っあ・・・!!

「お、おおっ・・・バ、バンタナじゃん!」

俺は驚きと嬉しさの混じり合った顔をしてると思う。

た、助かった・・・。

「アツキ、ひっさしぶりだなぁ!」

昔のように頭をがむしゃらに撫でてくれるバンタナ。

「よ、よかった・・・。バンタナみたいな話せる奴がいてくれて」

「ふむ、・・・というか、アツキはこんなところで何やってんだ?こんなところで会うなんて思わないからびっくりしたぞ」

「んー」

話せるバンタナに今までの経緯を話してやると。

「なるほどな」

バンタナは一つ頷いて、囲んでいる魔物達を見て。

「おぃ、こいつは俺の友人だ」

そういうと、鋭い爪で縛ったロープを切ってくれた。

「縛る前に気付いてほしいんだけど・・・」

「はは、すまねぇ」

ちなみに、このムキムキな筋肉を身につけている俺の友人は、ウルフマンである。

「んでぇ・・・そのじじぃの話を聞いてきたわけだ」

「そうなんだ、でも引っかかるところがあってさ、人間の言葉は信用性が薄いから、魔物に聞いた方が早いと思ったんだ」

「ふーん・・・色々と世間話してーんだが、まずはそっちの問題を解消しなきゃだめだな」

「そうだね・・・まずは解決、解決」

笑い合う二人。

「てか、バンタナはこんなところで何してんの?」

「防衛だよ。話に出てきたじじぃが旅人とか勇者を雇って討伐に向かわせたりするもんだからよ」



「なるほど、で、それについてなんだが・・・。問題を解決するために山の主に会いたいんだ、どうかな、バンタナ?」

うーんと顎に手をあて考えるバンタナ。

「そうだな、お前なら信用できるし・・・。よっしゃ、俺が連れてってやる」

「さんきゅ、助かる」

二人で拳を合わせた。

「ちょ、ちょっとちょっと・・・どういうことぉ?」

なぜか手足を縛られなかった魔王は横で困惑の表情を浮かべていた。

無理もないだろうな。

「ま、俺達の話は後、後。まずは山の主に話をつけなきゃね」

チラッとバンタナが魔王を見る。

「てか、そいつ、アツキの彼女か?」

「「違う!!」」

「い、息が異常なほどぴったりだな・・・」

呆れ顔でそう言うと、俺達に背を向けて付いてこいという合図を出した。

「一時は死ぬかと思ったがー良かった・・・」

「無事でなによりだ」

「ふぅ・・・てか、防衛に来たって事は、どこかの部隊とかに入ってたりするのか?」

「おぅ、上級魔物が集う部隊だ。力仕事なんかを受け持ってる」

「さっすが、その筋肉は当時のままだな」

「・・・でも、アツキは随分大きくなったな」

頭を撫でて、先ほどの鋭い瞳からは考えられないほど優しい笑みをこぼした。

「さっきは剣かなんかを持ってたが・・・勇者ごっこでもしてんのか?」

「俺は列記とした勇者だ!」

「そうなのか?お前の服装とか、全然勇者っぽく見えないぞ」

まぁ、半袖だもんな。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「こいつが山の主だ」

山を奥深くに、堂々と座る大天狗の姿を発見した。

バンタナ・・・山の主に対してコイツって…。

「ふん、話は聞いている・・・私に何の用だ」

態度と口調は比例していた。

「村を襲撃する件について、話があるんです」

「襲撃をやめさせろ、とでも言いたいのか?裏切ったのは人間の方だというのに」

「いぇ、そうではなくてですね。村長に話をつけにいこうと思っているんです」



「人間など信用ならない!あいつらは私達との風習を忘れて、与えてやってる土地やモノを自分達の物にしようとした奴らだ」

こちらから質問することもなく、ベラベラと真意を話してくれた。

「・・・それは、村長が変わってしまってからですか?」

「その通り、あのろくでもない村長のせいだ。あんな奴は村人ごと追い出すべきだ」

俺の読みどおりだった。あんな小さい村で風習が消えていってしまうなんてめったにない。

ただでさえ人が少なく、政権交代もしないのに、そんなのはありえない。

人間の勝手な判断なのだ。


「大天狗さん・・・。もう一度チャンスをください!人間と魔物は対立するべきではないはずです」

土下座する俺を見て、大天狗は「ぬぐぐっ・・・」と呟く。

「俺からもお願いさせてもらう」

隣には良き友人も土下座する。

「むっ・・・、主のような上級魔物まで・・・」

大天狗は目を瞑り、沈黙する。

「よし・・わかった、一度だけ、小僧にチャンスをやろう。きっちり、村長と話をつけて、また風習を甦らせることだ」

「はいっ!」

「そうすれば、土も肥やして、豊作が舞い戻ってくる・・・!さぁ、行け、小僧」


「大天狗さん、もう一つよろしいでしょうか?」

「・・・なんだ」

「この山に存在する魔物、全てを村に呼んでください」

「なっ・・・。アツキ、一体何をする気だ?」

「・・・なるほど、よし、いいだろう!!カラステング共、今すぐ収集をかけろ!!」

俺の瞳から思考を射抜いたように、大天狗は頷いた。

「了解!!」

ささーっと、カラスの翼を羽ばたかせて天狗達は行ってしまった。

その間に、俺達は深い山を降りていく。

「おぉ、すげー数」

多種多様な魔物達が肩を並べて、しゃべったり、腕を競い合ったりして時間を潰していた。

こんな短い時間でこの量の魔物を集めてくるなんて、すごい奴らだ。そして、権力も驚かされた。

「みんな、ついて来てくれ」

魔物達の先頭に立って、俺は例の村へ向かった。

どすんどすんという激しい地鳴りような音をたてている大勢の魔物達。


「な、なんだ!また魔物の襲撃かぁ・・・!?}

その音に、村人の一人が出てきて逃げていってしまった。

「とりあえず、村長の家に行こう」

「わかった」「うん」


地鳴りが収まると、魔者達は村を埋め尽くしてしまった。それほど多い数なのだ。

村長の家へ入ると、突然の出来事に驚いている村長を確認できた。

「村長・・・話があります」


家の外には大勢の魔物、驚かない方がおかしいけどな。

「村長、あなたが風習を無視したせいで魔者達は怒っています・・・。風習を行ってください」

改まって村長に申し上げると、村長は驚きながらも、首を横に振った。

「・・・その申し出はお断りします。私は、魔物力など借りずともこの村をやっていけると思っていますから」

真剣な眼差しの村長。

「それが今の結果を招いていると気付かないのですか。畑や自然を肥やすこと、豊かにすることは魔物との信頼関係でもあります」

しかし、負けじと反論をする。

「・・・私は邪悪な存在である魔物が嫌いなんだ」

その言葉に、後ろにいた大群は眉間にシワを寄せて、一歩迫った。

「やめろ、今はアツキが話してんだ」

バンタナが後ろの連中を抑えてくれる。

「それが人間の間違いなんです。魔物の中にも心優しいもの、畑を肥やしてくれる魔物等多く存在します。それに、この風習を行わないかぎり、畑や自然が豊かになることがなく、どんどん村は落ちていきます」

