです!さっきは食べてくれなかったので心配していたんですよ?」

「はは、さっきは体調悪くて入らなくて…。でも、妹紅が持ってきた薬草のおかげでだいぶ楽になったんだ」

俺と同族だからこそ出来る技!あの時少しだけ感動した。


三人は隣に座って、ちょっとした雑談を始める。

「そうだ、地霊殿への行き方を教えてほしいです。わかりますか?」

神様二人へ話を振ってみると、うーんと難しい顔をした。

「あぁ~、あのどでかい穴を通った奥地にあると思うんだが…。遠くて、人間の足じゃ到底無理だよ」

「そ、そうですか」

ここの世界の住人は飛べるから、距離はそんなに気にしないんだよな…。

そんな人たちが遠いというのだから、遠いんだろうね。

「紫さんの隙間は回復していないんですか?」

早苗は忘れていた点を俺に気付かせてくれた。

そうだよ、隙間があればそのちれいでんとかいうところに行けるんだ。

「そうだった…紫の隙間隙間っと…」

すると、手探りで隙間を見つけられることができて、喜びのあまり叫びそうになった。

「おぉっ…回復しているよ!…これで八雲家へ帰れる…!」

自然と笑みがこぼれてきた。

「そうか、家へ帰れるのか。良かったな」

神奈子様が腕を組みながら頷いていたので、俺も真似して大きく頷く

「帰れるんだ…」

すぐに立ち上がって、荷物の整理し始める。

結局食べることなかった非常食などがバッグの中に散乱している。

「えっと、風邪はもう大丈夫なんでしょうか?」

「あぁ、妹紅の薬のおかげでだいぶよくなったからさ、心配かけたね」

素早い動きで身支度を終わらせる。それはもう妖怪がびっくりするくらいのスピードである。

三人の顔が見られるんだ…!

「早苗、諏訪子様、神奈子様、お世話になりました!!」

身支度を終わらせると、深くお辞儀をする。

「あぁ、また遊びに来るといい」

「はい、白鳥さん、また来てくださいね」

「いつでも歓迎してるよぉ」

三人は、突然の訪問して、突然別れを告げる俺に対して笑顔で送ってくれた。

申し訳ないと思いながらも、それがなんだか嬉しい。

「はい、それでは、また!!」

俺の体は、すぐに闇へ飲み込まれて行く。

よかった、もう会えないなんてそういうのはなかったんだ。

隙間がもう現れないなんて、なかったんだ…!



「早苗、何かが清々しい顔してる」

神無が会った後に清々しい顔をされると、さすがに勘違いされかねないから危険である。

「そうですか?」

「あぁ、そうだな」

神奈子と諏訪子が笑って頷く。

しかし二人はそういうわけで言ったのではない。

何か、新しい何かを早苗が神無から貰ったのだと感じているのだ。

「だとしたら、あの方のおかげです」

「やっぱりね、神無でしょ」

「はい、あの方の言葉には、とても温かいモノを感じます」



「幻想郷には、珍しい奴だな」


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

視界の全てがハッキリしてくると。

そこは八雲家の玄関であった。

隣には、まだ咲いてもいない桜の木が立っている。

いつもは八雲家の中に出てくるのに、それは不思議に思えたけど。

神無は早く三人に会いたかった。



静かに戸を開くと、八雲家はしずまり返っている。

いつも賑やかな八雲、とても珍しいものだった。

居間の襖を開くと、いつも通りの光景であるのに、寂しい感じがした。

なぜなら、八雲家の顔は見られなかったからだ。

・・・・。

ふと、三人の寝室から音が聞こえた気がした。

「…?誰かいるのか」

寝室の襖を開くと、そこには。


酔っ払い二人と、その横で静かに眠る橙が確認できて、安心の溜息をついてしまう。

そして、笑みがこぼれてきた。

「幸せそうに寝てるな…」

そうだね、今は夜だから寝ていても不自然じゃないのか。

それに宴会に行くといっていたし、酔っ払っているのも当然か。

…。


今日は長かったような気がする。

出会ってきた人々と話して、心に触れて

色々と疲れてしまった。


俺も、今日は寝よう。

改めて、三人の寝顔を見る。




寝ている三人の中に、幸せそうな三人の中に、俺もきっと入っているはずさ。

心配することは、何も無い。

「…寝るか」


起こさないように襖を閉めて、俺は床へ着いた。