椛が去って数分すると、早苗が入ってきた。
「白鳥さん、朝食のおかゆを持ってきました」
「あ、あぁ…ありがとう。ごめんね手間かけてしまって」
「構わないです、こういうの私大好きですから」
満面の笑みを浮かべて早苗は言う。
なんか、全身が熱いな…。
「か、顔真っ赤ですよ…。もしかして、熱あるんじゃないですか?」
布団から顔を出すと、すぐに早苗が駆け寄って、おでこにを手を置いた。
とても冷たかった。
「やっぱり、すごい熱です…。」
「やっぱりそうか、うーん、八雲家で休もうかな」
しかし、隙間は相変わらず顔を出すことはなかった。
一体どうしたんだろう、もう、本当に帰れないとかあるのかな。
「…すまないけど、もう一泊させてもらってもいいかな…」
本当に迷惑かけて申し訳ないと思いながら、そう呟くと、早苗は頷いた。
「当然ですよ!…治るまでゆっくりしていってくださいね」
「あ、ありがとうね…」
こんな良い天気に、部屋にこもることになるなんて勿体ないような。
あぁ、外へ出てなんかしたい。
「白鳥さん、あ~ん」
気がつくと、早苗がスプーンを口に近づけていた。
「いやいやいやいや、自分で食べれるからいいよ!」
かなりきょどっているだろうか俺、でもこんなことされるの慣れてなくて…。
こんな所、誰かに見られたら本当に恥ずかしいだろう。
「そ、そうですか…」
しゅーんとちょっぴり落ち込むのが表情でわかってしまう早苗。
「あ、いや、食べさせてもらうのはすごく嬉しいんだけどさ、今、起きたばかりでお腹空いてないんだ!!」
早苗の姿を見て、なるべくダメージ与えないようにフォローをし始める
「そうなんですか?」
「あぁっ!早苗のおかゆ食べられなくてすごく残念なんだけどなぁ…」
「ふふ、わかりました。では、安静にしててくださいね」
おかゆを両手に持って、去ってゆく早苗。
「はぁ…、なんか一気に疲れた気がするなぁ」
布団へ潜って目を瞑る。
「神無ぁ」
小さな声が、鼓膜を揺らした。
いや、脳みそにも響いてくるようだった。
「ん…」
今のは、幻聴か?
熱で頭やられてるのかな。
「神無っ、おきなさいよ」
今度は小さく布団を揺らしてきた。
ということは、幻聴ではないらしい。
布団から顔を出すと、そこにはミスティアと朱鷺子がいた。
「どうしたの、二人共」
とゆうか、どうしてここがわかってしまったんだろう・・・。
「あんたのアドバイスで、霖之助さんとはうまくいったのよ!!そのお礼に来たの」
あぁ、朱鷺子の件も確かにあったな。
すっかり忘れてしまっていた。
「そ、そりゃよかった…」
「昨日の嵐で、家まで送ろうか?って言ってくれたのよ!!」
その後も、霖之助とこう話したとか、こういう理論が面白かったとか。
朱鷺子のデレデレ話も、今は頭が痛いだけだった。
「そ、そうかい…」
まじで勘弁して、声が響くから!
「って、なんであんたはずーとそこで寝てるのよ」
「熱があるんだよ…」
「熱?だらしないわねぇ…」
長々と話した挙句、そう言葉で蹴飛ばした。
のろけ話を無理矢理聞かされたあげく、なんてひどい奴だ。
「神無、熱があるの?」
「うん…」
「どうせ、昨日の嵐で全身びっしょりになって倒れた~とかでしょう?だから、あんたここで寝てるんでしょ」
ちょっぴりズレてるけどその通り、結構冴えている。
しかし、事情を説明する気は起きなかった。
「その通りだよ…。それぐらい冴えてるんだったら、霖之助さんと二人三脚で生きていけるさ…」
「それ本当に思ってる!?」
思ってるような気がする。
「あぁ、思ってる思ってる。…霖之助さんの元へ行ったほうが幸せじゃないか」
実際今言った言葉はその通りだと思う。
早く霖之助のとこいけ。
「やっぱりそうよね!じゃ、今から行ってくるわ」
そう言って、朱鷺子は霖之助の元へ羽ばたいて行ってしまった。
それはまるで、恋する乙女が今から告白にでも行くような感じだった・・・。
そんな気がする。
後ろ姿は輝いて見えた。
「朱鷺子ちゃんたら…」
あきれた顔でミスティアが言う。
こんな簡単に策略にはまってしまうとは、逆に心配になってしまう。
「朱鷺子のこと、追ったら?」
「ううん、私はここにいる」
正座しているミスティアは首を振ってそう言った。
「寝たところを襲うんですか」
「ち、ちちちち、違うよ!!もう、神無はいつもそぅ…」
今、か、噛んだような…?
