パチュリー・ノーレッジのブログ

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萃香と勇儀が寝静まってるのを確認してから俺はゆっくりと行動を開始した。
寒いし、少し疲れているが――
それでもずっとここに囚われたままで居るよりはましだと思って行動する。
紫に心配をかけてはいけないと思って。

「……別に、二人が嫌いって訳じゃないけど――さ」

そう呟いて自分の持ち物全てを確認した。
ウォークマン、携帯、財布。
そして首に下げられたヘッドフォンと椛から貰った武具を装備するとゆっくりと歩く。
……これがとても心苦しい行為だと自分で理解している。
彼女たちの信頼を裏切るような行為をしようとしているので苦しいのだ。
けれども、だからといって紫の事も無視できない。
鬼の体裁も無視できないのもジレンマだ。

「けど……両方を取るのは、俺は嫌だ」

もし両方を綺麗に済ませるのであれば俺が死ぬという方法がある。
紫はもしかしたら悲しむかもしれない。
けれども鬼の体裁は『勝手に出歩いて殺された』とすれば良いし、何なら『約束をたがえた』と言えば如何にでもなる。
けれども俺は死にたく無い。
何故なら退屈な日常から出てきたのだから。

「――ごめんな」

そう言って一歩を歩みだした瞬間、焚き火の中で湿気ていた気がバチリと爆ぜる音を大きく立てた。
それに冷や汗が思いっきり出る。
自分にとって起きえて欲しく無い出来事、それに連なる何かが起きると硬直までしてしまうのだ。
つまり、この音で誰かが起きるのじゃないだろうかと言う恐れ。
そしてそれは現実になる。

「んぅ……」
「――――っ」

萃香がもぞもぞと声を出しながら動き始める。
それに俺は戦慄と恐怖を覚えながらも平静を勤める。
クソッタレなほどに仮面を被るのが上手である事にこういう時は役に立つ。
内心も偽り、表情も偽物へと変化させて――

「お、起きちまったか」
「あお、の?」

寝ぼけ眼を擦りながら焚き火を挟んで位置する俺を見る。
俺は起き上がるまでの間に焚き火の傍に腰を下ろし、枝を追加できる位置に居た。

「おう。起きちまったか」
「なに、してるの?」
「何って、見りゃ分かるだろ? 薪を追加してるの。二人が寝てしばらく経過してるから足りなくなったのを、ね」

そう言って一本、二本と薪を火にくべる。
このときのコツは、空気が入りやすいように置いてやる事だ。
変に置くと燃え辛い所か消える可能性も有るからだ。
ちなみに剣は不自然じゃないように傍に転がした。

「ん~……。蒼野、どうした……の?」
「ん?」
「何か、寂しそう――」
「――――」

それに俺は何も答えない。
ただ笑いを浮かべて答えるだけだ。

「寝ぼけてるんだろ? 火の勢いが弱まっててトイレも近くなったし……薪をそれなりに入れとくから少し火の勢いを強めてくれ」
「うん」

俺のお願いに萃香は近くに置いてあった瓢箪の中身を少し口に含むと思いっきり火を噴いた。
近くに居る俺は熱風で熱い思いをするが、冷えていた身体には暖かいものでも熱く感じるときがある。
――冬だと思えるぐらいに寒い。

「おぉ、火の勢いも盛り返したな。――ありがとさん、もう寝ていいよ」
「……蒼野は?」
「身体が冷えたから出すもん出してくる」
「――早く帰ってきてね」
「おう。だから、ゆっくり寝てな」

妹が小さいときを思い出した。
結構泣き虫で、寝るときも一人じゃ寝れないような怖がりだった。
そんなときは弟か俺、もしくは二人が一緒に親の代わりに寝かしつけていた事が多かった。
更に昔、弟も小さいときは暗いところで眠るのが怖がったのも思い出す。
だから自然と萃香の頭に手を伸ばしていた。

「へぅ……?」
「何も無い、大丈夫……大丈夫」

それは萃香に言ったのだろうか、それともこれから為そうとしている事に対して何かを感じている自分に言い聞かせているのだろうか。
心の中がぐちゃぐちゃになりそうだ。
けれども頭を撫でられて落ち着いたのか気持ちが良いのか萃香は目蓋がトロンとなっていく。
そしてゆっくりと力が抜けていった。

