これは宮沢賢治の中でも一番好きな詩です。


季節感にズレがあり、また原文の文体の変更、一部省略もありますが、予めご了承ください。




永訣の朝


今日のうちに

遠くへ行ってしまう私の妹よ

みぞれが降って表は変に明るいのだ

薄明るくいっそう陰惨な空から

みぞれはびちょびちょ降ってくる


ああとし子

死ぬという今頃になって

私を一生明るくするために

こんなにさっぱりした雪の一椀を

お前は私に頼んだのだ


ありがとう私の健気な妹よ

私もまっすぐに進んでいくから

激しい激しい熱や喘ぎの間から

お前は私に頼んだのだ


私たちが一緒に育ってきた間

見慣れた茶碗の藍の模様にも

もうお前は別れてしまう

本当に今日お前は別れてしまう


ああ、あの閉ざされた病室の

暗い屏風や蚊帳の中に

やさしく青白く燃えている

私の健気な妹よ

この雪はどこを選ぼうにも

あんまりどこも真っ白なのだ

あんな怖ろしい乱れた空から

この美しい雪がきたのだ


お前が食べるこのニ椀の雪に

私は今こころから祈る

どうかこれが兜卒の天の食に変って

やがてはお前とみんなとに

聖い資糧をもたらすことを

私のすべての幸いを懸けて願う


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