まぁいいか。
「はは」
そう笑って目をつぶってみるものの。
意外と、人がいると眠れないものだと感じた。
「神無は、妖怪のことが好き…?」
ミスティアはそう呟いた。
「…好きだよ」
「そ、そっか…。妖怪嫌いだったらどうしよーと思ってた」
ほっと安堵の息をつくミスティア。
でも全ての妖怪がすきというわけでもない。
「俺が妖怪嫌いだったら、朱鷺子とも、ミスティアとも話してはないさ」
「そうだね」
「…どうしてそんなこと聞くの?」
「ううん、別に、なんとなく」
「そぅ、じゃ、俺はだるいから寝る」
すっかり二人と話すことに集中してしまい、自分が高熱を出していることを忘れていた。
そう思うと、ドッと体に重しが乗っかった気分になる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
布団へ深く潜ろうとすると。
「神無!!!!お見舞いにきてやったぞ~~」
怒涛の声が神社に響いたと思ったら、妹紅が入ってきた。
「…マジデカ」
熱で出た汗とは一味違う、焦りのようなものが頬を通り過ぎた。
「神無、体は大丈夫か?」
「多分…寝れば治ると思う」
てか、俺が熱だしているってどこから情報が漏れたんだよ…。
位置も特定されちゃってるし。
「神無が熱だしているって聞いてだな、軽く薬草を作ってきたんだよ」
持ってきたバッグから、ゲームでよく見そうな調合された薬草を取り出した。
「あたしも人間だから、稀に風邪になったりするんだがな、これを食べているんだ」
「おぉ、ありがとう…。ん?…人間だから?」
「あぁ、妖怪は人間がかかる病気にはならない。その変わり、妖怪特有の病気とかあるんだ」
「へぇ~…なるほど」
起き上がって、貰った薬草と水を合わせて飲むとすごく苦かった。
「にっげ…。」
「良い薬は苦いもんだ。それ飲めばすぐ治るはずさ」
ドスンとミスティアの横に座る妹紅。
「・・・ミスティア、お前も神無のお見舞いか…てか、こいつ神無を襲ったりしないのか」
初めて幻想郷に降り立った日のことだろう。
妹紅は若干ミスティアを威圧していた。
「あぁ、もう仲直りしたよ」
何とかフォローへ回る。
てゆうか、病人に変な気を遣わせないでくれって…。
「そうか、よかったなミスティア」
ニコニコ笑いながらミスティアに話掛ける妹紅。
「う、うん…妹紅さんはどうして?」
「あぁ、ある記事で見たんだ」
記事って…記事っ!?
新聞とかで情報流れてんのかもしかして!?
心当たりが一名いるんだが。
「熱出すなんて、昨日の嵐にでも打たれたんだろう」
うん、その通り。
やっぱりみんな予想はできるのか。
「妹紅さんと神無は、どういう関係なんですか?前回のこともありますし・・・」
おそるおそるといった感じでミスティアが聞いてきた。
「お見舞いまでする中…」
「いや、あたしらは別に…」
頬を掻いて妹紅は俺に助けを求めた。
「数少ない、友人だよ」
それを聞いてか、ミスティアは肩の力を抜いた。
しかしなぜか、ミスティアに気付かれない程度に軽く小突かれてしまった。
「…バカッ」
「んん?」
え、何・・・?
