町に近くにひっそりと出来ている洞窟へ足を踏み入れる。

薄暗く、明かりもなかったので、さすらいは自分の腕に火をつけて灯してくれた。

「ふむ、確かに、ドラゴンの匂いがするのじゃ」

静かな洞窟にさすらいの声が響いた。

「そうだなぁ…。んっ?」

目の前で闇がうごめいたのが見て取れた。

「さすらい、もしかしたら?」

「ふむ、その通りじゃ」

と、さすらいが頷いた瞬間、さすらいは双剣を抜いて、何かの攻撃を防いだ。

先頭に立っていたさすらいが、その攻撃の衝撃で下がっていった。

「もしかして、あのドラゴンの攻撃か」

さすらいと同じように、俺の方にも巨大な力が加わった。

剣でなんとか防ぐが、やはりさすらいと同様になる。

「なんでこんな奴が、こんな洞窟にいんだよ」

ドンドンと大きな足音を立てて、俺達に近付く。

汗が一つ頬を伝う。


「お前等、俺を討伐しに来た人げ…?」

ドラゴンの声が聞こえて・・・。

クンクンといった、鼻を鳴らすような音が聞こえた。

「ん…?お前等本当に人間なのか」

さすらいは別として、俺のにおいが不安定なのだろう。

魔物と人間の匂いが混ざり合っている。

「我はリザードマンじゃ」

「俺は人間だけど」

少しの間を置いて・・・・。


「・・・なんだ、話せる奴らみたいだな」

先ほどまでの攻撃的な雰囲気から一変して、ドラゴンは地に座った。

「さすらい、クエストはこの洞窟からドラゴンを追い払えばいいんだから、話し合って、洞窟から離れてもらえばいいんじゃないか?」

「全く・・・御主は勇者らしくないのじゃ」

「攻撃してこないから、別にいいとおもうけど」

「まぁ・・・そうじゃが、本当にアツキは勇者らしくないのぅ」

ぼけーとした顔でさすらいは言った。


ドラゴンはふぅーと溜息をつく。

「お前等、ブツブツ言ってないで俺の話を聞け」

「おっと、すまない」

先ほどの依頼掲示板の情報を見る限り、このドラゴンは種族からはぐれたらしいが…。

こんなドラゴンが、うっかり種族の群れからはぐれたりするのだろうか。

はぐれドラゴン。

「俺は別に群れからはぐれたわけじゃないんだ。ただ、体が黒い鱗に覆われた黒竜として生まれてしまったから、群を追放されたんだよ」

「追放?」

その言葉を聞いて、幼少の頃よく遊んでいた友達の顔を思い出した。


「あぁ、幼い頃には生きる力がまだないから良いとして、大きくなってから俺は追放されたんだ」

「まてよ・・・俺の友人にも、ドラゴン族の群れから追放された奴がいたな」

「お前の友人?」

「あぁ、アスカルっていうだけど・・・突然変異で生まれた、背中に常時炎を生やした奴がいたんだ」

「アスカルか・・・どこかで聞いた事があるな」

「本当か?・・・ドラゴン族っていうのは、そういうのに敏感なんだな」

「ドラゴン族の血を汚さないように、そういう処置を取ってるんだな、そのせいでひどい扱いを受けているがな」

「がるぅぅ」と呻く黒竜

「さすらい、何とかできないの?」

腕を組み、数秒考えると。

「ふむ、御主には大きな魔力があるようだし、人間に化けて見てはどうかのぅ?それでその場しのぎにはなるじゃろう」

「下等な生物に化けろというのか」

「なんだとー?」

人間の前で下等な生き物とかいうな。

「突然変異をしたモンスターというのは、原種に比べて力や魔力が高いのじゃ」

「へぇ~、そうなんだ」


「だが・・・確かに、討伐しに来る奴らと同じ姿に化けるのは効果的かもしれん」

「さすらい、化けてどうするんだよ?ここにいたら意味がないじゃないか」

近くで農業でも営んで、いい農家にでもなろうとしているのだろうか。

「人間達と仲良くやっていけばいいじゃろぅ。そうすれば、友人も多く、楽しい人生を送れる。こんな洞窟に独りでいるよりはよっぽどマシじゃ」

「なんともアバウトな考え方をお持ちだ」

そりゃ、平和で楽しそうな人生だけど、このドラゴンが承諾するかどうか・・・。

「しかし、この世界にはそういう風に生きて共存をしている者もいる、我は何人も見て来たぞよ?」

さすが、世界を旅している経験というわけか。

得意げなさすらい。

「ふん、それもアリというわけか」

黒竜は頷いた。

「いいんだ・・・」

平和的な案だから俺も賛成なんだけどな…。

「俺はいつか、ドラゴン族を見返してやりたいんだ。俺を群れから追放しなければよかった・・・と思えるほどでかいドラゴンになるためにも、人間達と付き合っていて損はないというわけだな・・・」

と黒竜は自分の目標を語った。

「・・・発想がぶっ飛んでる気がするけど、まぁ、戦いに発展しない程度に、人間達と付き合うのは良いと思うぞ?」

「ふむ」

「君が思ってるより、人間の中に入るといい奴もいっぱいいるから」

腕を組み、「うむうむ」とさすらいが頷くと、少しの沈黙が訪れた。


「・・・お前、魔物に好意的だな」

「ま、まぁな~?・・・とりあえず、人間に化けて、町を回ってみようじゃないか」

「そうだな、とりあえず、挑戦はしてみるか」

ボンッと砂煙をあげて、ドラゴンは人間へと化けた。

その姿を見た瞬間、俺とさすらいの眉間は深く刻まれた。

「・・・へっ!?」「・・・なんと!?我はてっきり・・」

さすらいと俺は驚きでその場に固まってしまった。