翌日、青年達は朝早くから農作業を終えて、朝食を食べているところだった。


「ご主人様、このカレンダーに印されている赤丸ってなんでしょうか」

突然ネコマタが、壁に掛かっているカレンダーを指差してそう言った。

その質問を聞いて、青年は頭をぽりぽりと恥ずかしそうに掻いた。

「それは僕の誕生日だよ」

「た、誕生日ですか!?」

ネコマタはとても嬉しそうに驚いた。

「一人暮らしなのに、カレンダーに赤丸しても意味ないのにさ、恥ずかしいな」

少しだけそっぽを向いて、青年は言った。

「そんなことないです。愛するご主人様が生まれた、記念日じゃないですか」

両手を胸に当てて、ネコマタは愛おしそうに青年を見つめる。

「そう言ってもらえると、嬉しいよ」


そんな会話を続けていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「誰だろ…」


こんな山奥のぼろ小屋に訪れる客なんて、はっきり言って、いないと思っている青年は、警戒しながらドアをゆっくりと開けた。

「こんにちは~そこの畑に越してきたアルラウネでーす」

そんな気の抜けた声を発している目の前の物体は、言葉の通りアルラウネであった。

青年は数秒凝視して、

「あ、昨日の?」

「そうだよぉ」

肩の力がスッと抜けていくのがわかった。

「で、畑に引っ越してくるって…一体どういう意味なんだ…?」

「そのままだよっ、そこにある畑に住もうかなって思って」

「農作業を邪魔しないでくれるなら、いいけどさ」

ネコマタは昨日、魔物は男性を愛する方に価値観が変わっていたと言っていたから。

危害を加えてくる気はないだろうな。

しかしながら、青年の後ろではネコマタがぷく~と頬を膨らませていた。

「ちょ、ご主人様、本当にいいんですか?」

「え、何が?」

「だ、だってどこの骨かもわからないアルラウネさんを住まわせてしまって…」

アルラウネが「あっ」と何かを考え付いたように手を挙げた。

「あたしを畑に住まわせることでのメリットならあるよ!たとえば、土を肥やしてあげたり、あたしの力ならできるよ?」


「むむ」


「それに、あたしはアルラウネの蜜を生産できるから、わけてあげてもいいよ?お隣さんとしてね♪」


「むむむぅ!」

後ろで座っていたはずのネコマタは青年の背中をぎゅぅぅ~と抱きしめる始末。

「あ、あははは、でもさ、君がここに住むことにどんなメリットがあるんだ?」

ここまで青年にメリットがあるとしても、張本人は何を得するのだろうか?


「それはもちろん!ご主人様を奪おうと思っているに決まっています」

ネコマタは自分の予想を口にして、更にぎゅぅぅと締め付けてくる。

「いや、まてまて、それ以上締め付けられたら内臓が飛び出ちゃうぞ…」

いや、これ、マジでやばいって…。

「そこの男の人死んじゃうよネコマタさん!奪う気ないから大丈夫だよっ!」

アルラウネのフォローが入ったためか、多少、腕の力が抜けた。

しかし、魔物だけあってとても腕力が強いというか…。

「あ、ありがとうアルラウネ…」

「う、うん、とりあえずあたしのメリットは、ここの畑の土壌がとても良いからなんだよ!ここに住めば健康だし、アルラウネの蜜も無事に生産できるの」

「な?ネコマタ、普通な理由でしょ?」

しかし、ネコマタはきゅっと青年の背中に顔を埋めて。

「で、でも、アルラウネさんは私よりもずっとかわいいと思いますし…」

そんなことを小声で言うネコマタ。

青年は振り向いて。

「そうかな?ネコマタはとってもかわいいと思うよ?」

優しく頭を撫でてあげた。

「ご、ご主人様…」



青年とネコマタが見詰め合う光景を目の前にしているアルラウネが、ため息をついて。

「見せ付けてくれるね~」

そう呟いた。




こうして、隣人が増えたのだった。