「どうかしましたか?」
素で聞いてしまった俺に対して、ミスティアは視線を移す。
「いや、なんでもないよ。…だるさがちょっと楽になった気がする」
背後霊でも憑いたかのような全身の重りは軽くなった。
背後霊ついていたこともないけど。
「そうか、即効性あるからな」
腕を組んで頷く妹紅。
「神無…私も友人?」
また、おそるおそるミスティアはそう聞いた。
「そうだね、ミスティアも数少ない友人だよ」
笑いかけると、ミスティアは安心したようにニッコリと笑った。
そして、また妹紅に小突かれた。
「あたしん時と反応違う」
俺の方だけ向いて「むー」と膨れっ面である。
「そんだけかよ…」
呆れがちに言うと、二人の間から見える外の風景が、また二人の姿と重なった。
「記事のせいだよな、これあきらかに」
ひきつった顔でそう言う。
二人は妹紅と同じようにやってきて、隣に座った。
それは、ナズーリンと寅丸だった。
「やぁ神無。今日は時間が空いていたから見舞いに来たよ」
「お久しぶりです、白鳥さん!前回はナズーリンを助けていただいたのにお見舞いに行けなくてすいません…」
寅丸はナズーリンが俺への呼び方を変えたことに奇異の視線をしつつ、前回のことを謝った。
フルーツのバスケットを片手に持っている。
「あぁ、寅丸も忙しいと思うからね。…ねぇ、やっぱり、何かの記事を見たのか?」
「あぁ、新聞記事を見て見舞いに来たんだよ」
「何それ…そんなこと記事にしないでいいのになぁ」
記事にする必要性あるのかな?
「それより、ナズーリンに寅丸、お見舞いありがとうな」
妹紅の薬が効いてきたのか、体のだるさはほとんど消えてしまった。
そのおかげで、みんなとは楽にしゃべれるようになった。
「それで、体は大丈夫なのかい?」
「あぁ、妹紅の薬のおかげでもう、走り回れる程」
ちょっと無理を言い過ぎたかもしれない。
「そうか、それはよかった」
「ありがとうな二人共」
「いぇ、私達のことは気にせずにゆっくり休んでいてくださいね」
「ありがとう、寅丸」
笑顔で優しい言葉をかけてくれる寅丸であったが、こんなに人が集まってくると…。
ゆっくりしている暇もなくなってきた。
「白鳥さん、私だけ寅丸っておかしくないですか?」
寅丸も、先程の妹紅と同じように「むー」という表情で呟いた。
「みんなは名前で呼んでいるのに、私だけ苗字なんておかしいと思います!異議ありでーす!」
なんというか、寅丸の方が言いやすかった。
「えっ?…ん~、俺別に、呼ぶあれなんて気にしてないし…」
「人を呼ぶ名前は大切ですよ!!」
顔を突き出して寅丸がそう言う。
そして、顔をそっぽに向ける。
「みんな下の名前じゃないですか、私だけひどいです」
「ま、まぁ…別にいいけどさ」
そこって気にするところだろうか?
