「ほんと、お前はあたしと似てるよ…」

妹紅は思い出に浸っていたのだろうか、天井を見上げて、少し笑った。

「お前をすべて理解したわけじゃない、だが、これだけは言わせてくれ」

「あ、あぁ…」

「お前は、もっと自分を大切にするべきだ。さっきも言ったけどさ」

もっと、自分を大切にすべき…か…。

「自分を大切にしない奴が、他人を守れると、思うか?」

「お、思わない…」

妹紅の言う通りであった。

八雲家に拾われて、温かい何かを貰った。

しかし、深遠では自分のことを、死にぞこないだと思っていた。


橙には思ってくれる人がいっぱいいる。 だから、橙だけは…と。

「孤独に生きてきた人はそういった感情に駆られものだ。でも、あたしと違って、お前には手を差し伸べてくれる仲間がいるはずだ」

妹紅には、手を差し伸べてくる人がいないのだろうか?


「お前が死んだら悲しむ人がいるんだよ。そこをきちんとわきまえな」


俺は、手の平を見つめる。

三人の顔。

今日、出会った妖怪、人間達。

「ありがとう。何となくわかった気がする。」

そう、俺には…橙だって、紫だって、藍だっているじゃないか。

死にぞこない、じゃないんだ…。あの頃とは違う。

「妹紅…、だったら、君が危ない時は、俺が手を差し伸べるよ。」

妹紅に差し伸べてくれる人がいないというのなら、俺がそうしてあげるのみだ。

だって、妹紅は俺達を助けてくれた恩人なのだから。

そうじゃなくても、俺はきっとそう言うはず。

「なっ!?」

「だから、君も無茶しないで…くれよ」

妹紅はそっぽを向いて、頬をかいた。

俺と似ているというのだから、妹紅も、お人よしなんだ。

俺達を助けてくれて、匿ってくれているような、ね…。

「お前に手を差し伸べてもらってもな…」

「うっ…」

全くである。

幻想郷で生きていく術も知らない俺なんかにね。

「いや、そのさ、あ…あ、ありがとうな…。でも、あんまりあたしと関わらないほうがいい」

嬉しさに満ちた表情はかげりを見せ始める。

「な、なんで?」

「あたしは不老不死の人間だから…さ」

妹紅は目を伏せてしまう

不老、不死だって?

死なないし、年老いていくこともしない?

驚きで一杯だった。

人間であったことももちろん、不老不死であったこと。

「……そう…か」

「…お前が死んだ時、悲しみを持つのは…あたしなんだからな…」

妹紅の言いたいことはよくわかる。

不老不死であるのなら、人と関わった時。

老いて行く姿を見なければいけない、死を受け止めなければ、いけない。

妹紅は、どれほどの死を見てきて、泣いてきたのだろうか…。

悲しみを背負うのは、いつも…妹紅なのかな

「人間の寿命は短い、その間に、君とどれくらいしゃべれるだろうかな」

俺には、元気づけてあげられる言葉なんて、見つからなかった。

未だ幻想郷で充分な知識を持つことのない俺が、不老不死を直せるわけもなく。

不老不死の苦しみは、不老不死を持ったものにしか、わからないからだ。

それでも、生きている人間がその一生を終えるまでに妹紅と多く関われたのなら。

それは、悲しいことなんかじゃないはずだ。

「…バーカ」

今まで見てきて、似合わない言葉を口にしたので、つぃ笑ってしまった。


「………泣いてしまうの、あたしなんだからな」

ポツリッと妹紅が何かをこぼした。

「え、今なんていっ…て…」

突然、床に闇への扉が開いた。

すぐに喜びの感情が流れ込んでくる。

「お、おぃ!?」

妹紅が卓袱台から身を乗り出して、闇へ落ちていこうとする俺へ手を伸ばした。

はは、妹紅はすでに手を差し伸べてくれた。

でも、俺は首を横に振って、橙の手を握った。




闇に吸い込まれていく…。




しかし、恐怖とかそういうのはなくて。

ただただ、嬉しかった。