「……」

そんな萃香が兄弟たちと被って、泣きそうなほどに想いが込みあげてくる。
――いやいや、泣いちゃ駄目だ。泣いちゃ駄目だと想いを押し殺してゆっくりと立ち上がる。
そしてすぐさま傍にある剣を掴むと今度こそ起こさないように背中を向けた。
そもそも帰りたいと願っても時代が違うのだから戻っても仕方が無いのだ。

「腐っても人間だったかな、俺も」

いつもはうっとおしいと想い、仲が悪い兄弟だったが、居なくなってからその大切さに気付いたという事だ。
しかし、振り返るのは後ででもできる。
そう自分に言い聞かせると洞穴を出た。
其処には闇が広がっている――

「まずはにとりかな」

河を下っていくと滝があるが、川沿いに家があるので分かりやすい。
まずは其処を目指す事にする。
――最悪相談を持ちかけて工作する必要が有るかもしれない。
めんどうったらありゃしないが、面子を失わせずに契りを破るにはそれぐらいの事をしないと。
そう思いながら真っ暗な森を歩く。

「……夜に森を行動するのは自殺願望者か死にたがりだな。明かりが無い、もしくは目が慣れてないと即座にアウト、か」

足を取られたり、怪我をする可能性が高い。
下手すると高低差に気が付かずに落下して動けなくなり食料になるだろう。
それに、自然の罠とは結構あるもので。
降り積もった葉が穴を隠していたりする、折れた枝に気が付かなければ踏み抜いて足を刺すだろう。
だからと言ってすり足で進めば音を立ててしまう。
なんとも隠密行動には向かないところだった。

「登山とか、キャンプとかして無いと拙いだろこれ……」

そう呟きながら出来るだけ安全だと思われる場所を通って下山してゆく。
獣道は探すまでが面倒だが、見つければ安全に行き来できる。
だが、必ずしも望んだ方角に伸びているとも限らない。
なぜなら獣道とは文字通り獣が通る道だからである。
まあ水を飲むために河の方角に延びているだろうが、過信できない。

「――せめてこの剣を使い慣れてたらなぁ」

そう言いたくもなるほどに椛から貰った剣は重かった。
振れないほどじゃない、けれども竹刀や木刀、日本刀よりも重く勝手も違うのだ。
使い慣れない武器を使っていては危機的状況で信用することが出来ない。
それほどまでに自分の腕前もなければ、剣の性能も分かってないのだから。
けれども脳裏で剣の長さと自身の取れうる行動をイメージ、それをとっさに出来るように想像を固めながら歩いていると徐々に河の、水音が大きくなってきた。
それは徐々に河へと近づいている事を示している。

「……さすが獣道。生きるのに必要な水分への道はしっかりと確保されてるのな」

ちなみに、獣道付近は果物の種などで植物が実りやすかったりする。
植物もそれなりに生えやすかったりするのも豆知識。

「ここまで来ればあとは――ぁ゛っ!?」

背後からの強烈な一撃で喋りかけていた言葉も、それを考えていた意識も一瞬で揺さぶられる。
次に瞬間には目の前には地面、そして浮遊感を少し味わっていた。

「痛っ!?」

頭を即座に曲げたおかげで顔面から着地にはならなかったが、それでも受身すら取れずに地面を転がり、更には巨木へと叩きつけられて背骨がバキボキとなった。
それだけで肺に入っていた酸素を堪えられずに吐き出してしまう。

「か、はっ――」
「グルルルル……」
「妖怪……?」

頭を振って意識を正常化させ、目の前の――自分の居た場所を見やる。
其処には熊のような大きな黒い影が一つあった。
金色の双眸が俺を捉え、生臭いような吐息、そして生暖かな空気が相手から送られてくる。
それを感じながら木を障りながら立ち上がる。

「……言葉は――通じないよな?」
「ウゥゥゥウウ……」

一応対話を試みるも、そもそも言語が違う。
これは餌と狩人の立場でしかない、か……
そう思いながら椛に貰った剣を抜いて構える。
――相手は妖怪じゃなくただの獣か? それとも上級の妖怪だろうか?
そんな事を考えていると相手が動く。
それに自然と防御の為に身体が動き、剣の腹で相手の攻撃を受ける。
のだが……
それを受けた時、剣道では到底味わえないような衝撃が俺を襲う。
刃も立たない様な岩石に剣を叩きつけたような痺れ、力が抜けるように剣を握る手が震える。
それでも自分が動き間合いを取ると、その攻撃をとても忌々しく思った。

