翌日、ナズーリンがとても気になるので、俺はまた、紫に隙間を開けて貰った。

妹紅があぶりだしたといっていたし、ナズーリンの身の安全は守られているとは思うんだけど。

内面はすごく、傷ついているかもしれない。言葉ではいくらでも誤魔化すことができるのだから。

「紫、ごめんね」

「ううん、気にしないで。気軽に言ってくれればいいから」

紫には申し訳ないと思いながらも、幻想郷へ行く手は、これしかないので…。

「あ、神無、またあっち行くのぉ?」

「うん」

今の時間帯は昼間で、橙も紫も藍も、普通に起きていた。

「えぇ~、遊んでくれないのぉ~?」

「あはは、ごめんね。ちょっと用事があるから」

かわいらしくほっぺを膨らませている橙。

「じゃ、その代わり、いっぱい遊んでよぉ」

「また今度遊ぶか」

「うん」

にっこりと笑って、橙はテレビを見始めた。

「幻想郷に馴染むのはいいことだが、…橙の事も頼むよ。神無」

まるで母親のような藍。

「ごめんね、少し気になることがあるんだ」

藍は頷きつつも、少し頬を赤色に染める。

「まぁ、私のこともだな…」

「はっ?」

藍には似合わない言葉が飛び出たので、すっとぼけた声を出してしまった。

「もう…早く行けっ」

ツンとしたことを言って、茶の間から出ていった。

「どっちなんだよ…」

早く行けと言いながらも、自分がどこかへ行ってしまった。

「今日はどこへ?」

「こ、紅魔館とかいうとこ」

チラッと幻想郷の住人達からよく耳にするのだ。


「こ、紅魔館に・・・?」

眉間のしわを寄せる紫。

「どしたの?」

「ん、いやぁ・・・まぁ、あの吸血鬼達と仲良くなっておくと何かと都合がいいかもね」

やっぱりあそこには吸血鬼がすんでいるのか。

紫から聞くと現実味があって、少しばかり恐怖心を覚えた。

もしかしたら、捕まって…血を吸われて…!!!

行く前に背筋凍った。

「じゃあ、神無。今日も頑張ってらっしゃい」

「お、おぅ、じゃあ行って来る」

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そして、紅魔館というところに落としてもらった。

「紅魔館の人と知り合っておくと、何かと都合が良いとか言ってたからな」

いやでもさすがに、人間を「えさ」としている吸血鬼と友達って…。

まぁ、頑張ろう、危険になったら紫も助けてくれる…はず。

でも、ここにパチュリーが住んでいるって言ってたよな??

パチュリーって吸血鬼で魔法使い?そんなわけないよね。


すぐ目の前には大きな洋館が建っていて、晴れているはずなのに、紅魔館から不思議なオーラが出ているように見える。


「ここが、紅魔館…」

青空と重なる紅魔館を見上げていると。

「やぃ、人間」

声を掛けられた。

振り向くと、不思議な翼を生やした、チルノが立っていた。

「この前は、よくもやってくれたな」

「…誰だっけ」

「ななななんと!?あたいの偉大な名前を忘れるなんて…。てゆうか、あんたも何ていう名前だっけ」

軽くボケて見ると、うまく交わせた。

「俺も、君の名前は知らないぞ?自己紹介でもしてくれないか」

「ふふん、よーく聞いておけ!あたいは、とっても偉大な、そして強力な妖精、チルノ様である!!」

もう一度「ふふん」と言って、誇らしげな顔をする。

「って…あー!あの人間いないし!くっそ~!!」

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「ふぅ…」

めんどくさいことに巻き込まれそうだったので、とりあえず逃げてきた。

紅魔館の住人と知り合いにでもなりたかったのだが、後回しにしよう。


舗道されていない、ガタガタな道を歩いていると、目の前から全身緑っぽい色の服を着たの女性が歩いてきた。

「むむ、あちらから歩いてきたということは、紅魔館に何かようですか」

全身緑の女性に声をかけられた。

話している内容からして、紅魔館の関係者だろうか・・・。

これは知り合いになる、いいチャンスかもしれない。

「まぁ、用事あったんだけどさ、後にしようかなって」

「そうですかぁ~。でも、人間は近づかない方がいいですよぉ。最悪、一生血を吸われてしまいます」

「そうだったな。吸血鬼が住んでいるんだよな…って、君は人間ではなく、妖怪なのか」

「はい紅魔館で百年以上、庭師をしています」

敬礼をする。

百年以上!?…か…だったら、知り合っておいて損はないはずだ。

「あ、そうだ。自己紹介がまだだったね。俺は白鳥神無だ。よろしく」

「はい。私は紅美鈴という者です」

中国っぽい服装していると思ったら、名前まで中国っぽい。

「あ、そうでした!数日、紅魔館の主人は、紅魔館を空けているんでした」

「そうか、じゃ入っても仕方なかったな・・・」

というより、庭師…君はこんなところで出歩いてていいのか?

そういう疑問が浮かんだ。

「数日経ってまた訪れてくれれば、私が通しますよ」

「それはありがたいよ。それよっ…」

「白鳥」

美鈴に、紅魔館はほったらかしていいのか?そう言おうと思ったのだが、空から、またまた俺に声を掛けるくる妖怪がいた。

声からナズーリンじゃないかな。

「よぉ、ナズーリン、また会った…」

「っ!?」

振り向いてあいさつをしようとするものの、ナズーリンはいなかった。

「あ、あれ、今ナズーリンの声がしたような…」

後ろには、紅魔館へ寂しく続く道と、森と青空。

人や妖怪すら見えない。

「なぁ、美鈴。今ここに…って、どうしたんだ?」

美鈴はあおざめた顔をしていた。

「い、今、確かに……白鳥さんを呼ぶ妖怪は来ましたよ…。」

「だよな…。じゃあ一体…」

「見ました…。一瞬にして、すごい力に引き寄せられて、消えていってしまうところを・・・」

美鈴は、舗道されていない道からそれた、森の中を指差す。

「あちらに行きました…」

美鈴からの説明を受けた時。

ナズーリンが木の幹に縛られていた記憶が甦る。

このままじゃ、危険だ!


もしかしたら、あの人間が…!!

「ごめん!俺はナズーリンを追う!!」

邪魔なバッグを放り投げて、深い森へ入っていこうとする。

「私もご一緒します」

美鈴も真剣な表情で、俺の少し先を走って案内をしてくれる。

「一瞬の出来事だったので、大体ですが」

「あぁ、頼む」

しかし、美鈴は木の幹や枝を使い素早い速さで森を進むので、追いつくのがやっとだった。

「あぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

森の中で叫び声が響いて、鳥達が一斉に飛び立ち、闇のような静けさが一面を覆った。

まるで、嵐が来る前のような雰囲気。