サラマンダーを倒してから、最終的には四精霊の力を借りなければいけないことを思い出して、結局ノームの元へ向かうことになった。
「最初に強い奴倒した意味がないじゃないか!!」
「強い敵を倒せば、レベルもぐーんと上がって後が楽になるわよ」
「俺はまだ3レベルだぞ!? さ・んレベル!!」
サラマンダーに力を貰っていても3レベルです。
「勇者の心があれば、どんなに高い壁だって破壊できるわよ」
「全部、君が破壊してるじゃないか」
それがこの有様です。
「ウンディーネでいいじゃない、また君が参戦することになるだろ」
「大丈夫よ、次はそんなことしないから」
参戦するか、しないかもそうなんだけど、俺のレベルでノームに勝てるはずがないという理由も忘れてほしくない。
「それじゃ、あの洞窟へ出発よぉ~」
「も~!!」
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ノームの元へ着くと、ありきたりな理由を並べて戦闘を仕掛けてくる。
「いつも思うんだけど、平和主義って奴はいないのか?」
私が力を与えるのにふさわしいか、試す。そういった言い分だった。
すぐに力を貸してくれたりする人はいないのだろうか。
と、くだらないことを考えながらノームのほうへ剣を向ける。
「いきます」
ノームは何かの呪文を唱える。
「勇者、右へ避けて」
指示通りに避けると、元居た地面から、土の刃が突き出した。
「くっ……」
サラマンダーと違って遠距離や魔法を得意とするみたいで、俺を一歩も近づけさせてはくれない。
避けることしかできない俺の体力は削られていく。
「あいつMP何あんだよ…」
実力の差を見せ付けられた。
「はぁ…はぁ…」
「勇者、リズムを組み合わせてノームの元へ向かえばいいわ」
リズム…?
ノームの動きを凝視する。
あっ…!!
魔王の言葉を耳にして数分、戦闘の見方が変わった。
ノームの技には一定のパターンを発見したのだ。
「な、なるほど…!」
リズムを崩さないように、ノームの元へ近付いていく。
「よしっ」
これなら行けるかもしれない!!
「どうやら気付いたようですね…しかし、一歩遅かったです」
余裕を見せるノームの足元には大きな魔法陣が完成していた。
「な、何だ…」
大雑把なサラマンダーよりかはずっと慎重な動きと計算力。
「上級魔法。この魔法から抜け出せますか?」
魔法陣が眩しく輝きだすと、土の塊が俺の周りを囲っていき、高い壁となった。
「と、閉じ込められた…」
足がすくんでしまった。
こんなにも死の恐怖を味わったのは、旅に出て初めてだと思う。
壁が少しずつ俺の方へ迫ってくるのだ。
じわじわと不安を蓄積させるのこの魔法は、本当に厄介だ。
「くそっ!」
そんなことを思っている場合ではない。
壁に剣を突き立てて崩そうとしても、固くて、逆に剣が折れてしまいそうだ。
よじのぼるのも不可能。天上と地面まで土の壁である。
「なすすべなし…か」
あぁ、短い人生だった。
ゲームみたいに、死んだら教会送りなんてこともない。そこでゲームオーバーだ。
勇者の道を一歩踏み出したばかり。
四精霊だって、サラマンダーを倒して…正確には倒してくれて。
…ん、サラマンダー?
「そ、そうだ…!サラマンダーがいた!」
力を与えてもらった証の指輪を掲げる。
「いでよ、サラマンダー!!」
「来たわ~よ」
以前とは変わり、柔らかい表情のサラマンダーが表れた。
「今、軽くやばいんだけど…俺、サラマンダーの力の使い方知らないし、なんとかならないかな!?」
サラマンダーが周囲を見渡して、頷く。
「ふむ、ノームの魔法ね。だったら、あなたの拳に力を与えるわ」
そう言って、俺の拳に触れると…。
大きな炎が拳から上がり、火を消そうと腕を振る。
「大丈夫よ、あなたに熱は通じてこないわ」
「よ、よかった…」
「あなたの体と同化するわね」
サラマンダーは消えた。
しかし、俺の体には何か強い力が入りこんでくるのがわかった。
とともに、拳の炎はいっそう、火力を増す。
「このまま、壁に力強くパンチしなさい」
そう、頭の奥で聞こえた。
「いけそうな気がする!」
少しだけある距離を使って助走をつけ、壁に思いっきり炎の拳をねじ込ませると、溶けいくのがわかった。
「うぉおおおお!!」
そのまま、更に力を加えると崩れていった。
「…うん、合格です」
近くに居たノームがそんなことを言った。
「えっ、ってことは…」
「はい、あなたに、私の力を与えましょう」
「ははっ、やった・・やったよ!」
やっと、自分の力で目標を達成することができた喜びに、両手を上げて喜ぶ。
ピンッと音がして、俺の指には、力の証であるノームの指輪。
「魔王、みたかー!」
「えぇ、見てたわよ。さすが勇者ね」
ニコニコと笑って、魔王は俺の頭を撫でる。
その姿は、死んでしまった母親にどこか似ていた。
「……」
「どうしたの?私の美しさにみとれちゃったーぁ?」
確かに魔王は綺麗だ。
「ま、まぁ…次行こう、次」
「ふふっ」
二人は、次の精霊、シーフを目指すのであった。
END...