なんか、以前もこんな会話をしたような気がするけど、女性って細かいとこ突くよな。
「星」
「はいっ!」
ニコッと笑って、返事をする星。
「私は神無さんって呼ぶますね」
それも以前聞いたような…。
「神無さ~ん、お見舞いに来ました!!」
その人物の顔を思い浮かべていると、明るい声をした人物の声が耳へ通ってきた。
「め、美鈴…」
噂をすればというか・・・。タイミングがいいというか・・・。
「はいっ、パチュリー様つきましたよ」
「そ、そぅ…?あ、神無」
俺よりも顔色悪くないですかパチュリーさん。
パチュリーさん俺よりも布団で寝ていたほうが良いような。
「パチュリー、大丈夫…?」
「えぇ、神無のお見舞いに行くって言ったのは私だから」
「そっか、ありがとうね、美鈴もお疲れ」
「いぇ、飛べますし!私は力仕事の方が好きですから」
「そっか」
おんぶしていた状態から降りたパチュリー。
「パチュリー、昨日は本当にありがとう。君がいなければどうなっていたか…」
「えぇ、力になれてよかったわ…神無が無事でなにより」
「…さんきゅ」
ポケット閉まってあるはずのお札は、もうすでに消えていた。
「あれ…」
「私が消しておいたわよ」
「あっ、そっか」
こんなにいい人が、現実世界に存在しただろうか。
そう思えるほど…。
「よぉ、来てやったぞ」
「白鳥~?大丈夫?」
みんなで言葉を交わしていると、外から魔理沙とアリスが入ってきた。
「なんだぁ、お見舞いなのにガヤガヤしてるな」
入ってくるなり、見たままの感想を述べた。
爆弾マン魔理沙。
略して爆魔理。
「そうね」
「アリスに魔理沙か、ありがとうな」
「コレぐらいお安い御用よ。…白鳥こそ、この山登るの大変じゃなかった?」
「すごく大変だった」
そうだよね、美鈴がさっき言ってたけど、みなさん飛べるご様子で。
お見舞いに来るのも容易いだろうけど。
「はぁ…はぁ…全く、来てみれば…お見舞いかい…」
「もう、霖之助さんだらしないですよ!」
続いて、霖之助と朱鷺子が入ってきた。
「頑張って連れて来たよ神無!」
なんで連れて来たし。
「えっ、無理しないでもよかったのに…」
霖之助とパチュリーの顔色がマジで悪い。
「二人とも文学っぽいもんね…」
「霖之助さん、本ばかり読んでないで、たまには外に出てみることも大切ですってば!!」
「はぁ…確かにそうだけど…」
膝に手をついて、息が荒い。
「霖之助さん、早く入ってきて休んだらどうですか」
「そ…そうだね。そうさせてもらうよ」
霖之助はすぐ隣に座って、本を読み始めた。
本を読み始めると、すぐに息が整ってきたことに驚いた。
「本を読むと疲れが吹っ飛ぶ…?」
すごいものを持っているんですね…。
「神無さん」
「うわっ」
気付くと、ちょっと頬を朱色に染めている椛が隣に座っていた。
「またまたお見舞いにきましたよ…って、どんだけいるんですか…」
出直してくると言っていたけど、直せていない椛であった。
「それは私のせいですね」
「うわっ」
次は目の前に文の顔があった。
は、早い!?というかこの子達遠慮というものを知らないのか!?
「君らさ…普通に入ってきてくれって」
「ははっ、すいません」
文はおもむろに新聞を取り出して、俺に提示した。
「これを、見よ!!」
「ん?…」
その新聞記事には、俺の記事がとてもでかく書かれていた。
俺は少し呆れてしまった。
妖怪を助ける人間の救出劇が長々と書いてある。
俺、いつこんな救出劇を証言したっけ。
「…これのせいで、こんなに集まってしまったんだな」
隣を見ると、みんなはそれぞれのおしゃべりタイムへと入ってしまった。
「これが、神無さんの優しさの元に集まった人達ですか」
微笑みながら椛が、その一人に加わる。
「じゃ、記念写真でも撮りますか?」
「何の記念だよ」
さりげなく突っ込むと、文は困った顔をして。
「白鳥さんが病気になった記念?」
「えぇ…」
「まぁ、いいですよ!さ、撮りますよ。みなさん、こっち向いてください!!」
ガヤガヤしていたみんなが、一斉に静かになったのは意外と不気味であった。
「はいチーズ」
カシャと一枚。
その音は、とても心地よいものだったのかもしれない。
「では、次は私も入りますか」
カシャ
そして、文が一人加わってもう一枚の写真が撮れた。
「…もう、宴会状態だな」
写真が撮り終わると、またそれぞれ喋り始めてしまった。
