お前の家族を殺したのは 俺なんだ」
その言葉が放たれると共に、辛い過去の湖を静かに揺らし始めた。
「な、なんで、どうして…」
「ご、ご主人様…」
明らかに動揺している青年の手を、ゆっくりと握ってあげるネコマタ。
「…オーガ、それは本当なんだな」
少しだけ落ち着いてきた青年は、なんとか言葉を繋いだ。
「あぁ、だから、俺には償いきれない罪があるんだ…」
オーガは悲しそうに呟く。
「ご主人様、一体何があったんですか…?あまり言いたくないのならいいんですけど…」
一人だけ置いてけぼりをくらっているネコマタが状況説明を求めた。
話していいかどうか迷ったが、これからともに暮らしていく魔物なんだし、
ネコマタは自分の過去を語ってくれた。だったら、僕にも語らなくてはいけないだろう。
青年はそう思って、重い口を開いた。
「それは…僕がこの小屋で過ごすことになった理由でも、あるんだ」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
僕が住んでいる山のふもとには、元々、自然豊かに営んでいた村があったんだ。
そこには僕の家族もいた、とても、幸せに暮らしていた…。
だが、それは一瞬で砕け散ることになる。
「今は男性を愛するという価値観だが、昔は違った。魔物は人を喰らう者として生きていた」
だから、僕達の村は魔物達に襲われてしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「自然と共に生きていくことをとても大切にしていた僕達の村には、魔物達の襲撃を退ける防衛力もない」
「ご主人様に、そんな過去があったなんて…」
「村は壊滅し、村で生き残ったのは、僕一人だった」
その言葉を聞いた途端にネコマタは更にぎゅっと両手で握ってくる。
「その時襲った魔物に、オーガ、君がいたっていうことか」
「…そうだ、そして、俺はお前を見逃したんだ」
「見逃した…?」
「その時、魔王が代替わりしたんだ。魔物達の価値観は一瞬にして変わり、村人達を殺してしまった罪悪感に魔物達は見舞われた」
「そ、そんな昔に魔王が代替わり…?」
ということは、魔物が代替わりしていなかったら僕は殺されていたのか。
しかし、もう少し代替わりが早ければ、僕達の村はきっと平和であった。
そういう見方もできる。
だが、それではネコマタに出会うこともなかったのだろう。
運命は時に残酷で、時には幸福を与える。
「俺も同じだった。たった一人だけ取り残されたお前をとてもかわいそうに思った」
オーガは更に言葉を紡ぐ。
「山奥の小屋へ逃げ込み、静かに暮らしていることを知った俺は、お前に魔物が寄り付かないように見張ることにした。これが、罪滅ぼしにでもなれば…と」
彼女の言葉からは次々に知られない事実が述べられていく。
「そうか…長年魔物に会わなかったのはそれが原因だったのか」
確かにおかしいとは思ったんだ。長い間、山奥で魔物の一匹にも会えないなんて…。
「お前はきっと魔物を嫌っていると思ったんだ…」
「だが、そこのネコマタと一緒に暮らしていることを知って、もう、俺は必要がないのかもしれないと思った」
それは、僕がもう魔物と共に暮らしているから、魔物から守る必要がないということだろうか。
だから、あの時、アルラウネに会ったんだ…。
「そっか」
そう青年は一言相槌を打ち、ゆっくりと口を開いた。
「確かに、僕はお前が憎い、魔物が憎い。家族を殺され、友人を失い、独りぼっちで生きてきたのは、全てお前らのせいだ」
「ご主人様…?」
不安そうに青年を上目遣いで見つめるネコマタ。
「だけど、僕の隣には、この数年を充実にしてくれたネコマタがいる。畑には良き隣人であるアルラウネがいる。そして、目の前には、数年僕を守ってくれた頼もしいオーガがいる」
「魔物は嫌いだ、憎い。だけど、全て全てそうとは思ってないさ」
オーガは驚きの目で青年を見つめ、ネコマタは感激して、腕をきゅぅぅ~と絡める。
「ご主人様、私は隣にいて、いいんですね」
「あたりまえだよ!君のおかげで、僕がどれだけ救われたことか…」
「俺は、これからもお前達の手助けとなって、いいんだな?」
オーガは言いづらそうに、そう呟いた。
「あぁ、頼む、よ」
そんなオーガの表情とは違い、青年はとてもすがすがしい笑顔であった。
