翌日宿屋に窓の修理代を払い、俺達は次の町へと向かった。

「なんであいつが壊した窓を私たちが修理しなきゃいけないのよ」

プンスカ言いながら魔王は怒った。

「まぁ構わないさ・・・」

「アツキ悲しいでしょうけど、頑張って下さい」

「大丈夫、あの子の声が確かに聞こえたんだ。死んでない、生きてるって」

「そうですか…それはよかった」

シャルロは笑った。

「おや…とても強い気配がしますね」

二人が身構えた瞬間。

「アツキ…」

「!?」

誰かの手が俺の肩を掴んでいた。

何かとても聞き覚えるのある声…。

振り向くと、銀色の狐耳、銀色の尻尾を生やした人間の姿に化けている銀狐が現れた。

「…あっ、…アサギじゃないか」

その姿に見覚えがあった。

幼い頃、よく遊んでいた子狐にそっくりだった。

「アツキ、久しぶり…」

しかし、彼女の目は虚ろであった。

「ど、どうしたんだそんな…暗い顔して」

「…私達に気付かれないように近付くなんて、かなりのつわものですね」

「あんたがマヌケなだけでしょ」

「な、なんと・・・気付いていたんですか」

「当たり前・・・」

「ウチの娘が封印を解かれてしまい…そのまま気配を消してしまった…」

「あっ・・・もしかして、ナミのことか」

「アツキ・・・アツキの懐かしいにおいと・・・ナミの匂いも混じってるの、どうして?」

虚ろな瞳で呟いたアサギ。


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俺達は追って、ナミがどうなったか詳しい現状を話した。

そして、アサギもナミのことを話してくれた。


アサギとその夫の男性の人間の間に生まれたナミ。

男性は、俺の父親のように戦死し、生まれたナミは母親に似てとても強い魔力を持っていたらしい。

幼い体で制御できるはずもなく、封印して時期を待ったのだという。

しかし…何者かによって封印は解かれ、娘の気配はこの地で消えてしまった・・・という。


「う、うぅ…」

俺達の詳しい説明を聞いた瞬間、アサギは俺に抱きついて、泣いてしまった。

「・・・苦しかったよな、よくわかるよ・・・その気持ち」

拒絶することなく、俺はアサギを受け止めた。

夫も失い、子供も失ってしまったのなら…。

苦しいに決まっているさ。

「人間の男性に恋をしてしまったのが・・・いけなかったの・・・?」

「そんなことはない、忘れたのか、俺もハーフだぞ?こうして元気に生きている」

ハーフの子供の周りには、いつも災難が降り注いでいる気がする。

「そうだね・・・そうだね・・・」

アサギは手で涙を拭って顔を上げた。

「でも、ナミはアツキの中で生きているよね…?」

「あぁ、そうさ、きちんとナミの声が聞こえる」

アサギは俺の胸に耳を傾けた。

――――お母さん、お母さん


――――ナミは元気です。  だから・・・泣かないで。

「・・・ナミ」

アサギにも聞こえたんだろうか、そうこぼした。

「アツキ本当にありがとう。希望はまだ耐えてないよ」

「あぁ、そうさ、俺が生きる限り、ナミも生きる」

「・・・そう、じゃあ、アツキを災厄から守ってやらなければ・・・」

「えっ」

「アツキは古い友人、そして、ナミを生命を共にするもの…。ウチの大切は、もうアツキしか残ってないの」

「そうか・・・ありがとうな、アサギ」

「・・・ナミの生命と重なっていなくても・・・ウチはあなたを守ったはず・・・だって、友人じゃない」

「だな」

俺とアサギは笑顔で頷きあった。

「魔王様、私はカナミの行方を追ってみようと思います。あいつは何をするかわかりませんから」

「ふん・・・それはいい判断かもしれないわね、シャルロ、その仕事頼んでもいいかしら?」

「はい、承知いたしました」

「シャルロ、絶対に約束しなさい。危なくなったら知らせる、逃げる。絶対に無理はしないで」

「魔王様…何か、変わられましたね」

「えっ?」

「以前より・・・ずっと優しくなりました」

「そ、そんなきつかったかな・・・私」

「これも、アツキさんのおかげかもしれませんね」

そう言って、シャルロはそそくさと飛んでいってしまった。

「こ、こら!そんなこといわないの!」

両手を忙しくないアタフタとさせながら、アツキのほうへ向く。

「・・・アツキ、聞いてないし~」

少し残念そうな魔王。

「アツキの友人って一体何人いるのかしら・・・」

少し気になった。

「アツキ、ウチは狐の里へ戻る、でも・・・なんかあったらすぐに駆けつけるわ」

「おぅ・・・アサギも何かあったら言ってくれ」

「えぇ」

「「友人だからね」」

アサギは去っていった。