でも、シリアスな雰囲気になるよりかは、こういった場所の方が…。
心がホッとする。
みんな、ありがとう。
俺、幸せ者だな。
「白鳥さん、朝食のおかゆを持ってきました」
「あ、あぁ…ありがとう。ごめんね手間かけてしまって」
「構わないです、こういうの私大好きですから」
満面の笑みを浮かべて早苗は言う。
なんか、全身が熱いな…。
「か、顔真っ赤ですよ…。もしかして、熱あるんじゃないですか?」
布団から顔を出すと、すぐに早苗が駆け寄って、おでこにを手を置いた。
とても冷たかった。
「やっぱり、すごい熱です…。」
「やっぱりそうか、うーん、八雲家で休もうかな」
しかし、隙間は相変わらず顔を出すことはなかった。
一体どうしたんだろう、もう、本当に帰れないとかあるのかな。
「…すまないけど、もう一泊させてもらってもいいかな…」
本当に迷惑かけて申し訳ないと思いながら、そう呟くと、早苗は頷いた。
「当然ですよ!…治るまでゆっくりしていってくださいね」
「あ、ありがとうね…」
こんな良い天気に、部屋にこもることになるなんて勿体ないような。
あぁ、外へ出てなんかしたい。
「白鳥さん、あ~ん」
気がつくと、早苗がスプーンを口に近づけていた。
「いやいやいやいや、自分で食べれるからいいよ!」
かなりきょどっているだろうか俺、でもこんなことされるの慣れてなくて…。
こんな所、誰かに見られたら本当に恥ずかしいだろう。
「そ、そうですか…」
しゅーんとちょっぴり落ち込むのが表情でわかってしまう早苗。
「あ、いや、食べさせてもらうのはすごく嬉しいんだけどさ、今、起きたばかりでお腹空いてないんだ!!」
早苗の姿を見て、なるべくダメージ与えないようにフォローをし始める
「そうなんですか?」
「あぁっ!早苗のおかゆ食べられなくてすごく残念なんだけどなぁ…」
「ふふ、わかりました。では、安静にしててくださいね」
おかゆを両手に持って、去ってゆく早苗。
「はぁ…、なんか一気に疲れた気がするなぁ」
布団へ潜って目を瞑る。
「神無ぁ」
小さな声が、鼓膜を揺らした。
いや、脳みそにも響いてくるようだった。
「ん…」
今のは、幻聴か?
熱で頭やられてるのかな。
「神無っ、おきなさいよ」
今度は小さく布団を揺らしてきた。
ということは、幻聴ではないらしい。
布団から顔を出すと、そこにはミスティアと朱鷺子がいた。
「どうしたの、二人共」
とゆうか、どうしてここがわかってしまったんだろう・・・。
「あんたのアドバイスで、霖之助さんとはうまくいったのよ!!そのお礼に来たの」
あぁ、朱鷺子の件も確かにあったな。
すっかり忘れてしまっていた。
「そ、そりゃよかった…」
「昨日の嵐で、家まで送ろうか?って言ってくれたのよ!!」
その後も、霖之助とこう話したとか、こういう理論が面白かったとか。
朱鷺子のデレデレ話も、今は頭が痛いだけだった。
「そ、そうかい…」
まじで勘弁して、声が響くから!
「って、なんであんたはずーとそこで寝てるのよ」
「熱があるんだよ…」
「熱?だらしないわねぇ…」
長々と話した挙句、そう言葉で蹴飛ばした。
のろけ話を無理矢理聞かされたあげく、なんてひどい奴だ。
「神無、熱があるの?」
「うん…」
「どうせ、昨日の嵐で全身びっしょりになって倒れた~とかでしょう?だから、あんたここで寝てるんでしょ」
ちょっぴりズレてるけどその通り、結構冴えている。
しかし、事情を説明する気は起きなかった。
「その通りだよ…。それぐらい冴えてるんだったら、霖之助さんと二人三脚で生きていけるさ…」
「それ本当に思ってる!?」
思ってるような気がする。
「あぁ、思ってる思ってる。…霖之助さんの元へ行ったほうが幸せじゃないか」
実際今言った言葉はその通りだと思う。
早く霖之助のとこいけ。
「やっぱりそうよね!じゃ、今から行ってくるわ」
そう言って、朱鷺子は霖之助の元へ羽ばたいて行ってしまった。
それはまるで、恋する乙女が今から告白にでも行くような感じだった・・・。
そんな気がする。
後ろ姿は輝いて見えた。
「朱鷺子ちゃんたら…」
あきれた顔でミスティアが言う。
こんな簡単に策略にはまってしまうとは、逆に心配になってしまう。
「朱鷺子のこと、追ったら?」
「ううん、私はここにいる」
正座しているミスティアは首を振ってそう言った。
「寝たところを襲うんですか」
「ち、ちちちち、違うよ!!もう、神無はいつもそぅ…」
今、か、噛んだような…?
