柳一家では大きなイベントであった、「山を下りて、町へ婚前旅行へ行く」というイベントを終えた翌朝。

メコが朝食の準備をして、柳が風と一緒に歯磨きしたり、遊んであげたり。


そして、三人で一緒に食卓を囲ったその風景は、まるで家族のようであった。

「うん、おいしぃよ、メコはやっぱり料理がうまいね」

あの頃は僕が料理をしていたのに、変わってしまったなぁ…。

柳はちょっぴり寂しそうに心の中で呟いた。

「この料理うまーいっ!メコお姉ちゃん料理上手なんだ~!」

柳のことは「パパ」と呼んでるわりには、メコのことは「メコお姉ちゃん」ということで納まっている

メコは「どうして、ママって呼んでくれないんだろう」と唇を尖らせていた。

というより、考えてみれば妥当な判断をしたとは思う柳。

この世界で魔物が母親になり、父親が人間の男性になるのだとしたら、最初に見た「人間の男性」は父親だと思って正解だろうが。

自分以外の種族のことを見て、それを母親だと思うだろうか。

風自身が自分のことを「ドラゴン」の種族だとわかっている前提の話ではあるが。

まぁ、卵から出てきた時点で「ネコマタ」の種族ではないことは丸わかりではある。

そんな知識も風は持ち合わせていないだろう。

「さて、それじゃ、食べたものはきちんと片付けなきゃだめだよ?お片づけしよっか」

柳が優しくそう言うと、風は気持ちいいくらい元気に「はーい!」と返事をして

てきぱきと仕事を終わらせていく。


「いい子ですね」

ネコマタはそんな風の姿を眺めて、笑顔で呟いた。

「うん、メコよりもいい子かもしれないね」

「そ、そんなことないですよっ!」

とネコマタは慌てたように食器片付け戦争に参加を始めた。

「さて、僕もっと…」


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翌日

今日は家族みんなで大会議を開いた。

席には、リオ、メコ、アル、柳の四人。

風はベッドで昼寝している。

「今日集まってもらったのは他でもないのだが…アル、お前はここに来て大丈夫なの?」

「な、なんとか…」

植物である彼女がむやみに動いてしまって大丈夫なんだろうか。

会議を始めていないにも関わらず不安を一つ抱えてしまった柳であった。

「とりあえず本題に入るよ、実を言うと、アルとリオに聞きたいことがあって集まってもらったんだが」

「おぅ、で、その用件ていうのは何なんだ?」

「えっと、ね、そのぉ、リオとアルは、僕とメコみたいに、夫婦としての夫を見つけなくていいのか?」

その言葉に一番異常に反応を見せたのはメコである。

「ぼぼぼぼくとメコみたいな夫婦…」と蚊の泣くような声でその言葉を繰り返し呟くが、他三人には聞こえていない。

すると、リオが口を開く。

「町を降りる時も俺にその話をしていたが…そんなに気になるのか?」

「いや、だって、リオとアルにはお世話になってるわけだし、僕に縛られてるみたいで…」

柳は言いずらそうに、紡いでいくが。

「俺にだって気に入っている奴がいる、そしてそいつを守ることができる、それだけで俺は充分、幸せなんだよ」

リオは堂々とそう言い放った。

「あ、アルはどうなんだ?アルだって僕に縛られている必要なんて、ないんだよ?」

「あたしはあたしが生きたいところで生きてるんだよ♪、ここの畑は住みやすいし、それに…」




「あたしも、気に入っている人と毎日が過ごせるのなら、それでいいと思ってるからさ」


その二人の言葉は、柳の背に乗っかっている重い「もの」を軽くしたのだった。

「そうか、その二人の言葉が聞けただけで嬉しいよ…これからもよろしくね、アル、リオ」


「俺としては当然だけどな」

「うん、これからもよろしっくね~」


にっこりと笑顔を交し合う三人。

しかしメコはキョトンとした表情で座り、

「気に入っている人って誰なんでしょうね?」

と今までの会話を聞いていた人ならずっこけそうになる発言をした。



しかし柳はずっこけそうになるのを抑えて…。

「もしかしかたらメコのことかもねー」

と冗談混じりに言っておいた。

「リオさん、アルさん!私にはややややや柳さんがいますから!!そ、そういうのはご遠慮願ぎゃいます!!」


と、やや焦りながら叫ぶメコ。


二人は怪訝な表情を浮かべて

「「それを言うなら、「柳さんには私がいますから」ではないのかな…?」」

柳の呟きを聞いていない二人は、そんなことを思うのであった。