―――あの日から一年が過ぎた。

僕達の復旧作業はとてもよく進み。 

過ごしていた日々へと戻り始めていた。


今日も青空が僕達の生活を祝福してくれている。

そんな些細なことも幸福に思える今日この頃だ。


そんなことを考えている柳達は、一つの転機を迎えていた。


それは、決して永遠の別れではないものの…。

一つの区切りである。


「じゃあ…私は行くね」

「私も、行かねばなるまい」

大人びた顔立ち、立派に育くまれた鱗と翼、鋭く伸びた爪はあの頃の風とは全く違った様に思える。

そう、これがドラゴンなのだと教えてくれる。

そして、彼女の母親でもあるアヤもまた、母親としての役目を終えて、旅立とうとしていた。

「あぁ、元気でな…風、アヤ」

「うぅ、寂しいですよ風ちゃん…アヤさんっ!」

僕達のお別れを、アルはきっと優しく送り出してくれるはずだ…。

「風は何で旅立つかわかるよね?」

「うん、この世界は人間の男性と共に暮らすことが普通だから、私の夫を見つけ出せばいいんでしょ…」

はぁ、娘を送り出す父親というのは、こんな気持ちなのかぁーとしみじみと噛み締めながら。

しかし、新たな旅立ちというのに風の顔は冴えないまま。

仕方ないか、過ごしなれてきた地を離れるし、僕たちとも一時的なお別れになるんだし。

「ううん、夫を見つけだすんじゃなくて、自分の好きな人を見つけ出せばいいのさ、その人とめでたく結ばれればもう、僕に言うことはないよ」

そんな、風と柳の会話の外では、

「アヤさん、なぜ行ってしまわれるのですか…まだメコにはわかりませんよぉ…」

先ほどお別れの言葉を言ったはずなのに、メコはまだ、アヤをとめようとしていた。

「私は娘である風がここにいるからこそ、母としてここにとどまったまでだ……メコと柳はお似合いだからなぁ、邪魔しては悪いし…」

メコの耳はいいはずなのに、最後の方は本当に蚊の鳴くような声であったため、聞こえなかった。


「だから私も、娘が旅立つというのならば、ここを去るしかないだろう」

「うぅ、アヤさぁぁん…」

「メコ、アヤはそう言っているんだ、未練を残さないように見送ってあげよう」

メコの頭を優しく撫でながら、二人は寄り添って、旅立つ二人を見つめる。

娘のを送り出す両親のような感じであった。

「ねぇ、パパぁ…」


「うん?」

沈んだ表情は変わり、キョトンとした顔をする風。


「パパは今、好きな人を見つけ出せばいいって、言ったよね?」

「あ、あぁ、それが人でも魔物でも、とてもすばらしいことだからだよっ」

それを聞いて何かを確信したのか、風の表情は、喜びの笑みを咲かせた。



「じゃあ、私、もう見つけちゃったよっ!!」


と、寄り添っていたメコを押しのけて、柳の胸で飛び込む風。


「えっ、な、何やってるんだ?」

「私の好きな人はパパなんだよ?じゃあ、パパと結ばれればいいんだよね?」

「「へっ?」」

メコと柳が驚きに驚いた声をだし、アヤは口を開けたまま呆然と眺めている。

「じゃあ私パパと結ばれる!ね、いいでしょぉっ?」

成長したドラゴンであるその体をすりすりと押し付けられて、柳は戸惑ってしまい、動きを停止させてしまう。

「ちょ、何をやっているんですか風ちゃん!?柳さんは私の夫なんですよ?」

さすがはドラゴン、馬鹿力を発揮して、引き剥がそうとするメコをもろともしない。

「だったら、私も二人目の妻として嫁ぐもん!」


「な、なななっ…だめです!」

むむぅーと口をくの字に曲げて必死にかぶりついている。

「だったらっ!!!」


そこで、また新たな問題が増えた。

三人の視線は、その声の主へと向く。



「私も三人目の妻として嫁ぐまでだ!!!今までメコがいると我慢していたが、もう無理だぞ!私も甘えさせてくれ、パパ!」

アヤもまた妻として表明を始めたのだ。

ていうか、アヤはアヤで甘えさせてくれって、どういう趣向!?

