町へ一歩踏み入れると、ところどころに倒れている人達を見つけた。

「みんなボロボロね」

命まで奪われてはいないようだが、とりあえずボロボロであった。

「やっぱ、なんか起きてるな」

町の中心である、広場へ近付くにつれて、倒れている人達は数を増していった。

その先には、三人の魔物が仁王立ちで腕を組み、周辺に鋭い視線を送っていた。

「出没してんのはこいつらか」

俺はてっきり、ネズミの魔物とかが集団で現れてはいたるところをかじって、盗んでいくという軽いものを想像していた。

というより、願っていた。

面倒ごとに巻き込まれてしまうからだ。

「・・・さっきあった、リザードマンと同種類みたいね」

「そうみたいじゃのぅ・・・」

「じゃあ、なんで勝負を申し込んできたリザードマンは・・・ってうわぁ」

また、俺と魔王の隣に平然と姿を現す、先ほどのリザードマン。

名前は・・・。

「さすらいのリザードマン・・・どうしてこっちへ戻ってきたんだよ」

「ふむ、同種の匂いがして避けて通ったのじゃが、お主らに興味が沸いてのぅ、付いてきたらやっぱりといったところじゃ」

「避けて通ってないで・・・お前なんとかしろよ・・・」

「ここは勇者が集う町じゃから、どんな有能な戦士と戦えるかワクワクしておったのにぃ、おしかったわ」

「リザードマンは基本的、個人で行動する魔物なのよ。集団で行動している方が珍しいわ」

「なるほど、だから、このさすらい野郎は、この町を避けて来たのか」

「その通りじゃ」

ワイワイと三人の間に楽しく雑談が飛び交い、広場を通り過ぎようとする。

「ねぇ」

いい加減シビレを切らした三人の中の、一人であるリザードマンが声を掛ける。

「そこの三人、華麗に俺達をスルーしてくれるな」

今更だが、さすらい野郎といい、三人も全員女型だ。

俺の周りには女性しか集まらないという珍百景である。

「いい度胸しているな、俺達と勝負しろ!!」

ガッと顔を突き出して、鋭い視線を俺へ向ける。

「ふん、群れないと何もできない雑魚共がでかい口を叩くでない」

冷静に、さすらい野郎は敵に返した。

「おぃさすらい野郎、そのノリ、後はお前に任せた的な展開が読めてんだよ!!」

両手で肩揺らす。

「何を言う、わしも一人の戦士として戦う所存じゃぞ」

揺られながらさすらい野郎はそう言った。

なんとなく嬉しかったのだった。

俺はてっきり死亡フラグを予想していた。

「こんな雑魚共と同族にしてもらっては困るからのぅ」

相変わらず冷静に、毒舌を吐いているさすらい野郎に三人のリザードマンの怒りのボルテージMAXである。

後々、トバッチリを受けそうだ。

「どっちが雑魚か教えてやろうか」

巨大な剣を取り出した、男勝りのリザードマンがさすらい野郎に剣を向ける。

「剣を抜け、どちらが強者か、その体に叩き込んでやる」

「ふん、望むところ」


剣を抜かないうちに襲ってくる奴らとは、まぁ良いほうだと思った。

しかし、先ほどの戦いを見ていても、このさすらい君は強いとはいえない。

さすらいは、相手よりも遥かに細い剣を抜く。

「行くぞ!!!」

巨大な剣が、横に一振りされる。

あんなものをモロにくらったら、腰が砕けてしまう。

さすらいは軽い身のこなしで避け、上から、先ほどと同様の突きを繰り出す。

巨大な剣を持つ敵は、少し行動が鈍い。

「剣は巨大であればいいというものではないぞ」

「ちっ・・・スピードタイプか」

感情に任せて勝負を挑んでしまったことに後悔を感じるリザードマンの敵。

「だが、一撃でも喰らってしまえば身動きはとれない!!」

巨大な剣で防ぎながら、剣から炎を放出する。

「な、なんだあの技・・・」

「リザードマンは炎の使い手、得意の武器にながけているほど、炎と一体化できるわ」

次に、あの巨大な剣から炎を放出しながら、強い一振りを喰らわせようとする。

幸い、建物は広い広場から遠く、町が火事になることはない。

「・・・倒れてた奴らがボロボロだったのは炎のせいか」

対峙に視線を戻すと、強力な一撃を喰らう寸前であった。

「ふん、力任せの攻撃は大きな隙を生み出すぞ」

彼女は風の如く消えて、敵の背後から、首に剣を向けた。

「これでわしの勝利である」

敵は一瞬の出来事に困惑し、すぐに負けたことを理解した。

「・・・くっ、なかなかやるじゃねーか・・・」

膝を地に付き、敗北の印。

「お次はどいつじゃ」

「では、あたしが行くわ」

鋭い視線をさすらいに向ける。こいつはさすらいと同様のスピードタイプらしい。

「って、オイ!!お前、連戦なんてきついだろう」

「大丈夫じゃ、そこの筋肉馬鹿にはあまり魔力を使ってはおらぬ」

魔王がやれば一発で済む話なのにな。

魔王は隣で座り、のんびりと鑑賞を楽しんでおり、戦う気はゼロだった。

「危険になったら援護するから」

「必要ないわ!!」

「無駄話はそれぐらいにしておいてね、これから激痛があなたの体を襲うことになるから」

・・・なんで敵ってここまで自分の力に自信があるんだろうな。

「ふん、その言葉はお主に返すぞ」

今度はさすらいから勝負を仕掛けた、剣を縦に一振り。

スピードタイプらしく軽がと交わす敵。

敵の足が炎に包まれて、さすらいの隙を狙って顔面を打ちつけようとする。

さすらいはそれを交わす。

「ほぅ、お主は体術も得ているのか」

「無駄口はそれぐらいにしておかないと、舌を噛むわよ」

炎の剣がさすらいの体、寸前を突く。

「おっと、危ない」


バク転しながら、敵との距離を置いたさすらい。

「そろそろ、本気出すわね」

両手両足、それに剣にも炎が宿る。

「灼熱地獄、味わうがいいわ」

両足の炎を使って素早い攻撃を仕掛けるとともに、火力は上がっていく。

俺との対峙とは段違いの素早さをさすらいは見せ付ける。

・・・あいつ、最初から手加減して戦ってたのか?

