魔王とアツキは次の町へ向かっていた。
風の噂で聞いたところによると、その町では魔物が出没するという。
これは、勇者の出番だろう!
「よしっ、サクっと退治してレベルアップだぜ」
「・・・ねぇアツキ・・・その町っていうのは、勇者が多く集う町なのよね?」
魔王はそんなことを聞いてきた。
「うん、確かにそういやそうだなぁ~。勇者が多く集うのなら、被害なんて出ないはずなのに」
つまり、それほど敵が強大ってことなのか?
「サクッといかないかも」
「大丈夫よ、私が稽古つけてるんだから」
ポンッと肩に手を置く。
「自信ないほうが返って安心かもな」
自信満々で負けた方がよっぽどかっこわりぃと思う情けない俺。
すると、遠くから人が歩いてくる。
「んっ・・・。魔王、あれは人か?」
ぼやけている。
二足歩行しているので人だとは思うのだが…何かが違うような…。
「うーんと、リザードマンね」
「リザードマンかぁ…ってやばっ」
リザードマンは運動能力ともに抜群、多くの武器を扱えるトカゲみたいな特徴を持った人型の魔物である。
そのためか、強いものを求めて世界中を旅して、戦士に勝負を申し込んでくるという。
俺にとってはめんどくさくて出会いたくない相手なのだ。
「そこらへんの木陰で休もう!今日は宿で弁当作ったんだ」
「えっ、ほんとうー?久しぶりにアツキの料理が食べられるわ~」
異論はないみたいなので、少し距離のある木陰で休み、昼食タイムを取った。
「うん、うん、アツキってホンっト料理うまいわね」
「母さんにみっちり教わったからな」
レジャーシートをしいて、ほのぼのとした空間が出来上がってきた。
「ふむ、確かに味付けといい、品質といい、どれをとっても最高じゃのぅ」
「母さんは料理にはうるさくて…ってうわぁ!?」
ほのぼのとした空間は一瞬にして切り裂かれた。
魔王と俺と、そのまた隣にいたのはリザードマンだった。
「なんでお前がいんだよ・・・」
「見る限り、戦士っぽいではないか」
俺の問いかけを無視して、俺の全身を舐めるように眺める。
ま、まぁ…戦士であり、勇者であるからな。
「ごめんな、俺精霊使いだから」
四つの指輪を見せて、即刻退散してもらおうとする。
「ふむ、魔法戦士とな。これは興味深い」
「お前、その外見とその言葉遣いにあわねーからヤメロ」
侍と戦士を掛け違えてないか?
「まぁ、わしの気配気付かないとは、高が知れているがのぅ」
魔王は料理をパクパクと食べている。
「…ラズ、お前気付いてたろ」
「あったりまえでしょ~」
モンスターの前で魔王とバレてしまうと厄介らしいので、今の状況では名前で呼ぶことにした。
「よし、お主、わしと勝負をするのじゃ」
「はぁ…かったりぃけど、、やるしかないか」
ここまで近くにいられたら、やるしかないだろう。
わざと負けてさっさと町へ向かおう。
レジャーシートから離れて、広い草原で剣先を構える。
「それでは、いかせてもらう!!」
突撃して剣の先を突き出す。
軽々と避ける。
「まだまだ!!」
鋭い剣先が何度も繰り出される。
「ほぃ、ほーい、ほっい」
言葉遣いとは違い、剣技は上等のものだった。
「遊んでおるのかお主は!!」
更に高速化する突き。
それをも慣れた目で交わす。
「くっ…馬鹿にしおって!」
剣に炎が灯される。
俺は一旦、リザードマンと距離を置く。
「俺、まだなんもしてないんだけど・・・」
膝付いたら負けなんだから、仮病でも使って膝を地面に付こうかなーとか思っていたのに。
いざ勝負となると、負けたくなくなっていた。
「わしの炎、避けられるか!」
「バカッ!ここでそんなもん出したら火事が起きるぞ」
パンッと両手を打って魔法陣を発生させる。
「火炎切り!!」
一振りした剣の波動が少しずつ炎に変わり、迫ってくる。
「ウンディーネ、頼む」
水の守りが放出され、炎を消沈させる。
リザードマンまでびしょ濡れであるが、周りの草原に被害はなかった。
「バカヤロウー!!場所を考えて技を使いやがれ!!大火事になっていたところだぞ」
「くっ・・・お主、とことんわしを馬鹿にしよってぇぇ・・・」
リザードマンは聞いていないらしく、めんどくさくなった俺は草原に膝をついた。
「やるじゃねーか、炎の剣技、結構効いたよ。俺は魔力がもうないから勝負はできない」
剣を鞘にしまう。
「無駄な戦いはここまでだ、俺はまだ昼食とってないんだよ」
きょとんと俺を見つめているリザードマンをよそに、俺はレジャーシートへ戻る。
「って、あああああああ!!人の昼食全部食べやがったなぁああ!?」
弁当の中を覗き込むと、空っぽだった。
「だってだってーおいしぃんだもん」
口のまわりにおかずをつけながら、ほくほくとした顔で魔王は言った。
「かは・・・・町へ行ったら食材あさらなきゃ」
はぁーと溜息をついて。
リザードマンを見ると、眉を潜めてこちらへトボトボと歩いてきていた。
「お主、なぜわざと負けたのだ?」
大根役者の芝居は通用しなかったようだ。
「お前の炎のせいで、この草原が火事になる寸前だったんだ。だからやめたんだよ」
この事実がやっとリザードマンの耳に入ったようで、驚いて固まっていた。
「もっと状況確認してから技を使いやがれよ」
レジャーシート、弁当箱をリュックに閉まって、俺と魔王は去ろうとした。
「・・・お主、名前はなんという?」
「アツキだ」
「アツキ、戦士は勝敗ばかりを気にしているものと思っていた。わしと戦ってきた戦士達はみなそういうものだった」
リザードマンは何かを語りだした。
「しかし、お主は違った、勝敗よりも他のモノの生命を気にする・・・。とても興味深く、勉強になった」
ニコーッとリザードマンは笑顔を見せた。
「それが真の戦士ってもんさ、よーく覚えておけよ」
リザードマンは頷く。
「てか、お前は何て言うんだよ」
「ふふ、旅するさすらいの戦士じゃ」
・・・。
こいつ、人に聞いておいて自分は名乗る気ゼロじゃないか。
これからはむやみに名前を名乗るのはやめておこう・・。
「それではの」
「へいへい」
こうして、俺達二人は改めて、魔物が出没するという町へ向かったのだった。
「・・・面白い奴じゃのぅ、興味が沸いて来たぞ」
続く。