「・・・く」

「あなたはおもむろに旅人や勇者を山へと向かわせるだけだ。それが村と魔物の関係を悪くします」

俺の言葉に反論する隙がなかったのか、村長は黙ったままになっている。

「村長、俺等はあんたらと対立したいわけじゃない、分かち合って生きていきたいんだよ」

バンタナがそう付け加えてくれると、村長は閉じていた口を開く。


「・・・むぅ、わかった・・・。風習を行う・・・。今日の夕方に開始するぞ。・・・これでいいのか?」

「それを続けてください。でなければ、本当にこの村はなくなってしまいます」

納得がいかない様子で村長は頷くものの、俺はそれだけで満足だった。

「魔物達聞いてくれ、今日の夕方から風習を行うそうだ!」

「おぉおおおおおお!!!!」

魔物達から歓声が一気に上がり、場はヒートアップした。

「久しぶりに飲んだり食ったりできんのか!」「よっしゃああー飲み明かすぞ!!」

個々のおしゃべりを始めて、その波紋は外の魔物達へと続いていき。

すでに宴会のようなものが行われ始めた。

「村長、こんな愉快な奴らと対立するなんてとんでもないし、もったいないです。それに、こいつらは邪悪じゃありません」

「とっても、優しい奴らですよ」

外の風景を見た村長が・・・静かに頷いた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

俺達は、村の人々と打ち解けた魔物達の宴会を抜け、もと来た道を戻っていた。

「宴会、参加しなくてよかったのか?」

魔物の友人、バンタナは宴会に参加しないで俺達について来ていた。


「住んでいる者達でやってればいいさ・・・バンタナこそ、同じ部隊の奴らは宴会に参加してるのにいいのか?」

俺がそう聞くと、バンタナは笑った。

「世間話とか全然してないからよ。宴会でしよーと思っていたんだが…」

「おっと、それはごめん。さっさと先へ進みたくてさ、夜になるまでには宿を見つけなきゃいけないから」

「ま、俺も用事あるし、このままついていくよ」


問題を解決して満腹になったので、俺はそろそろ次の町か村へ行きたいとか、村でお世話になるわけにはいかないとか色々あるんだよ。


「・・・で、いい加減知りたいんだけど、二人共どういう関係なの?」

今日は影の薄い魔王が、久しぶりに手を挙げて発言した。

その表情はいつになく疲れた顔をしていた。

ずっと気になってたんだな・・・。

「あぁ・・・そうだな。俺とバンタナは幼い頃からの友人だよ」

「・・・そんなとっつきにくい魔物と友人だったの?」

疑問の視線をバンタナに向ける。

「失礼な言い方だな。まぁ、俺の外見は怖いからな」

自覚してたんだな。

「バンタナは、俺の父親の親友なんだよ」

「・・・アツキの父親?そういえば、母親のことは聞いていたけど・・・」

少し寂しそうに魔王は言った。

「父親も死んだよ。母さんが死ぬずーっと前にさ」

「そ、そう・・・悪い事聞いたわね」

「いやいい、あの時は悲しかったけど、もう大丈夫だから」

だからって、悲しみがすべて消えたなんていったら、両親に失礼だからな。

バンタナも、鋭い瞳を悲しげに変化させていた。

「でも、バンタナみたいな魔物と親友だなんて・・・。どんな接点があったの?」

「んー、バンタナは昔、ウルフマンの中でもとても荒れていた奴だったんだよ」

「へぇ~」

外見からして見ても、そういう奴なんだから驚くはずもないよな。

「噂を聞きつけた他の魔物達との喧嘩が絶えなくて・・・死の寸前まで追い込まれたヤバイ時があったんだけど・・・その時に俺の父さんが助けだしたんだ」