「おいおい、二人のお別れだって聞いてきてみれば…緊張感のかけらもないな」

「緊張感なんてなくていいんだよっ!だって、私達お別れしないもん」

「えっ、しないのかよ?」

ポカーンとしているリオをよそ目に、アヤと風は何かを爆発させたように柳へ強く抱きつき、すりすり攻撃中。

今まで我慢していた分が一気に来たのだろう。

「わーたーしも、柳さんとイチャイチャしたいーですぅ!」

それを阻止しようと力負けしているメコはメコで涙目である。



「では、俺も四人目の妻として…」

おずおずといったように手をあげるリオ。

「「「結局あんたもかいっ!!」」」

と三人同時に突っ込む。

この世界って一夫一妻じゃなかったの…?法律にひっかがらないよね?

と現実的な問題を心配する柳だが、この状況を生み出した柳も問題である。


そんな楽しい日々は今日も続いていた…。




そして、また、もう一人…。


「じゃあ、あたしは五人目の妻かなぁ?出遅れちゃったわっ」


とても聞き覚えるのある、陽気な声が聞こえて、



五人はゆっくりと、その声が聞こえたであろう方向を向く。

それぞれ、「えっ…」という顔をしたまま。



「…嘘、ですよね」

一番に声をあげたのは、両手で口を押さえたまま驚きで動くことのできないメコ

「もう、やだなぁ、あたしは君達が知っている…アルラウネの「アル」だよっ?」


ニコッと太陽にも負けない輝きを放っているその笑顔。

柳はゆっくりと立ち上がり、アルを見つめた後。

「アル、アル!!!」

勢い良く、アルの胸元へ飛び込んだ。

「あはは、くすぐったいよぉ柳…」

そうは言いながらも、アルは柳の頭を撫で始める。

その瞳はとてもうっとりとしていた。

「どうして、どうして、生きているの…?」

「だ~めっ?」

いたずらっぽくそう言った。


「生きてて嬉しいんだけどっ!でも、知りたくて…」





「それはね、柳に渡したペンダントのおかげなの、あそこにはあたしが作った種子が入ってたから」

「ふふ、隠してたのよ」といたずらっぽく笑って見せた。



「もしかして、土に埋めたから、成長して…?」


「うんっ、柳達の頑張り、あたしにもきちんと伝わってきたよ、だから…ね?あたしも五人目の妻でいいでしょ?」

こんな中でも、アルはしっかりと妻表明を忘れない。


「もぅ、アルが生きているのなら、なんでもいいよ」

嬉し涙を流しながら、柳はそう呟いた。


「あたしも、見てるだけじゃないよ?きちんと変わったよ、毎日変わってたよ」



嬉しそうにはにかみながら、アルは柳を強く抱きしめた。


「こうやって柳を強く抱きしめても、怖くなんか無いもん、むしろ、優しい気持ちでいっぱいになるんだよっ」



以前とは違って、アルの雰囲気は変わっていた。

少しだけ、大人びていたのだ。

それもまた、アルの言う、変わるということなのだろうか。

「ねぇ、みんな、折角帰ってきたんだから、これだけ、言わせてね?」






「…うん」


「ただいま、柳、メコ、リオ、アヤ、風!」


「おかえり、アルっ!」

「おかえりなさいですぅ、アルさぁん!」

「おかえりっ、アルさん!!」

「私はきっと帰ってくると、信じていたぞ…おかえり、アル」





「もう一度、ここから始めよっ?柳♪」


「あぁ、また、ここから始まるんだね…」

四人はそれぞれ涙を零しながら。


あの日々が戻ってくる喜びを噛み締めていたのだった。






~best end~





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急展開に、急ぎのendで申し訳ないwつたない文章になってしまいました。
これにて ネコマタ完結でございます

今まで読んでくださった方方ありがとうございました!