「くそが……」
「ウガァ!」

打ち合うのは最善じゃない、だからと言って逃げるには走れるほどにここは安全じゃない。
傍にあるのは河だが、水面まで距離がある上に河の深さが分からないから飛び込めない。
これは最悪だと思いながら剣をしっかりと握り締めた。
もう紫は居ても立っても居られなくなったので行動を起こす。
なぜかって?
それは同居人となった相手が行方不明だからだ。
だからと言って探しに行く事ができるのかと言えば出来ない。
なぜならば彼女はようやくたどり着いた地であり、さらには彼女の妖力につられて喧嘩を、勝負を吹っかけてきた妖怪が大量に居るのだ。
うかつに一人で行動できない。

「ん~……もう少しこの“能力”を自在に使えたら良いのに」

そう言って彼女は自身の手を見る。
彼女の能力は境界を操る程度の能力だ。
ただし、それは2000年現在での能力であり、彼女も未だこの時には使いこなせていないのだ。
留まって万里を覗く事ができないのは不便極まりない。

「――もっと能力の幅を、限界を超えないといけないわね」

そう思いながらも紫は食べる人物が居なくて机のうえに置かれた食べ物をポイポイと隙間の中に投げ込んだ。
――時間とか場所とかに左右されないのでいつまでも新鮮で保存できるからだ。
何事にも縛られない空間があるというのは何かと便利だ、が――

「蒼野を探すには……」

今己が為そうとしている事には全く持って役に立たない。
不案内な場所では繋ぐ先が限られるし、不安定になるからだ。
だとすると繋ぐ事ができる場所で役に立つのは?
白玉楼……は、幽々子には別の作業をさせているし、妖忌は彼女の庭師なのだから許可でも無い限り動かせないだろうし、そもそも貸してくれるとは思わない。
だとすると後は人間の里――
は無意味だ。
何故なら稗田家のものは荒事などには不向きだ。
当主ですら能力持ちとは言え一般人とほぼ変わらない。
更には妖怪退治をしている人間……は動き回っているために探すのに時間を食ってしまう。
最後に残るのは――博霊神社と守屋神社だ。
けれども守矢神社は距離的な問題から排除、そして残ったのは――

「はぁ……」

確かに霊夢は実力やその他の面でも協力要請するには申し分ない相手だ。
けれども一度は騒ぎを(不本意ながらも)起こして面倒な相手だと思われている。
そんな相手に協力要請を出来るのだろうか? と考えてしまうのだ。
けれども逆に考える事もできる。
ここで協力を要請して事が済めばそれなりに信用が生まれるのではないかと。

「まあ蒼野を引き合いに出せば少しは動くかもしれないわね」

そう呟きながら机に手を突いて立ち上がった。
移動は隙間を使って行うことにする。
何故なら道すがらで絡まれるのも面倒だから。

「千年単位で生きていれば絡まれないんでしょうけどね」

まだ900年ちょっとだ。
それぐらいの年代だと他にも腐るぐらい居るのだし、それほど珍しくは無い。
――まだ。

「……言葉を選んでおきましょうかね」

ついでに手土産も必要かもしれない。
そう思いながら家を出る支度をする。
傘は必須、そして余裕を見せ相手を挑発し、手の内を読まれないためにも扇やその他の物も持って行く。
何事も自分を優位に立たせる為、相手が勝手に自滅してくれるならなお良し……
と言った所である。
頭の中でどうやって博霊の巫女である霊夢を動かそうかと考えながら、傘をゆっくりと開いた。
今日もまた――快晴である。





「帰って」
「…………」

予想の一つ、そうするであろうと思われる行動の一つを博麗霊夢は取った。
それに八雲紫は瞬間と言う短い間だけだが、沈黙してしまう。
拒絶、とはまた違う態度に戸惑ってしまっただけだ。
それに思考を巡らせ、どうやればこの少女を――
人間であるにも拘らずどんな妖怪とも対等以上に渡り合える巫女を動かせるかを考える。