「へ、へぇ・・・。でも、アツキの父親ってかなり強かったのね」

「まぁ・・・父さんもバンタナと同じウルフマンだし、それぐらいの力は持ってるよ」

その瞬間、魔王は瞳を小さくして固まった。

「えええええええええええええええええええ!?」

「まぁ・・・無理もないだろうな」

バンタナも、魔王が俺の父親について知らないことを察してくれたようだ。

「ああああ、アツキの母親は人間だよね!?」

俺を指差した手はブルブル震えている。

「う、うん」

「てててことは、アツキは、魔物と人間の交配種!?」

「なんか嫌な言い方だな!まぁ・・・そういうことになるだろうな」

魔王は相変わらず驚いたままである。

「俺も最初は驚いたぜ、人間と結婚するなんて言い出すからな」

とバンタナ。

「でもでも、アツキのどこに魔物みたいなところがあるの?」

「俺に耳とか尻尾はないよ、人間の血が濃くでてるんだと思う。ただ、少し力が強いぐらいかな」

ウルフマンの父親を持っておきながら、母親の方が強く出たのだ。

まぁ、これで外見からは魔物だとあまり気付かれないので、便利と言えば便利だ。

「でも・・・魔物と人間の子供なんて、例を見ないし・・・私が予想するに・・・」

寂しげな瞳を俺にむける。

「そうだな・・・祝われない子供だったよ。だから両親は村から外れた山で暮らしてたんだ」

「・・・そう」

「だからって、別に寂しくなんかなかったよ。バンタナもいたし」

すると、バンタナは優しく微笑んで頷いた。


「あぁ、アツキの父さんは仕事で忙しくてな、まだヘナチョコだった俺は、アツキのおもりをやってたんだ」

「そうそう、昔からの付き合いなんだ~。他にも、色んな種族に知り合いがいるんだぞ」

「なるほどぉ・・・だから、アツキにはあまり魔物が寄ってこないのね」

う…。

「確かに・・・」

だからレベル上がらないで次の町まで行っちゃうんだよな。

「なーんか臭いセリフ言う時に、不自然だと思ったら…。そういうことなのね」

複雑な心境で魔王は言った。



夕暮れを眺めていると、幼かった頃の思い出が甦ってきた。

色々な魔物達と遊び、寝ている時はみんなが見守って、母さんはそれを優しく微笑んで家事をしていた。

「母親がモンスターに殺されて…村から外れた山に住んでる……」

と意味深なセリフを魔王が言った。

「どうしたの、ラズ」


「ん…?嫌な気配がするな」

魔王の返答はバンタナの声で消されてしまった。

バンタナが身構えると、突然、目の前に三体の魔物が現れた。

「じじゃーんっ!!!レッドスライム!!」

シャキーンという効果音が聞こえてきた。

たなびくマントにスライムの体はあってない。

「そして、ブルースライム!」

…スライムってもともとブルーのような気がする。

「またまたそして~イエロースライム!」

「「「三匹合わせて!!」」」

ベタだなぁーと思いながらも、三人の登場シーンを待っている。

「えーっと、なんだっけ?さ、三匹だからサレンジャー?」

「おいぉぃ、それ言うならスリーレンジャーだろ!」

「なんか変なヒビキだな。この際、ゴレンジャーでいいだろ」

「よし」

「「「三匹合わせて、ゴレンジャー!!」

チーンと俺達三人は灰色になって固まってしまった。

こ、これは突っ込んだ方が…いいのだろうか。

いや、我慢だ我慢。

「うーん、これ邪魔だ!!」

「ええええええええっ!?そのマント捨てちゃだめじゃん!?」

ベチンという軽い音をたてて、たなびくマントは地面に打ち付けられた。

正義のヒーローと言えばマントなのに!

