落ち着きを取り戻した後、八雲家を案内してもらった。

「…なぁ、藍、聞いていいか?」

「うん?」

「俺は ここにいて いいのか?」

紫には優しい言葉をかけてもらったけど…。

まだ自分がここにいていいのか不安だった。

突然現れた俺が、ここに住んでしまって藍や橙や紫は本当に、いいのだろうか…。

先頭を歩いていた藍は立ち止まって、俺に微笑みかけた。

「いいよ、紫様はそれを望んでいる」

橙と藍はまだ、俺をここに置いていいのか迷っているのだろうか。

「そ、そうか…。本当にありがとうな」

「気にしない気にしない、さ、茶の間へ戻ろうか」

藍には、風呂やトイレ、茶の間や縁側を紹介してもらった。

俺が寝ていた部屋は客間みたいなものだ、とか。



縁側で見た、空は現実と変わらず、茜色に焼けていた。

あぁ、もう夕方なのか、そう思った。

果たしてその夕方が現実で見た日の夕方なのか、それとも日を跨いでの夕方なのかは定かではない。


「じゃあ、茶の間へ行こうか」

「そうだね」

位置がまだ微妙な感じなので、藍の後ろへついていく。


茶の間には親父座りをした紫がいた。


「紫様、寝なくて大丈夫なんですか?」

「藍、気にしすぎよ、主人の体調を気遣うのはいいけどね…私は病人じゃないのよ?」

「紫はずっと寝ているのか?」

「まぁ、…やることないからね」

紫は卓袱台に頬杖をついて言った。

「…仕事とかしてないの?」

「してるわよ!、隙間の管理…」

なぜか後半が小さくなっていく紫。

「隙間?」

「幻想郷と現実を行き来するのには、隙間っていうものを使うの」

「ほれ」と言って、紫のすぐ隣に奇妙な切れ目が存在した。

切れ目の中にはいくつもの目玉があり、決して自分から入ろうとは思わない。

「私は境界を操る妖怪、幻想郷の住人が、現実に飛ばないように管理したりするのよ」

「まぁ、そんなことはめったにないのだけれど」と小さく呟く紫。

「へぇ~」

すると、藍は一つため息を零した。

「大体は私がやっています」

自分を呼ぶ差して、藍が俺へ向けて呟いた。

「失礼しちゃうわね」

頬を膨らませてかわいらしく怒ってみせる紫。

聞こえていたみたいだった。



そんな二人のやりとりが微笑ましく思えた。

「藍~夕食作ってよ~」

藍の話を聞く限り「ニート」っぽい紫が、ニートっぽい発言をし始めた。


「わかりました。何がいいですか?」

「和食がいいな」

「はーい」

何の不満を漏らさずに藍は、台所で料理を作りはじめた。

こういうことが日常茶飯事なんだろうねぇ…。まるで、妻と夫みたいだ。


すると、服の袖がクイクイと引っ張られた。

「神無さん、遊びませんか?」

その人物は橙とかいった、猫耳の少女だった。

俺よりも小さな身長で見上げている姿はかわいい。

「橙、俺の名前は神無でいいよ。さん付けされるなんて、似合わないし」

ここでお世話になる以上、他人行儀は避けたいと思った。

「そう…ですか?それでは、神無…遊びませんか?」

「敬語もやめていいよ、よそよそしくてなんかやだ」

「うんっ!!わかった」

「えへっ」とにっこり笑う姿は、先ほどまでの俺とは対照的だった。

いや、今もかも、しれない。

「じゃあ、何する?」

橙が袖を掴んでいた手と、俺の手が自然と重なる。

「トランプしたい!ばば抜きやろうっ!」

「おぅ」

俺の腕ごと、両手を上にあげて喜んで橙はトランプを配り始めた。

「橙は強いよ?」

「どうかなぁ~」

大体ばば抜きなんてものは運であろう、強い弱いなんてないはず…。

いや、運ではなく心理戦なのかもしれない。

相手にジョーカーの位置を悟られることなく、うまくジョーカーを引かせる…か。

カードゲームは奥深い。

だからこそ、少女になんて負ける気がしない!


そして、二人の真剣勝負が始まった。