まぁいいか。
「はは」
そう笑って目をつぶってみるものの。
意外と、人がいると眠れないものだと感じた。
「神無は、妖怪のことが好き…?」
ミスティアはそう呟いた。
「…好きだよ」
「そ、そっか…。妖怪嫌いだったらどうしよーと思ってた」
ほっと安堵の息をつくミスティア。
でも全ての妖怪がすきというわけでもない。
「俺が妖怪嫌いだったら、朱鷺子とも、ミスティアとも話してはないさ」
「そうだね」
「…どうしてそんなこと聞くの?」
「ううん、別に、なんとなく」
「そぅ、じゃ、俺はだるいから寝る」
すっかり二人と話すことに集中してしまい、自分が高熱を出していることを忘れていた。
そう思うと、ドッと体に重しが乗っかった気分になる。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
布団へ深く潜ろうとすると。
「神無!!!!お見舞いにきてやったぞ~~」
怒涛の声が神社に響いたと思ったら、妹紅が入ってきた。
「…マジデカ」
熱で出た汗とは一味違う、焦りのようなものが頬を通り過ぎた。
「神無、体は大丈夫か?」
「多分…寝れば治ると思う」
てか、俺が熱だしているってどこから情報が漏れたんだよ…。
位置も特定されちゃってるし。
「神無が熱だしているって聞いてだな、軽く薬草を作ってきたんだよ」
持ってきたバッグから、ゲームでよく見そうな調合された薬草を取り出した。
「あたしも人間だから、稀に風邪になったりするんだがな、これを食べているんだ」
「おぉ、ありがとう…。ん?…人間だから?」
「あぁ、妖怪は人間がかかる病気にはならない。その変わり、妖怪特有の病気とかあるんだ」
「へぇ~…なるほど」
起き上がって、貰った薬草と水を合わせて飲むとすごく苦かった。
「にっげ…。」
「良い薬は苦いもんだ。それ飲めばすぐ治るはずさ」
ドスンとミスティアの横に座る妹紅。
「・・・ミスティア、お前も神無のお見舞いか…てか、こいつ神無を襲ったりしないのか」
初めて幻想郷に降り立った日のことだろう。
妹紅は若干ミスティアを威圧していた。
「あぁ、もう仲直りしたよ」
何とかフォローへ回る。
てゆうか、病人に変な気を遣わせないでくれって…。
「そうか、よかったなミスティア」
ニコニコ笑いながらミスティアに話掛ける妹紅。
「う、うん…妹紅さんはどうして?」
「あぁ、ある記事で見たんだ」
記事って…記事っ!?
新聞とかで情報流れてんのかもしかして!?
心当たりが一名いるんだが。
「熱出すなんて、昨日の嵐にでも打たれたんだろう」
うん、その通り。
やっぱりみんな予想はできるのか。
「妹紅さんと神無は、どういう関係なんですか?前回のこともありますし・・・」
おそるおそるといった感じでミスティアが聞いてきた。
「お見舞いまでする中…」
「いや、あたしらは別に…」
頬を掻いて妹紅は俺に助けを求めた。
「数少ない、友人だよ」
それを聞いてか、ミスティアは肩の力を抜いた。
しかしなぜか、ミスティアに気付かれない程度に軽く小突かれてしまった。
「…バカッ」
「んん?」
え、何・・・?