あ、つい突っ込んでしまった。

「どうだ、俺等に恐れをなしたかー!!」

チーンという音がまたしても効果音になる。

「・・・え、これは、戦ったほうがいいのかな」

そう言いながらも、剣を構える。

「ふ、貴様、俺達に正義に剣を向けるということは・・・悪の手下だな!」

「え、勝負する気なかったの?」

「元からあった」

「…」

じゃあ悪とか関係ないじゃん!?

「元から勝負する気あったのなら、君らのほうが悪のような…」

「ふん、ごちゃごちゃうるさい男、まるで女のようだ」

「なんだと!」

地味にカチンと来るこというなコイツ…!!


「さて、俺達のデビュー戦だ」

初めてだったんだ。

手ごたえなさそう…。

「では、ゆくぞ」

三匹の中で、隊長らしきレッドスライムが飛び掛ってくる。

それを剣の一振りで弾き飛ばす。

「ふん、雑魚敵はスライムと決まっているようだが、俺達はそうもいかない!」

次は三人で飛び掛ってきた。

それを剣の一振りで弾き飛ばす。

「やるな…」

口に血をたらして、レッドスライムは鋭い目つきをした。

「俺、弾いてるだけだから!デビュー戦失敗だよ、この三匹!」

と、ついつい突っ込んでしまった。


「イエロー、ブルー!あの技だ」

「はい!」「おうよぉ!」

そう言って、三人は動き始める。

「…何か奥の手があるのか」

いつでも防御と攻撃へと移れるように、剣を構える。

三人は縦、順番にレッド、ブルー イエローとその体を重ねていく。

「俺達の合体技、必殺、団子さんきょうだ…」

その瞬間、俺は三匹を剣で貫いた。

「「「ぐばぁああ」」」

そのまま地面に放り投げる。


「容赦ないわね」

「何か、放送してはいけない言葉が出てきたので…」

戦闘不能状態になった三匹へ近付く。

「俺も最初は、お前等みたいな奴チマチマ倒してたんだよな」

ウンディーネを呼び、スライムに水分補給をしてやると、力は0なものの、意識は取り戻した。

「お前等、山の魔物だろ?ひょっこり俺達についてきやがって…。ほら、帰るぞ」

三匹のスライムを両手に抱える。

「俺、ちょと山へ戻って、こいつら返してくるからさ、待っててくれないか」

「おぅ」「えぇ、わかったわ」


「地道にレベル上げてけばいいんだよ。あんま無茶すんなっての」

と言っても、倒したの俺なんだけどな…。

「はーーい」

三人のスライムはそう返事をした。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

アツキが走り去って数秒。

「…お前、アツキと旅をしているのか?」

「え、え、えぇ…」

声をかけられてびくっとする魔王。

「そうか…」

「?…」

バンタナは、走っていったアツキのほうを向く。

「アツキは、俺の恩人であり、親友であるウルフマンと、その親友が愛した娘が残した、たった一つの宝物なんだ」



「…」

コクリと頷く。

「あいつは、親友の宝物であると同時に、俺の宝物でもあるんだ。親友が残した、たった一つの宝物」


「だからさ…アツキのこと頼んだぞ」

バンタナはきっと、私が魔王だってわかっている。

魔王はそう思った。

「俺は旅には同行できない。色々と話したかったんだけど、仕事があるんでな!…アツキにもよろしく言っておいてくれ」

そう言って、バンタナは手を振りながら自分の道を進んでいった。


「アツキを頼んだ・・・ねぇ」

魔王に、勇者を頼むなんて不思議な魔物ね。

勇者に同行している私も不思議なんだろうけど…。

「おーぃ、ラズ-!!」

そんなことを思っていると、アツキが戻ってきた。

「あ、あれ?バンタナは?」

「仕事があるって、先に行っちゃったわよ」

「そうかぁ…。バンタナも大変だな」

だけど、ちょっぴり寂しそうにしているアツキの表情が目に映った。

「さ、いきましょ!次の町へ」

「お、おぅ!」