道中、結局宿は見つからず、野宿をすること数回。

俺達は風の谷に栄えている、風の町へたどり着いた。

ここは風車を使った発電、製粉等が行われており、農業も盛んである。

風の谷と聞いたら、嵐のような風が常時吹いているイメージをうかばせるかもしれないが。

心地よい風が常時吹いているだけでおり、風車はもちろんのこと、花粉を運ぶための利用としても使われている。


まさに、自然で育った作物といったところなのだが(ちなみに、かなり昔に聞いた話)

かなり強い風が吹いていた。

「何、1人でブツブツ言ってんのよ」

疲れ果てた顔した魔王。

「野宿三連続は、さすがにもたないか」

「あたし魔王よ!?アツキと一緒に旅して、野宿を初体験したばっかりなの」

ボサボサになった髪をいじりにながら魔王はそう言う。

「それが勇者と共に旅するってことなのさ~。この町には宿があると思うから、もうすぐ風呂にでも入れるよ」

「宿屋」というマークが大きく掲げられていたので、宿屋は容易に見つかった。

知名度の低い町では看板すら立っていないので探すのに一苦労。

これが厄介なことに、武器屋だか、防具屋だか、道具屋だかわからんからいい加減看板ぐらい出してくれと怒鳴りたくなる。

地図もないんだよ!!

「早くはいろ~よ」

「はいはーい」

カランカランという音を建ててドアが閉まる。

「あら、いらっしゃい。旅の方ですか?」

「はい、二名で」

「…もしかして、精霊の力を手に入れようとしていますか?」

その言葉は奇妙なものだった。

「いや、もう…四精霊は…」

「もうここに、シルフはいませんよ・・・」

…?

「…あの、どういう意味ですか?」

「ここはもともと、シルフがすんでいた町なのよ」

魔王が後ろでそう付け加えた。

「風の管理をしたり、旅の者に自分を打ち負かさせて、力を与えたりしていたの」

「でも…シルフは、外れた高い塔にいたよね」

サラマンダーは火山 ノームは土の洞窟 ウンディーネは水の洞窟。


シルフは、天空の塔。

なんかおかしいような、おかしくないような…。

「そぅね、それは…強力なモンスターが発生したことによって、シルフはもともとの住処を出て行かざるおえなくなったの」

「なるほど…」

「シルフはいなくなってしまい、旅人や勇者が来なくなったこの町で、強力なモンスターを退治できる人はいなくて、風は荒れている…」

「俺、そんなの聞いたことないんだけど」

「それは、アツキが町の人に情報を聞かないまま勝手に進んでる…からでしょ!!!」

「た・・・確かに・・・」

はっきり言うと、精霊の場所は全部魔王に教えてもらった。

火山やら、洞窟やら、レックウ〇が住んでいそうな塔まで・・・。

「・・・まぁ、要するにそいつを倒してほしいってことでしょ」

「えっ・・・お願いできますか?」

「あぁ、いいよ」

というより、そういう風に仕向けていたとしか思えんがな。

俺には指輪四つついてるのに力のことについて聞くとか・・・ちょっと・・・。

「魔王、案内して」

「だーかーら、私に頼りっきりだから、情報がロクに入ってこないんでしょ」

「わあったよぉー」

魔王は俺をさっさと宿から追い出した。

「・・・あいつ風呂入りたいだけだな」

俺は町の人に情報を聞きだして、その洞窟へと向かうことにした。

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風の洞窟という名の洞窟に足を踏み込んだ。

洞窟の中には常時風が吹き込んでおり、洞窟のいたるところに風の通り道である穴がある。

それが鬱陶しい、目にゴミが入ったりして視界を奪われたり、止まってしまうほど強い向かい風が吹いたり・・・と。

地味にむかつく。

「シルフで風の調整とかできないかなぁ・・」

でも、魔力あんまりないし、これから強力なモンスターと戦うというところなので、消費は控えたい。

「シルフを追い出すほどの・・・強力なモンスターね」

ウンディーネの時に見たけれど、精霊が勇者や旅人と勝負するときは手加減をしているらしい。

つまり、精霊は真面目に戦えば強いんだ。

まぁ、強くなければ自然を管理なんてできないんだけどさ・・・。

手加減までして、精霊の力を与えようとするなんて、よっぽど魔物や魔王が嫌いなんだろうなぁ。

シルフの指輪を見つながら奥へ進んでいると、すぐに大きな広い空間へぶつかった。

「相変わらず・・・俺のところには魔物が寄り付かないな」

人間にはわからない微量な魔物の匂いがしみついているんだとおもう。

幼少の時に多くの魔物と遊んだから、そのせいだ。


広い空間の奥には階段ができており、階段の上には大きな・・・?