「どうかしましたか?」
素で聞いてしまった俺に対して、ミスティアは視線を移す。
「いや、なんでもないよ。…だるさがちょっと楽になった気がする」
背後霊でも憑いたかのような全身の重りは軽くなった。
背後霊ついていたこともないけど。
「そうか、即効性あるからな」
腕を組んで頷く妹紅。
「神無…私も友人?」
また、おそるおそるミスティアはそう聞いた。
「そうだね、ミスティアも数少ない友人だよ」
笑いかけると、ミスティアは安心したようにニッコリと笑った。
そして、また妹紅に小突かれた。
「あたしん時と反応違う」
俺の方だけ向いて「むー」と膨れっ面である。
「そんだけかよ…」
呆れがちに言うと、二人の間から見える外の風景が、また二人の姿と重なった。
「記事のせいだよな、これあきらかに」
ひきつった顔でそう言う。
二人は妹紅と同じようにやってきて、隣に座った。
それは、ナズーリンと寅丸だった。
「やぁ神無。今日は時間が空いていたから見舞いに来たよ」
「お久しぶりです、白鳥さん!前回はナズーリンを助けていただいたのにお見舞いに行けなくてすいません…」
寅丸はナズーリンが俺への呼び方を変えたことに奇異の視線をしつつ、前回のことを謝った。
フルーツのバスケットを片手に持っている。
「あぁ、寅丸も忙しいと思うからね。…ねぇ、やっぱり、何かの記事を見たのか?」
「あぁ、新聞記事を見て見舞いに来たんだよ」
「何それ…そんなこと記事にしないでいいのになぁ」
記事にする必要性あるのかな?
「それより、ナズーリンに寅丸、お見舞いありがとうな」
妹紅の薬が効いてきたのか、体のだるさはほとんど消えてしまった。
そのおかげで、みんなとは楽にしゃべれるようになった。
「それで、体は大丈夫なのかい?」
「あぁ、妹紅の薬のおかげでもう、走り回れる程」
ちょっと無理を言い過ぎたかもしれない。
「そうか、それはよかった」
「ありがとうな二人共」
「いぇ、私達のことは気にせずにゆっくり休んでいてくださいね」
「ありがとう、寅丸」
笑顔で優しい言葉をかけてくれる寅丸であったが、こんなに人が集まってくると…。
ゆっくりしている暇もなくなってきた。
「白鳥さん、私だけ寅丸っておかしくないですか?」
寅丸も、先程の妹紅と同じように「むー」という表情で呟いた。
「みんなは名前で呼んでいるのに、私だけ苗字なんておかしいと思います!異議ありでーす!」
なんというか、寅丸の方が言いやすかった。
「えっ?…ん~、俺別に、呼ぶあれなんて気にしてないし…」
「人を呼ぶ名前は大切ですよ!!」
顔を突き出して寅丸がそう言う。
そして、顔をそっぽに向ける。
「みんな下の名前じゃないですか、私だけひどいです」
「ま、まぁ…別にいいけどさ」
そこって気にするところだろうか?