「あら、博霊の巫女である貴方は人の話も聞けないような躾をされて育ったのかしら?」
「だってあんた人じゃないし」
「――それでも他人(ヒト)の話を聞こうと思わないの? こうやって安全である事を示してるのに」

そう言いながら紫は囲んでいる卓袱台からセンベエのような物を一枚取って食すと、緑茶と共に味わう。
といっても自分で持ってきたものなので、美味しい事に変わりは無い。

「大体妖怪だって事だけで危険な事に変わりは無いのよ」
「それは偏見ね。妖怪の中には人に重んじられ、信仰の対象とされているものまで居るのに?」
「…………」
「座敷童子とかだけど――それに残念ながら私は『人を食べていない』のよ。それに自分から敵を作ろうと思わないから喧嘩も売らない」
「――分かったわよ、とりあえず話だけ聞くからセンベエに伸ばす手を少し緩めなさい。未だ私だって一枚も食べて無いんだから」

そう言って霊夢も紫の持ってきた食べ物に手を伸ばし始めた。
紫が二枚、三枚と食べているのを見て安全なものだと判断したらしい。
それに一歩目を歩めた事を確信して心の中で笑みを浮かべる。
勿論表情にこそ出さないが。

「――これは、センベエじゃ無いの?」

一口食べた霊夢はいぶかしんで見せる。
いつもと触り心地も味わいも違うのだから当然であろう。
けれども害は無いし、味は薄いがしっかりと付けられている。

「ナンって言う物だけど。蒼野が教えてくれた地方で作られているものね。別の国に行くと餃子のように扱う場所もあるわ」

そう紫が説明した。
ちなみにカレーとか言う食べ物に使ったりするらしいけれども、今回はこれを持って来るのが精一杯だった。
――身振り手振りで何とかしたのだけは誰にも言えない、恥ずかしすぎて。

「蒼野、ね。――そういえば連れてないの?」

そして蒼野の名前を出した事で霊夢が食らい付いてきた。
相手から食いつかせることで話を進めやすくする為だが、上手くいったようだ。

「私の話ってのは彼関連なのよ」
「……何かあったの?」
「えぇ」

そう答えて緑茶を飲む。
その動作ですら計算に入れなければ霊夢を動かすのが難しい。
一気にまくし立てていた相手が会話を不意に中断すれば相手は不審に思うだろう、そしてその動作に意味を持たせれば相手はそちらに流れてくれる。
落ち着く為に飲んでいると思わせればいいのだから。

「――蒼野が外出してから行方不明になったわ」
「直ぐにひょっこり戻ってくるんじゃない? ある意味処世術を心得てるみたいだし……死なないでしょ?」
「そうでも無いわ。もう二日経過して戻ってきてない。そして彼は自身のことをよく理解していない。だから『死ぬ』わよ?」
「…………」

この会話は蒼野本人以外が聞いたら理解できる内容だ。
彼女が言いたいのは、蒼野が今自分の状況を理解できていないということだ。
自分を知らずしてどうやって生きて行こうと言うのだろうか?

「方面は?」
「人間の里に向かってから少し湖を見てくるって言ってたわね」
「空は飛べるの?」
「いいえ。だから時間を考慮すると良くて人間の里で待機、悪くて安全な道を外れて直線に家までね」
「はぁ……厄介ね」

そう言いながらも霊夢は袖に手を入れるといつも所持しているお札や針を確認する。
どれも妖怪退治にも、対人にも使える代物である事を紫は知っている。

「――とりあえず見つけたら蒼野から色々搾り出しましょう。この食べ物は置いといて、他にも色々知ってそうだし」
「それじゃあ……」
「人間の里に向かってから北上するわよ。どうせ人間の里によって居ればあいつにも会ってるでしょうしね」

そう言って霊夢は立ち上がった。
それに追随するように紫も立ち上がる。
とりあえず机の上の物は片付けて、だが。





人間の里に来れば霊夢はそれなりに名を知られて信頼されている事が分かる。
何故なら妖怪が幅を利かせているこの世の中で、単身で渡り合える人物、更には少女である事から有名なのだ。
面倒だ、面倒だと言いながらも事が起これば動くのも彼女である。
なのでそれなりに博霊神社は信仰を集めていた。