「話してくれて、ありがとうな。もう、罪を背負わなくて良い」
「ご主人様ぁ!!やっぱり、ご主人様は私のご主人様、です♪」
話が終えると、思いっきり抱きついてくるネコマタ。
青年は苦笑いしながら頭を撫でてあげる。
「少しだけ、私の過去と、似ていますね」
目の端っこに涙を浮かべながら、ネコマタは呟いた。
「そうだね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌朝。
今日も元気よく農作業を始めた青年達は、何も変わってはいない。
「アルラウネ~土壌はどんな感じ?」
「うむ隊長、野菜が育ちやすいように弱アルカリ性にしてあるよ~!」
昨日の嵐はどんよりとした雲を取り去ってくれ、強い日光がアルラウネに降り注ぎ気持ちよさそうであった。
「よろしい、では継続してくれ」
「あいあいさ」
そんなのんきな会話をして。
ネコマタと一緒に農作業をしていると、オーガが現れた。
「よぉ、夫婦二人」
「ふ、ふうふ…」
相変わらず、この単語を聞くとネコマタは顔を真っ赤にして小さくなる。
「よ、どうかしたのか?」
青年は何も変わらないということをアピールするように、気軽にオーガに話しをかけた。
「これをもってきたんだ」
オーガが持っていたのは、農作物用の支柱と跳ね泥用の藁であった。
「おぉ、ありがとうね。この野菜が収穫できたら一緒に食事でもしようか」
「おぅ!」
オーガはそう笑顔で返事して、農作業を手伝い始めたのであった。
アルラウネは「自分は?」という顔でこちらを見つめていた。
「いや、君は食事取らないでもいいんじゃないの・・・?」
というより、そこから動かないといけないからめんどくさいだろう。
「冗談だよっ♪さてさて、ちゃっちゃと作業を終わらせよーよ」
「そうだね!」
こうして、四人は楽しい日々の第一歩を踏み出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
前回のタイトルは「第四話」ではなくて「第五話」です
msりました、すいません!
てことで一応終わりになります。
また続きが見たいとかあれば続けますがねw
それではさらばじゃ!
その言葉が放たれると共に、辛い過去の湖を静かに揺らし始めた。
「な、なんで、どうして…」
「ご、ご主人様…」
明らかに動揺している青年の手を、ゆっくりと握ってあげるネコマタ。
「…オーガ、それは本当なんだな」
少しだけ落ち着いてきた青年は、なんとか言葉を繋いだ。
「あぁ、だから、俺には償いきれない罪があるんだ…」
オーガは悲しそうに呟く。
「ご主人様、一体何があったんですか…?あまり言いたくないのならいいんですけど…」
一人だけ置いてけぼりをくらっているネコマタが状況説明を求めた。
話していいかどうか迷ったが、これからともに暮らしていく魔物なんだし、
ネコマタは自分の過去を語ってくれた。だったら、僕にも語らなくてはいけないだろう。
青年はそう思って、重い口を開いた。
「それは…僕がこの小屋で過ごすことになった理由でも、あるんだ」
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僕が住んでいる山のふもとには、元々、自然豊かに営んでいた村があったんだ。
そこには僕の家族もいた、とても、幸せに暮らしていた…。
だが、それは一瞬で砕け散ることになる。
「今は男性を愛するという価値観だが、昔は違った。魔物は人を喰らう者として生きていた」
だから、僕達の村は魔物達に襲われてしまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「自然と共に生きていくことをとても大切にしていた僕達の村には、魔物達の襲撃を退ける防衛力もない」
「ご主人様に、そんな過去があったなんて…」
「村は壊滅し、村で生き残ったのは、僕一人だった」
その言葉を聞いた途端にネコマタは更にぎゅっと両手で握ってくる。
「その時襲った魔物に、オーガ、君がいたっていうことか」
「…そうだ、そして、俺はお前を見逃したんだ」
「見逃した…?」
「その時、魔王が代替わりしたんだ。魔物達の価値観は一瞬にして変わり、村人達を殺してしまった罪悪感に魔物達は見舞われた」
「そ、そんな昔に魔王が代替わり…?」