「なんだ・・・ぼんやりしてる」

多分、こいつが強力なモンスターとかいう奴だろうけど・・・、向こう側が見える。

これは、ゴーストか?

「あれ・・・・・あのモンスターが私を追い出したの」

出てきたシルフが俺の肩に乗って、そう囁いた。

「そうか・・・だったら・・・あいつを退治するしかないな」

「ありがとうっ・・・アツキ」

そう微笑んで、シルフは消えていった

「おい、そこの魔物!!ここで何してやがる」

剣を抜いて、大声でそう叫ぶと、魔物は消えてしまった。

「・・・っ?!」

次に姿が見えたときには、目の前までゴーストが迫ってきていた。

ゴーストの強烈なパンチを剣で防ぐ・・・。

だけど、そのパンチは剣をすり抜けて、俺の腹へねじ込まれた。

「くっ・・・」

距離をとって、頭の回路をめぐらせる。

ゴーストはその姿と同じように、打撃系が聞かない・・・。

「精霊の力を借りるしかないのか」

「私の力で、お願い」

頭の中で、シルフが呟いた。

「なるほど・・・よし、シルフ!」

シルフは先ほどよりも実体化した体で肩に乗る。

「この地は・・・もともと私の住処・・・絶対、取り戻してみせる!」

いつにもまして真剣なシルフの目つきに、俺も頷く。

「あぁ、やってやるさ・・・」

「あいつは属性攻撃が効くの、それと、自分の体を透明化したりできるから・・・気をつけて」

「厄介な奴」

風の力を足元に集中させて、丸い球状を作る。

「さ、サッカーボール?」

シルフは困惑の声を上げた。

更に風の力を、次は足へ集中させて、そのサッカーボールをゴーストに向かって蹴ると。

まるでレーザービームのような速さで、風のサッカーボールはゴーストに直撃した。

不意を打たれたゴーストはピヨピヨと混乱中。

しかし、そのサッカーボールは軌道をを変えて、後ろからゴーストにまた攻撃を喰らわせる。

「よしっ!」

「アツキ、まだよ」

ゴーストは混乱を解いて、呻き声をあげる。

「な、なんだ・・・」

「こ、これは・・・私を打ち負かした、決定的な技」

シルフは手で口を覆う。


憂鬱になるような、重苦しい風が吹き荒れて、静まりかえる。

「・・・なんだこの静けさ・・・」

先ほどとは違った、まるで猛獣から背中を睨めつけられているかのような感覚。

ゴーストはすでに姿を消していて、闇の中へまぎれた。

「気をつけてアツキ!」

シルフの声が聞こえて、さすらいの攻撃態勢を思いだす。

さすらいは・・・確かいつも後ろをとっていた。

それは、自分の身を消して不意をついた感じだった・・・。


「もしかして、後ろかも」

足元にサッカーボールを作り、後ろ向きに風を蹴ってやると、サッカーボールは後ろへ飛んでいき、途中で何かにぶつかった。

指をパチンと慣らす。

「ビンゴっ!!」

といきがっていたのもつかの間、すぐにゴーストは復帰して俺の目の前で、透明な拳を勢い良く振り上げる。

両手で防ぐものの、すり抜けて俺の顔面を強打した。

「ぐはっ!?」

そのまま吹き飛ばされてしまう。

「あ、アツキ!大丈夫っ!?」

痛みに耐えながら立ち上がる。

「あいつ…結構強いな」

透明化と実体化を使って巧に攻撃をぶつけてきやがる。

傷を負った口元をこする。

「俺はあんまり勉強しないから、魔力もそんなにないんだよなぁ」