今、眺めているこの風景が、天国であると、信じたい。


地べたの冷たい感触が、生々しく伝わってくる。


こんなところ、天国であるはずがないな・・・。


周りは暗く、空にお月様が上っている。


聞こえるのは、自分の吐息だけだ。



あの不思議な穴に入ってから、すぐ、この場所に出てきた。


さっきまで、自分がいた公園とは、まったく違う風景になり、古い民家が立ち並んでいる。


しかし、どの民家にも、人の気配がなく、自分の目の前にある、一軒の家だけは、明かりがついていたのだ。


異世界? もしかしたら、日本のどこかかもしれない。


名札には「八雲」。


やはり、日本なのかもしれない


「とりあえず・・・」


門を簡単に叩いてみることにした。



――――――――回想


「ここ・・・どこだろう?」


幼い自分が、目の前の門を叩いている現場。 


暗くてよく見えないこの場所は、なぜか、懐かしく思えた。


「・・・・?誰もいないのかな」


もう一つ、門を叩いてみて、初めて、人が現れた。


「どちら様ですか・・・・?というより、ここにいることじたい、おかしいんですけどね」


見慣れない服装、目をひくのは、キツネのような尻尾だ。


「君は・・・・?」


「えと、僕は・・・!」


――――――――そこで、幼い自分の欠片は、途切れてしまったのだ。



「どちら様ですかー?」


見た記憶と、同じ人物が現れたのだ。


「・・・・人・・・ですか・・。  人がこんなところに・・・。」


門を開けたまま、固まっていた。