ということは、魔物が代替わりしていなかったら僕は殺されていたのか。
しかし、もう少し代替わりが早ければ、僕達の村はきっと平和であった。
そういう見方もできる。
だが、それではネコマタに出会うこともなかったのだろう。
運命は時に残酷で、時には幸福を与える。
「俺も同じだった。たった一人だけ取り残されたお前をとてもかわいそうに思った」
オーガは更に言葉を紡ぐ。
「山奥の小屋へ逃げ込み、静かに暮らしていることを知った俺は、お前に魔物が寄り付かないように見張ることにした。これが、罪滅ぼしにでもなれば…と」
彼女の言葉からは次々に知られない事実が述べられていく。
「そうか…長年魔物に会わなかったのはそれが原因だったのか」
確かにおかしいとは思ったんだ。長い間、山奥で魔物の一匹にも会えないなんて…。
「お前はきっと魔物を嫌っていると思ったんだ…」
「だが、そこのネコマタと一緒に暮らしていることを知って、もう、俺は必要がないのかもしれないと思った」
それは、僕がもう魔物と共に暮らしているから、魔物から守る必要がないということだろうか。
だから、あの時、アルラウネに会ったんだ…。
「そっか」
そう青年は一言相槌を打ち、ゆっくりと口を開いた。
「確かに、僕はお前が憎い、魔物が憎い。家族を殺され、友人を失い、独りぼっちで生きてきたのは、全てお前らのせいだ」
「ご主人様…?」
不安そうに青年を上目遣いで見つめるネコマタ。
「だけど、僕の隣には、この数年を充実にしてくれたネコマタがいる。畑には良き隣人であるアルラウネがいる。そして、目の前には、数年僕を守ってくれた頼もしいオーガがいる」
「魔物は嫌いだ、憎い。だけど、全て全てそうとは思ってないさ」
オーガは驚きの目で青年を見つめ、ネコマタは感激して、腕をきゅぅぅ~と絡める。
「ご主人様、私は隣にいて、いいんですね」
「あたりまえだよ!君のおかげで、僕がどれだけ救われたことか…」
「俺は、これからもお前達の手助けとなって、いいんだな?」
オーガは言いづらそうに、そう呟いた。
「あぁ、頼む、よ」
そんなオーガの表情とは違い、青年はとてもすがすがしい笑顔であった。
「話してくれて、ありがとうな。もう、罪を背負わなくて良い」
「ご主人様ぁ!!やっぱり、ご主人様は私のご主人様、です♪」
話が終えると、思いっきり抱きついてくるネコマタ。
青年は苦笑いしながら頭を撫でてあげる。
「少しだけ、私の過去と、似ていますね」
目の端っこに涙を浮かべながら、ネコマタは呟いた。
「そうだね」
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
翌朝。
今日も元気よく農作業を始めた青年達は、何も変わってはいない。
「アルラウネ~土壌はどんな感じ?」
「うむ隊長、野菜が育ちやすいように弱アルカリ性にしてあるよ~!」
昨日の嵐はどんよりとした雲を取り去ってくれ、強い日光がアルラウネに降り注ぎ気持ちよさそうであった。
「よろしい、では継続してくれ」
「あいあいさ」
そんなのんきな会話をして。
ネコマタと一緒に農作業をしていると、オーガが現れた。
「よぉ、夫婦二人」
「ふ、ふうふ…」
相変わらず、この単語を聞くとネコマタは顔を真っ赤にして小さくなる。
「よ、どうかしたのか?」
青年は何も変わらないということをアピールするように、気軽にオーガに話しをかけた。
「これをもってきたんだ」
オーガが持っていたのは、農作物用の支柱と跳ね泥用の藁であった。
「おぉ、ありがとうね。この野菜が収穫できたら一緒に食事でもしようか」
「おぅ!」
オーガはそう笑顔で返事して、農作業を手伝い始めたのであった。
アルラウネは「自分は?」という顔でこちらを見つめていた。
「いや、君は食事取らないでもいいんじゃないの・・・?」
というより、そこから動かないといけないからめんどくさいだろう。
「冗談だよっ♪さてさて、ちゃっちゃと作業を終わらせよーよ」
「そうだね!」
こうして、四人は楽しい日々の第一歩を踏み出した。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
前回のタイトルは「第四話」ではなくて「第五話」です
msりました、すいません!
てことで一応終わりになります。
また続きが見たいとかあれば続けますがねw
それではさらばじゃ!