「蒼野?」
「ええ、外来人(ここでは渡来の意)で日本人に近い容姿をしているのだけど、格好が和服じゃないの」
「それと未知の道具をいつも首から下げてるわね」

本人がそこに居たら『いやいや、ヘッドフォンだけど』と答えるであろう物を未知の道具と霊夢が指した。
それに対して目の前で髪を長く伸ばした女性は顎に手を当てて少し考え込む。

「――あぁ、そういえば稗田家の阿未から大きな湖についての知識が欲しい人物が居るからと紹介を受けて少しだけ話をしたな。……あいつがか?」

そう言う目の前の女性は眉を顰める。
確かに見たことも無い格好をしていた事も手伝っているだろう。
しかし彼女が不審に思ったのは別の線でだ。

「迷っているのか?」
「いろんな意味で迷ってますわ。だからここを訊ねたんですの」
「残念だが一昨日に訊ねてから里の中では見かけていない。――良くも悪くも目立つからいれば分かる、だから今も居ないだろう」
「そう……なら厄介ね」
「とりあえず見かけたら報告はしよう」
「ええ、お願いね」

そう言って彼女と別れると二人は少しだけそれぞれに別々の方を見てため息をついた。
面倒くさいからである。
砂場の中から飴玉を探せと言われているようなものだ。
砂糖じゃない分未だましなだけである。

「――面倒ね」

そして霊夢は隠そうともせずにそう呟いた。
それには紫も同意だが、言わずに歩む。

「次は湖だったかしら。神社に近かったと思うんだけど」
「あぁ、あの悪戯妖精が居る場所ね。――もしかしたら氷付けかも知れないしね」

そう言いながら二人は人間の里を後にした。

「蒼野、か……」

二人が立ち去った後でそこに居た少女は一人呟く。
彼女は確かに今この里で一番の知識保有者だ。
だから阿未に紹介されたのは間違いでもなかったし、彼に対して与えられた知識は求められた物に対してしっかりと答える事ができた。
しかし、そこで抜けていたのは――
相互紹介である。
彼は阿未に聞いて彼女の名前を知っているだろう、しかし彼女は今聞かれるまで知らなかった。
まあこれ位だったら『失礼な奴だ』で終わるだろう。
けれども最近やってきた妖怪である八雲紫、そして付近で最も力を持つ博麗の巫女。
双方が探している人物と聞いて興味がわいてきた。
興味がわいた瞬間、彼の身なりや格好までそれなりに意味があるように思えてくる。

「……二人が見つけたのなら今度会って見るとするか」

そう言って彼女は背後にある建物、寺小屋へと入っていく。
教師になって余り時間が経っていないのだからやる事はたくさんある。
少しでも子供たちが大成する為にしっかりと教えられるようにならないと……
そう思いながら入っていった。





二人は空を飛んで直ぐに湖へと向かった。
そこは今は何も無いが、しばらく後に紅魔館が出来てレミリアや咲夜たちによって紅の霧異変が起こるのだが――
そんな事はここに居ない蒼野しか知らない。

「ここには妖精が集いやすいのよね。まあ水と相性の関係だと思うけど」
「水は聖を司るからでしょう? 妖精は基本善いものだから」
「ふ~ん……」

自分で言っておきながら興味なさそうな霊夢に紫は少し笑みを固まらせた。
でも直ぐに戻す。
何事にも余り興味がなさそうだと言うのが分かっている事だから。

「――これも善き妖精なの?」
「うぅぅぅぅ……」

そう言って彼女が指差すのは目の前でボロボロになりながらも座り込むチルノだった。
まあ分かるだろうが、やってきた二人を見かけたチルノは大妖精を連れて喧嘩を吹っかけたのだ。
弾をばら撒く、そこには美しさも何もないただの暴力だった。
けれどもその暴力ですら力になりうるのが妖怪や妖精……
人あらざるものである。
それでも霊夢には負けたが。

「妖精ね。氷の妖精……じゃない? ――丁度良いわね、そこの二人に尋ねようかしら」
「え?」
「なんだよ!」
「ちょっとした事よ」

そう言って紫が訊ねたのは蒼野のことだった。
それに二人はしっかりと答えた。
一度帰るように真っ直ぐと歩いていったのを見送っていたのも、更には誰かと一緒に飛んでいくのも見ていたとの事。