なんか、以前もこんな会話をしたような気がするけど、女性って細かいとこ突くよな。
「星」
「はいっ!」
ニコッと笑って、返事をする星。
「私は神無さんって呼ぶますね」
それも以前聞いたような…。
「神無さ~ん、お見舞いに来ました!!」
その人物の顔を思い浮かべていると、明るい声をした人物の声が耳へ通ってきた。
「め、美鈴…」
噂をすればというか・・・。タイミングがいいというか・・・。
「はいっ、パチュリー様つきましたよ」
「そ、そぅ…?あ、神無」
俺よりも顔色悪くないですかパチュリーさん。
パチュリーさん俺よりも布団で寝ていたほうが良いような。
「パチュリー、大丈夫…?」
「えぇ、神無のお見舞いに行くって言ったのは私だから」
「そっか、ありがとうね、美鈴もお疲れ」
「いぇ、飛べますし!私は力仕事の方が好きですから」
「そっか」
おんぶしていた状態から降りたパチュリー。
「パチュリー、昨日は本当にありがとう。君がいなければどうなっていたか…」
「えぇ、力になれてよかったわ…神無が無事でなにより」
「…さんきゅ」
ポケット閉まってあるはずのお札は、もうすでに消えていた。
「あれ…」
「私が消しておいたわよ」
「あっ、そっか」
こんなにいい人が、現実世界に存在しただろうか。
そう思えるほど…。
「よぉ、来てやったぞ」
「白鳥~?大丈夫?」
みんなで言葉を交わしていると、外から魔理沙とアリスが入ってきた。
「なんだぁ、お見舞いなのにガヤガヤしてるな」
入ってくるなり、見たままの感想を述べた。
爆弾マン魔理沙。
略して爆魔理。
「そうね」
「アリスに魔理沙か、ありがとうな」
「コレぐらいお安い御用よ。…白鳥こそ、この山登るの大変じゃなかった?」
「すごく大変だった」
そうだよね、美鈴がさっき言ってたけど、みなさん飛べるご様子で。
お見舞いに来るのも容易いだろうけど。
「はぁ…はぁ…全く、来てみれば…お見舞いかい…」
「もう、霖之助さんだらしないですよ!」
続いて、霖之助と朱鷺子が入ってきた。
「頑張って連れて来たよ神無!」
なんで連れて来たし。
「えっ、無理しないでもよかったのに…」
霖之助とパチュリーの顔色がマジで悪い。
「二人とも文学っぽいもんね…」
「霖之助さん、本ばかり読んでないで、たまには外に出てみることも大切ですってば!!」
「はぁ…確かにそうだけど…」
膝に手をついて、息が荒い。
「霖之助さん、早く入ってきて休んだらどうですか」
「そ…そうだね。そうさせてもらうよ」
霖之助はすぐ隣に座って、本を読み始めた。
本を読み始めると、すぐに息が整ってきたことに驚いた。
「本を読むと疲れが吹っ飛ぶ…?」
すごいものを持っているんですね…。
「神無さん」
「うわっ」
気付くと、ちょっと頬を朱色に染めている椛が隣に座っていた。
「またまたお見舞いにきましたよ…って、どんだけいるんですか…」
出直してくると言っていたけど、直せていない椛であった。
「それは私のせいですね」
「うわっ」
次は目の前に文の顔があった。
は、早い!?というかこの子達遠慮というものを知らないのか!?
「君らさ…普通に入ってきてくれって」
「ははっ、すいません」
文はおもむろに新聞を取り出して、俺に提示した。
「これを、見よ!!」
「ん?…」
その新聞記事には、俺の記事がとてもでかく書かれていた。
俺は少し呆れてしまった。
妖怪を助ける人間の救出劇が長々と書いてある。
俺、いつこんな救出劇を証言したっけ。
「…これのせいで、こんなに集まってしまったんだな」
隣を見ると、みんなはそれぞれのおしゃべりタイムへと入ってしまった。
「これが、神無さんの優しさの元に集まった人達ですか」
微笑みながら椛が、その一人に加わる。
「じゃ、記念写真でも撮りますか?」
「何の記念だよ」
さりげなく突っ込むと、文は困った顔をして。
「白鳥さんが病気になった記念?」
「えぇ…」
「まぁ、いいですよ!さ、撮りますよ。みなさん、こっち向いてください!!」
ガヤガヤしていたみんなが、一斉に静かになったのは意外と不気味であった。
「はいチーズ」
カシャと一枚。
その音は、とても心地よいものだったのかもしれない。
「では、次は私も入りますか」
カシャ
そして、文が一人加わってもう一枚の写真が撮れた。
「…もう、宴会状態だな」
写真が撮り終わると、またそれぞれ喋り始めてしまった。
でも、シリアスな雰囲気になるよりかは、こういった場所の方が…。
心がホッとする。
みんな、ありがとう。
俺、幸せ者だな。