「ここが隙じゃ」

剣と剣の境目を縫うように彼女は、敵の懐へ迫り、強力な肘を腹へ打ちつける。

「かはっ!」

あまりの衝撃に、口からは呻き声が飛び出す。

そのまま飛んでいってしまった。

「他愛もない。一方的な攻撃は、自分のターンを制すものの、一方的な体力と魔力の消費に繋がる」

さすらいは、敵の疲労を誘ったり、攻撃の隙を突いたりするのがお得意らしい。

その見事な勝利に繋げたのは、彼女の冷静で毒舌な口調にもある。

さすらいはわざと怒りを誘うことで、感情に任せた戦闘へ導いた。

試合が始まる前から、彼女の中で、試合は開始していたということだ。

侮れない奴だ・・・。



「さて、お次は私かしら~」

いつになく、さすらいは真剣な表情を見せる。

「雑魚にしては、かなりの力を持っているようじゃのぅ」

改めて剣先を、三人目のリザードマン。

かなりの力を持っているリザードマンを雑魚と呼ぶとは・・・。

さすらいって、マジで強いんじゃないか?

「魔王、さすらいのこと、どう思う?」

「アツキに勝負を申し込んだリザードマンの剣技は上等なものの、アツキよりは劣っているわ・・・」

名前が不明なだけ全くもって不便である。

「何か、裏のありそうな言い回しだな」

「・・・まぁ、見てればわかると思う」

魔王に言われて視線を戻すと、攻撃の一手はさすらいであった。

素早い動きで敵の背後を取った。

「な・・・早速その技を使うとはな」

驚いたのは、その攻撃についていったリザードマンである。

背後を取ったものの、剣による攻撃は、剣の摩擦音とともに塞がれてしまった。

「わしとの対峙を見て、少しは学習したようじゃのぅ」

さむらいの腹には、すでに相手の肘が打ちつけられていた。

「ふんっ・・・」

・・・見るからに、連戦の疲れが残っているように思えた。

相手を突き飛ばし、距離を置いたさすらいは、剣を懐から取り出した刀に変えた。

「わしは一人の戦士であり、侍でもある」

そう呟いたさすらいは、目を瞑り、鞘へ刀をしまう。

侍・・・。

「西洋の剣技はまだまだなものの、東洋の剣技は相当なもののようね」

さすらいのまわりには魔力が常に噴出すようになり、炎の、大きな翼が生えた。

異常な程の圧力を持つ、眼差しを相手に向ける。

「決めさせてもらうぞ」

風とは比べモノにならない、しいていえば光のような速さで相手の懐へまわった。

その一撃は防がれてしまったものの、次には四人の分身ができあがり、相手の武器を落とし、地に膝を付かせた。

「これでわしの勝利じゃ」

疲れ果てたさすらいは地へ座り込んだ。


「・・・あれ、ガチで俺の出番どこ」

「さぁ・・・?あの子が強すぎたのが原因でしょ」

「まじやめてくれー」

本当に、こんな勇者は嫌だよ!

「ふぅ、疲れたのぅ」

三人を倒したさすらいが、俺達二人の元へトボトボ歩いてくる。

「さすらい!やるじゃないか・・・!これからはさすらいではなくてさむらいだなぁ!」

出番がなく、レベルが上がることもない、ダメダメな勇者な俺は元気よく喜んだ。

多分、俺ならこいつらにフルボッコされていたと思う。

「わしは侍として長く生きてきたからノゥ、今は西洋の剣技を見に付けるように、この大陸を旅しているのじゃ」

戦士と侍を勘違いしているようだと思っていたけど、立派な侍であった。

「わしの、同族の誤りを正しただけよ」

「かっけぇ・・・正義の侍だな」

「ふむ、褒められるのは慣れていないのでな」

少し照れたよう頭を掻いて、さすらいは町の出口へ向かった。

「てか、、行ってしまうのか・・?」

「うむ、夜が訪れる前に、次の町や村で体を休ませたいのでな」

「さすが・・・だな。じゃ、またどこかで会おうじゃないか」

「うむ、その時は・・・」


俺の瞳を真剣に見つめる。

「わしと本気で対峙せよ」


「気が向いたらな」

プイッとそっぽを向く。

「ふん、勇者っぽくない勇者じゃのぅ・・・それでは、また会った時にでも」

「あぁ、達者でな」

そう言って、さすらいと俺達は別れた。

「アツキ空気ね」

「・・・それ言わないでぇ」


と、今回はとある侍、または戦士の立派な姿をご紹介したのであった。

「なんで、あのリザードマンとの対峙を断ったの?」

「はぁ・・・俺は戦いとかあんま好きじゃないの」

「だからレベル上がらないのよ」

「うっさいなぁー」

「じゃあ、なんで精霊とは戦ったのよ?」

「いいじゃん、あいつらは実体がないし、倒したとしてもすぐに甦るだろう」

「そういう基準なの?」

「うん」

広場には叩きのめされた人達が倒れて、閑散としている。

「・・・とりあえず、俺達は一泊して、旅の準備でもするか」

・・・後食材も買わなきゃな。






end


I sorry  話飛ばしてしまったwwww