「御主、今なんと申した?」

「てめーが魔物だから信じられねーつってんだよ。どーせグルかなんかなんだろ?リザードマンとドラゴンって大体同じに見えるしな」

…。

さすらいの中にフツフツと湧き上がる、本物の怒り。

今、ここであいつを切りたいと本能がうなってしかたない。

懐の剣に手を掛ける。

「なんだ?やろっていうのか!?やっぱ魔物は戦うことにしか頭にないんだな」

…その時、さすらいの頭の中でアツキの顔が浮かんだ。

アツキならどうする。アツキが我の立場だったらどう対処する。

アツキは戦いを好まない…。ここで騒動を起こしては、アツキやサラ殿にも被害が及ぶかもしれないのじゃぞ…!

さすらいは剣から手を離した。

「…我らの戦いには一人の勇者も参加しておった。そやつの話を聞けばわかってくれるじゃろうか」


「…ま、まぁな…」

「ではそれでよい、今勇者は取り込み中じゃ、もう少し待てば戻ってくるじゃろう」

さすらいはそう言い放ち、静かに目を閉じた。

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「おぉ、勇者様のお帰りだー!」

アツキが帰ってきて、町は歓喜の渦に巻き込まれていき。

「そこの君、さっきはすまなかったと思ってる…」

サラを追い出した町人達は頭を深く下げた。

「お、おぅ…勘違いは誰にでもあるから、気にすんな」

あたふたとサラは言った。

「皆聞いてくれ!ドラゴン族から町を救い出したのはこの二人だ。俺は手助けしただけなんだ」

「な、なんと…」「お二方、本当にありがとうございました」

「町の恩人三人よ!」


「どうじゃ、これで理解したかのぅ?」

「くっ…まぁ、勇者さんが言うからな」


さすらいはコクンと頷く。


「それでよい、無闇な殺生は好まないからのぅ」

そう言って、さすらいは笑った。

我も…アツキに感化されてきてしまったようじゃ。

「な、何何・・何があったのって・・あれ、アツキ?」

町人の中からひょっこり、見覚えのある女性が顔を出した。

「あ、まぉ…ラズ」

この場で魔王と言ってはまずいからな…。あぶないあぶないっ。


「なんかすごい騒ぎになってるから気になって来てみたけど…。またアツキなの?」

「いや!ラズ聞いてくれよ~、俺!この町の恩人になったんだよ!」

両手を握り締めて、はっきりそう言ってやった。

「アツキ…先ほど、手助けをしただけと申しておったが?」

さすらいがニヤニヤしながら鋭いところを付いてきた。

「う、うっさいなぁ…そこはもういいよ」

「なぁ、宴会あるみてぇーだけど、行くのか?」

「俺は行かない。サラとかドラゴン族とかでまぁまぁ疲れたから…宿屋で休むとするよ」


「じゃ、代わりに私が出るわぁ!」

キラキラと目を輝かせた魔王。

宴会という言葉に反応したのだろう。


「…太るぞよ?」

さすらいがポツンとこぼした。

露出の高い服だから…そういうのも気にするんだろうなぁ~。

「いっ…。や、やっぱやめとこうかなぁ…」

「んだよ、お前ら宴会に参加しねーの?すげー楽しそうなのによぉ」

「サラみたいに体力ないからな…さすらいはどうするの?」

「我も今日は疲れたぞ…ということで、我も宿屋へ向かうとする」

「そうか…宴会に参加すんのは俺だけか」

ちょっとしょんぼりしながらサラはこぼした。


「うん、じゃあね」

サラとは反対側に向かう三人。

「あ、アツキっ」

呼ばれて振り向くと、サラはそっぽを向いて。

「今日はありがとうな…いろいろと、すごくうれしかった」

頬は微かに、薄紅色だったかもしれない。

「おぅ、困ったことあったら何でも言ってくれ」

手を振って、俺達は宿屋へと向かった。