風を拾ってから3ヶ月程の月日が流れた。

風は、メコと柳に優しく丁寧に育てられて、すでに立派に成長を遂げていたのだった。

とても成長が早い!と驚く柳の隣には、柳の肩まで身長が伸びた風の姿があった。

身長とともに鱗は大きくなり、小さかった羽根は立派なものになっていた。

爪も大きく鋭いものに成長し、薄い茶色のような角も突き出ている。

それはまるで、獲物を捕らえようとする一人のハンターであり。

いつか、何かのはずみで柳は大変なことになるのではないかと心配していたが

メコに「魔力で覆っているから大丈夫ですよ」という一言で安心できたのだ。



柳は「ドラゴン」という種族を見たことが無かったのだが。


そんな彼でも思える、彼女が「ドラゴン」であると…。

「パパー!!おっはよーぅ!!」

ベッドから起き上がってきた風が思いっきり柳が抱きついてきたのだ。


果たして、これが…ドラゴンなのだろうか…。

メコ達は口々に「ドラゴンは高慢で強気な態度」というのに、風は全くそのようなものを感じ取れない。


やはり、この身長の高さであってもまだ3ヶ月程なのだから、子供ということでいいのだろうか。

基準がよくわからない柳は困惑するばかりだった。

「どうしたのパパ?私の顔見つめちゃって~っ、きゃ、恥ずかしい」

頬に両手を当てて、体をフリフリする風。

…どちらかというと 乙女だ。


だが、とても良い子なのは確かである。

メコのように風は柳の農作業を少しずつ手伝い始めたのだ。

できることが多くなればなるほど、風の笑みは満足度がアップしていき。

今となっては主戦力の一つである。

そんな中、アルは「ドラゴンを従えさせて農作業をやらせるなんて、すごいね~。」とか「まさか、ドラゴンが農作業してる姿を見られるとは…」とわきあいあいと呟いていた


あんな立派な鱗や羽があるのに、のんびりと畑仕事に精を出す風。


そんなギャップに、失礼とわかっていながら柳は吹き出した。


話は変わり、風はたびたび「ねぇパパ、ママってどこにいるの?」と、当然、疑問に思うことを投げかけられた。

柳は「今は遠いところで生活してるけど、いつか帰ってくると思うよ」と申し訳ないと思いながら、それっぽいことを言って誤魔化すしかできなかった。

風は「ふーん、そうなんだっ、早く一緒に生活したいね」と何のかげりのない笑顔を見せてくれる。

その度に柳の良心が痛んでいた。


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そんなある日、今まで嵐の時にしか聞こえないような轟音が外から響いた。

「んっ?」

早朝ということで、柳以外の二人は眠りに落ちていたが、気になった柳は外へと出てみる。

ドアの軋む音が不気味に響いて、柳の不安を掻き立てる。

外には何もなかった


畑には元気な野菜達が太陽へまっすぐ伸びており、隣にはアルが花弁を閉じて眠っていた。


「…?」


畑の方向へゆっくりと歩いている途中、頭上で、先ほど聞いた轟音が響き、

柳はその危機感をばねにして横へ飛んだ。

轟音は地上を深くえぐりこんでおり、柳が元いた場所には小さなクレーターができていた。

「な、なんだよっ」

青空を見ると、鱗を全身にまとった飛行物体が家の周りを羽根を広げて飛んでいた。

それはまるで、ドラゴン、のようで…。

「っ!?」

そう思った瞬間に、柳の背筋に冷たいものが走った。


ま、まさか、風を取り返しに来たのでは…?

飛行物体は一回りすると、けたたましい砂埃を周囲に撒き散らしながら、柳より距離を置いて地上へと降り立った。



それはまるっきり、風だった。

あえていうなら、風を大人にしてキリッとさせたということだろうか。

「用件だけを言うぞ、私が拾った卵を返して貰おうか?既に卵ではなくなっているがな」

凛とした声を聞こえる。

「私が拾った…?」

体勢を立て直した柳は母親らしきドラゴンへ質問するが、答えは返ってこない。

その代わりに重い一歩が地上へ轟いた。

「返してもらうぞ」

「お前はあの子の母親なのか?」

「本当の母親ではないが、あの娘を拾ったのは私だ」

僕と同じ状況、なのか…?

だとしたら、本当の両親に会うことができないのか、風は…。

柳はそう思う…。

「そんなことは私にとってどうもでいい、私の巣から卵を奪い去った貴様らを塵も残さず、灰にしてやるだけだ!!」

大きく口を開けたと思ったら、直後に頭上を炎の放射物が過ぎ去った。

柳は感覚に体を任せて、伏せていた。

ギリギリのところでドラゴンの攻撃を避けることができた。

「それは誤解だっ、僕は卵を奪ってなんかいない!」

「犯人を信じる程、私はお人好しではないぞ!!」

柳には何の攻撃力もなく、魔物と真正面からぶつかれば死に至ってしまうことだってある。

そんな彼にも容赦なく、ドラゴンの攻撃が襲い掛かる。

爪を大きく振り上げると、でかい風の波がカッターのようなものになり、柳の体を一刀両断しようとする。

「くそ、避けられない!?」

連続でカッターを生産し、横、下、上。

生身の人間が回避できるであろう場所をことごとく潰していく。

カッターが迫って来る中、柳は動くことができず、「ここで終わってしまうのか!?」と何とか脳みそをふる回転させるが。

この危機的状況を打破するには、カッター自体を潰さなくてはいけない。

もう、どうしようもなかった。

寸前までカッターが迫ってきた時

「だめか…!」


地上から太い幹が突然現れて、カッターを何とか防いでくれていた。

幹と風がぶつかり、軋む音が聞こえる。

間一髪の出来事に、心臓が激しく脈だっているのがよくわかった。

「…幹…」

一歩後ろへ後退すると。

「全く、うるさくて寝れはしないよ」

後ろで花弁を閉じていたはずのアルの声が聞こえ振り返ると


アルは、植物の上から体を出していた。

「あ、アル…」

「何となく会話は聞こえてきたよ。そこのドラゴン、この青年が卵を盗んだ証拠があるって言うの?」

「当然だ、その家に私が拾ったはずの娘がいる」

「それが証拠になるとでも?あたしの友人は卵を受け取った姿を見ているはずだよ、しかも三人もねっ」



「さぁ、果たして一人の証言と三人の一致した証言、どちらを信じるんでしょうね?」

「ほざけ、私は力づくでも娘を返してもらうぞ」

突然、大きな一歩を踏み出したドラゴンは素早い動きで柳へと近づく。

「なっ!?」

「柳、逃げて!」

その素早い動きに反応できなかったアルは大声を上げるが…。

「私の娘をたぶらかした罪、お前の死でもって償ってもらう」

鋭い爪が迫ってこようとした。

アルは動けない、柳も反応はできない。

絶対絶命の危機。
絶対絶命の危機。