パリにはエアコンがない。

いや、正確に言えば確かに存在はするのかもしれないが、
個人宅でエアコンがついている家は見た事がない。

理由は単純で、パリの夏はそんなうだる程に暑くはならないから。

だから、暑い時は一つ覚えの様に窓を開ける—。

すると必ずと言っていい程心地よい風邪が舞い込んでくる。
心地よい風邪とともにパリの雑踏の中で騒ぐ人たちの声や
アコーディオンの調べも聞こえてくる。

ふっと風が身体を過るとき思わず風鈴を想い出す。

そう。実家の畳の部屋の縁側で夏場涼んでいると必ず風鈴の音がした。
それはそれは心地よい音で風鈴の音色を聞きつつ池の鯉や金魚にえさをやるのが
日課だった。

パリにいつつも和食はいくらでも食べたとしても、風鈴を窓につけようとは
どうしても思えない。

それは、やはり風鈴の音は日本で聞きたい。

そんな思いがどこかにあるからだと思う。

そしてパリで開く窓からきこえてくるものはやはり「パリの音」が一番ふさわしい
そう思える何かがあるからだろう。