「鬼、だと思います」
「なんかぐったりしてたけどね。酔ってたのかな?」

なんて言っていたのに二人は顔を見合わせると少しだけ考えて答えを出す。

「「妖怪の山!」」

鬼といわれて真っ先に思いついたのがそこだから。
けれども鬼といわれて有力候補はそこだろうと思ってのことだ。
だから真っ直ぐに向かうのであった。
萃香に埋められた二時間後に俺は土に塗れた身体を洗う為に、自分で釜風呂を沸かす。
火は洞穴から火のついた木材を一つ持ってきて、積まれた木を燃やすだけなので楽だ。
まあ楽とは言っても、キャンプなどで木材をどうやったら燃やしやすいか、どれが良くて悪いかを実際経験として知っているから出来る事だ。
まあ日を当てる相手が飯盒ではなく人が入る事が可能な釜なんだけどさ。

「熱っ……!! うっ――あぁ……」

因みにこういった風呂に入る場合、足を火傷しない様に板が浮いている。
その上に立つ事で足を焼く事無く入れるのだ。
ただし、言うまでも無く火力調整を誤れば死ぬほど熱い……

「あ~、地面に埋められた時に引っ掛けたかな……。殴られた時の傷もいって~……」

まあ自業自得だけどさ……
けど相手が人間じゃないから、調子に乗ったり何も考えないとこういったツケが来るのだ。
少し東方世界、いわば幻想郷に来た事で調子に乗っているかもしれない――
多少頭を使おう。

「椛に貰った一式か~、如何しようかな……」

脇差に太刀の事だ。
一応盾は椛の善意で後々追加されたが、はっきり言って使い道は有るのかどうか微妙だ。
脇差はナイフよりは長くて剣より短いという扱った事のないタイプだ。
そして、太刀は太刀でも斬馬刀……
三国無双の関平が使っている大剣とも言える様な刀だ。
――妖怪だからこそ俺みたいな細腕でも片腕で扱えるのだろう。
俺だと両手で精一杯だ。

「Gears of Warみたいな体格になれないもんかねぇ……」

まあ言って見れば人間ゴリラだが、200Kgの装備で銃火器を装備して動き回り、走り回れるのだ。
アレぐらい筋肉が有るのは羨ましいのと同時に、アレぐらい筋肉付けたくもなる。

「……年相応に見えるか、若く見られたいのか、それとも年より上に見られたいのかわからねぇな、これじゃ……。ほぁ~っ……温けぇ……」

そんな言葉を漏らしながら手でお湯を掬うと顔にかける。
眼を閉ざしているけれども、目蓋越しに温かさが伝わり、何とも言えない快感が走る。
眼の疲れにはこれが一番と言っていたけど、本当だったら浸した布を載せるのだ。

「思考を停止するな、したら――生きて行けない」

思考を停止して良いのは自分の家に居る時だ。
それも――直面している事態が無ければだが……
家を一歩出たなら通勤中はアイドリングで、付いたらすぐにスタートできるようにしなければならない。
そして帰る時の電車に乗っている時は、今日為した事を整理し、明日何をすべきか、家ですべき事を考えて、何をしなければならないか考える。
あぁ、学生の時は楽だったなぁ……

「――って、こうやって過去の事ばかり考えてるから言われるんだな……」


オマエハイツマデタッテモコドモダ


それは家族、兄弟、友人、全てから向けられた言葉。
だけれども、言い分けだとは思うけれども俺にも言い分はある。
人間は赤ん坊から成長する事で大人になる。
其処から積み重ねてきたものがあるからこそ大人になれるのだ。
けど――赤ん坊からの記憶が無く、いきなり少年から始められた俺は如何すれば良い?
どのように家族と接してきて、どのように行動して、何を思って――


今まで生きてきたのか?


