パロタスBlog

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志望動機なんてテキトーだった。

『なにかを変えたくて』

なんでもよかった。ただ毎日が退屈だった。

刺激が欲しかった。


私にはなにもない。

特別可愛いわけでも 歌がずば抜けて上手いわけでもない。ましてや楽器なんて弾けない

ただ音楽は好きだなってのはある。


一度地下アイドルのライブを見たことはある。

特段可愛くない子が特段上手くもない歌とダンスを披露しておじさん達にチヤホヤされていた。


これなら私だって出来るかもしれない。

なにもない私を変えるのはこれだ!と思った。


地下アイドルの募集を調べてみると数え切れないほどあった。

地下とはいえ『アイドル』だ。合格を手にするのは時間がかかると思ったが、あまりにも簡単に合格を手にすることができた。


私は4人組グループのアイドルとしてデビューする事になった。


デビューまでは学園祭の準備のようで楽しかった。

私たちの為につくられた曲

世界に1着しかない私だけの衣装

私の為に用意されたものを完成させるための練習はワクワクした。


でもメンバーやスタッフと仲良くなれる気はしなかった。

彼氏と電話ばかりしてサボる子も、下世話な話を自慢してくる子や それを注意しないスタッフさん。


私のイメージするアイドルとは違った。


はじめてのステージ。やっと「アイドル」を感じられた

思っていたよりたくさんの人が来てくれた。

「可愛い」という言葉をこんなにも言ってもらえたのははじめてだった。

努力が認められた気がした。


デビューライブ以降のお客さんの人数は最初想像していた通りの人数に戻ってしまった。


さすがにそんな簡単じゃないんだと思った。

それでもよかった。私を推してくれると言ったファンが1人出来た。


たった1人かもしれないけれどもすごく愛を感じた。

私以外を推している人だってグループに対する愛を感じた。

デビュー前には気持ち悪いと思っていたオタクに愛おしさすら覚えた。

私にはなにもないと思っていた穴をファンの人はたくさん埋めてくれた。


………



徐々にオタクも増えてきた。

思いの外簡単に、そこそこの人気を手に入れた


ある日、メンバーの子に合コンに誘われた。

普段なら断るのだが私の好きなバンドのベースが来ると聞いてどうしても気になってしまったのだ。


いるわけないだろう。と思いつつ向かうと本当にその人はいた。しかも私にたくさん声をかけてくれるのだ。


その夜、私は憧れに抱かれた。


愛は一切なかったが優越感を感じた。


お金を払ってでも私と話したい男がいる。

普通の女には手の届かない男が私を求める。


私は他の女とは違う、特別な存在なのだと思った。


それ以降誘われる合コンには行くようにした。

西麻布という街がただの遊び場になった。

テレビで見たことのある芸人さん、ご飯に行くだけでお金をくれる社長さん、好きだったバンドマン

たくさんの男に抱かれるたび私は特別な女だと感じるようになった。


私は特別なんだ。と言いたくて「昨日誰に抱かれた」なんて楽屋で話すようになった。


そんな事をしていてもファンが離れていくことはなかった。あながちバレないものなんだ。楽勝だ。


自分が特別と思うようになりイライラすることが増えた。


なんで私がこんな時間帯にライブしなくちゃいけないの?

なんで私の楽屋がこんなに狭いの?

なんでオタクは私じゃなくてあんなダサい子にいくの?


特別な私をこれ以上売れない運営にも腹が立った。

特別な私の横にいるのがなんてことないただのクソ女だということに腹が立った。


こんなところにいたくない。

運営に伝えた。


もっと私に合った環境があると思った。

どうやら他のメンバーもそんな様子だった。


私たちは解散することになった。


それから日常の生活に戻った。

今までの日常が非日常だったことに気付いた。


特別な私は引く手数多だと思ったがそんな事はなかった。

Twitterの反応も時が経つほど薄くなっていった。

私しか愛していない、私だけのオタクは違うアイドルを好きと言っていた。

何度も身体を重ねた彼に連絡をしても既読もつかなかった。


私の穴を埋めていたものが風化するように崩れていき私にはなにもない事を思い出した。


でもあの頃以上に、なにもない自分を受け入れられなかった


私はまた特別になるためアイドルをする


志望動機『なにかを変えたくて』

最初のきっかけなんて思い出せない。


今日も特別を求め、階段を降りていく。