それから二年の月日が経っただろうか。
あの時拾った猫の体調は右上がりによくなっていった。
あの日から一週間して猫は歩けるまでに回復し、頭を撫でたり、じゃれたりして遊んでいた。
仕事の合間にそんな姿を見ると。
いつまでもこうしていたいという思いが強くなり。
更に仕事へ取り組めている青年。
そんな幸せな日々。
だが、青年は不思議に思っていたことがあった。
この猫は、じゃれてきたり、頭を撫でたりするのを好きなはずなのに。
たまに好きではないような、離れようとするしぐさを見せるのだ。
過度なのは嫌いってことだろうか。
青年は深く考えようと、しなかった。
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そんなある夜。
採取に釣りに農業という作業の連続で、慣れている青年でも、疲れがドッと体を押さえつけた。
今日はもう寝よう。
青年は猫の世話を終えると床へ着いた。
「ご主人さま……ご主人さま…」
青年は、まどろみの中で女性の声を聞いた。
しかし気にもしない。
疲れているから、疲れてもう、一歩も動きたくないからだ。
「もぅ、無理…です、私、我慢できません…」
何か聞こえるのだが、しっかりと聞こうと青年の耳はしなかった。
「ご主人様といると体が火照って疼いて仕方ないです」
ご、主人…?
脳みその血液が流れていないかのように、処理がうまくできない青年。
「ご主人様は私を助けてくださった命の恩人です。そんな恩人にこんなことをして許されるはずないですよね」
ただ流れてくる振動を受け取るだけの青年は目も開けず、夢と現実の狭間がよくわからなくなってきた。
「でも、二年間ずっとずっと我慢してきました…。もぅ、いいですよね?抑えきれないんで…す」
熱っぽい吐息が聞こえ、青年の下半身に微かな体重がかけられた。
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翌日、とても心地よい目覚めが青年を迎えると同時に、心臓が飛び出すくらいの驚きが襲った。
青年の横で、耳の生えた少女がすやすやと眠っていたからだ。
青年の腕に、少女は腕を絡めて幸せそうに眠っていた。
「んぅ…」
力のない呟きと共に、少しずつ瞼が上がっていく。
「ご主人…様…?」
青年はそう呼ばれて、昨夜の微かな記憶がめぐってくると同時に、一つの可能性が浮かんだ。
もしかしたら、この子は、僕が助けた猫ではないか。
青年は思うと同時に、その点について耳のついた少女に問う。
「そう、です。その通りです…!」
「私は猫の妖怪、ネコマタです…。ご主人様にいのちを助けて貰った猫です!」
少女はとても喜びに満ちた表情をしていた。
「ずっとずっと、この姿でご主人様と話してみたいと…思っていました…」
ぎゅっと腕を更に絡めてくる。
「ご主人様が、私のために頑張ってくれている姿、ずっと見ていました」
青年の目の前まで顔を近づけ。
うっとりとした表情を浮かべる少女。
「本当に、本当にありがとうございます…。よろしければ、ネコマタの私を、ご主人様のお傍に置いてくださいませんでしょうか…」
青年は突然の事実に驚きつつも。
正確に判断していく。
この子は僕が助けた猫。
僕はこの子のおかげで今まで生きてこれたのかもしれない。
感謝するのは僕の方なのかもしれない。
青年はそう思い、少女の頭を撫でてあげた。
すると、少女は「うにゃ…」と甘い声を上げて、目を細めた。
「僕からもお願いするよ、猫の姿であろうと、ネコマタの姿であろうと、僕が助けた君であることには変わりないんだ…。一緒にいてほしい…」
ぱぁぁと花が咲いていくように、笑顔に満たされてくる少女。
「君には、僕が持っていないものをいっぱいもらったんだ、いつも僕の傍にいてくれて、本当にありがとう…」
「ご主人様っ…! はいっ!」
「これからもよろしく、ね…?」
「はい、よろしくお願いします、ご主人様…!」
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簡潔です。
いえーいえ