「はぁ……」

小説を書いて、同じ趣味、同じ志の人物を見つけてつるむ。
そしてそう言った人物“のみ”と楽しく騒ぐ。
子供と変わらないな……

「いやいや。ポジティブ、ポジテゥヴ」

後ろ向きになったって良いことはない。
ならば無理やりにでも前向きになるのが得策。

「まあ刀剣の類は素振りにでも使えば良いし、装備できない重量じゃないな。
 斬馬刀もどきは――」

そう言ってあの重量を思い出す。
さて、腰から下げて帯びておくことは可能。更には背中の方に回せば片手でも持っていることは出来る。
英雄伝説、空の軌跡の赤毛のアイツみたいにだけど――
残念ながら振るのだったら両手が必須だ。

「――でさ、背後から近寄るのやめようぜ? 姐さん。流石に気を抜きすぎたらトーシローの俺でも判るんすけど」
「……そう、かい。気付かれないと思ったんだけどねぇ」

そう言いながら背後の木陰から出てくるのは、言った通りの星熊 勇儀 姐さん。
2時間でほろ酔い状態まで回復してるのか、顔は少し赤みが差しているものの素面に近い。

「――――ハーフ、言わば日本人と外国人の間に出来た子供ってのは何処までも中途半端でさ。そのせいで色々あったからさ、相手が自分をどう思っているかに 敏感になっちまったのさ。それと一緒に臆病だから音とかに敏感なんだわ。両耳で音楽を聞きながらでも背後から異常接近されたら気付ける」

因みに異常接近とは、自分よりも速い速度――
追い越そうとしたり、自分に近づいてくるような人が居ると気付くだけだ。
ただし、対応箇所は自分の死角である背後と、曲がり角のみ。

「この世界にもきっと居る筈だ。と言うか居る、人間と――妖怪とかのハーフがな」
「まあ居ないとは言わないけど――人間でも半分ってのは辛いのかい?」

そう言いながら勇儀は俺の正面の方に回ってきた。
――そう言えば忘れてたけど、一応俺ってば入浴中なんだよね……
まあ修学旅行で学んだ秘技『腰に布』で、このまま出れる環境ではある。
と言うか、釜風呂自体が外にある為に必需品でもある。

「人間で半分って言うのは色々難しいかな……日本に居れば外国人、外国に居れば日本人として扱われる。んで、やっぱり自分も中途半端だからどっちかに属する事も出来ないんだよな――で、風呂に入ってる所を訪れてどうしたん? 其処まで重要な用事かい?」

俺がそう尋ねると彼女は腕を組んで傍にある木に身体を持たれかけた。
顔に笑みは――無い。

「まあそれなりにね。――で、出自を聞いた上で聞くけどさ。アンタのその余裕は何処から来るんだい? 普通、妖怪に攫われた時点で人間は脅えるし、騒ぐ、 喚く、暴れる筈なんだよ。にも拘らずアンタは落ち着いてるし、私たちと交流を深める事までしている。何を……考えているんだい?」

その問いにはすぐに答えられない。
言葉のサラダから一つずつ文字を掬い上げて、喋っていておかしくないように並べ立てる。

「別に、何も考えてないさね。俺は既に脅えてる、今この瞬間にでも勇儀や萃香に見棄てられる可能性も有る。恐くて怖くて仕方が無い……。けどさ、だからっ て亀みたいに引きこもってても前には進めないし、自分の置かれてる状況も見えない。だから恐い、恐いと脅えながらも今の自分の状況を把握して、出切る最善 の一手を選択するだけ」

酷い事を言えば、鬼は嘘をつかない。
なら萃香が言った『保護』とやらは確実であり、とりあえずの俺の安全は保障されている事になる。
だから生活面は安全であり、脅威もとりあえずはないと思って良い。
後は如何に妖怪の山を彼女等の威厳や体面を損なわずに逃げるかだ。
――妖怪の山で一生を終えるのだけは御免被る。
最も……そんな事はおくびにも出さないけどな。

「まあアンタが何を考えて、どう生きようと構わないけどね。もちろん、それは私たちに飛び火させなければ――だけど」
「まあ姐さんや萃香たちを“裏切る”事はしないさ。――所でさ」
「ん? なんだい?」
「姐さんが其処に居ると俺としては非常~に出辛い! と言うか俺も必要最低限男してるから察して撤退して!?」

喚きながら勇儀にそう言った。
残念ながら釜風呂から出るには足を上げなければならない。
そうするとだ、恥部が角度によってはもろ見えになってしまうわけで……

「せめて着替えてから話の続きを! このままだとのぼせきってしまいまする!」
「アンタはどこぞの足軽みたいな喋り方をするんだねぇ……。まあいいさ、萃香は不貞腐れて寝ちまったし、話の続きするには問題はなしか。――で、なんで萃 香は不貞腐れたのか知ってるかい? 気が付いたら壁に向かって呟いてたし、声をかけたら頭から布を被って寝ちまったしさ」
「…………年頃の娘には色々有るのですよ。それを察してあげて欲しいのですよ……」
「口調が忙しいヤツだね……」

そう言いながら勇儀は去る。
それを見送って暫くしてから俺も風呂を出て着替えるのだった。
――水道代とかは無いけれども、河からいちいち水を汲むのが面倒くさいな……
けど俺は海外風に一切合財木々にばら撒いて空にするのであった。
明日が有るのであればたわしで綺麗にするかな。
基本的、主夫としてやっていける程度には綺麗好きである。





渇ききらない髪、そして温かな身体を夜風に冷やされない内にと思って洞穴に急ぐ。
洞穴から河――
それは余り遠くは無いものの、近いとは言い切れない距離。

「――やっぱし、闇夜は恐いな。恐ぇ、恐ぇ……」

そんな事を呟きながら心なしか歩調が早まる。
駆け足ではない、けれども歩いてるとも言えない速度で洞穴に向かう。
そしてたどり着いた時には多少鼓動も早く、軽くジョギングした程度には汗も出てしまっていた。

「ありゃ? 其処まで急いで帰ってくるこたぁないのに」

焚き火に木を幾つか追加していた勇儀が俺を見るなりそう言った。
俺は少しばかり荒ぐ息を抑えながら軽く言うしかない。

「だって外寒いんだもんよ。寝冷えしやすい環境にもあるんだから体調管理“だけ”でも常識的でありたい」

自分をパラメーター化するならこれだな。
・ 気温変化に弱い
・ 病気になりやすい
・ 回復早い
みたいな感じかも。
とにかく、普通であれば大丈夫なんだが、冬になったとたんに一気に身体をおかしくし易くなる。
インフルエンザだって毎年かかるのが恒例だ。

「はぁ……そう言えば今は何月だ? 俺が居た世界ではまだ10月で暑い時も多々あったのに……」
「ん~……長い間生きてるとそう言う事には無頓着になるねぇ……。まぁちょっと待ってな、すぐに思い出すから」
「って、また酒かい……」

今度はまともな酒らしく、匂いは嗅いでいて香ばしい。
けれども一度飲んである程度酔ったらもう飲まないことにしている。
自分の限界――何処までか正確には分からないし。

「ん~……」
「あの、酒を飲んでまで思い出さなくても良いからさ――」
「うぉ~っ!!!!!」
「っ!?」

突然の奇声、それにビックリして半歩退く。
両手が勝手に――

「西暦1707年の12月! 富士山が噴火して間もないから間違いない!」
「――俺って馬鹿だな……」

そう言えば紫に言われていたのに、噴火したのがこの前だって。
ならば最低でも12月の始まり、遅くとも1月だ。
11月の24日に噴火が始まり、12月の8日まで続いたのだから。
しかし未だ雪が見えないのは何故だろうか?

「――クックック、クリスマスが無いから一人きりの寂しい夜なんて言われないぜ……。ざまあみ晒せ!」

とりあえず真っ先に思ったのはそんな事だった。
ふっ、クリスマスとは本来家族と慎ましく厳かに過ごすものだ。
それが如何した? 日本に来て見れば恋人と過ごすだの、彼女といちゃつく等……
ごめん、やっぱり素で羨ましいだけでした。
けどやっぱり家で家族と供に一年の出来事を思い返しながら笑いあって、何時もは食べられないような美味しい料理に舌鼓を打つのが正しいキリスト教としてのクリスマスだと思う。

「まあ冗談はさて置き……。そっか、寒くて当然だわな――」
「萃香がこの洞穴の中の温度を弄ってるからね。焚き火で暖めたら丁度良い程の気温になるのさ」
「そっか、密と疎を操れるからそう言う事ができるんだよな~」
「私は萃香の数少ない……と言うか唯一の友達だろうさ。けど、萃香は私に隠れてるだけじゃない。互いに助け合って生きてるのさ」
「へぇ……」

それから11時半ば、言わば一時間ほど勇儀と雑談をしてから床に就いた。
――実はついただけで、勇儀が鼾をかくのをじっと待ち続けた――