「僕は、普段からあまり泣くことがありません」──アン・ボヒョン、韓国随一の“カメレオン俳優”が語る演技論


「ユミの細胞たち」や「梨泰院クラス」など多くのヒット作に出演し、今や韓国を代表するスターへと急成長を遂げたアン・ボヒョン。彼が来日した3日間のうち、30分の時間をもらいインタビューを決行。



「作品を演じる中で、くやしいと思ったことはありません」

短い時間ながらも、柔らかな物腰しと落ち着いたトーンで一文一文丁寧に答えるアン・ボヒョンの姿は、まさに温厚篤実そのもの。強い感受性を持ち、不安を隠すことなく、悩みながら作品に全力で取り組んだ。結果、作品ごとにカメレオンのように変幻自由に役を表現し、観る者を驚かせ、楽しませてくれている。作中でどれだけ憎らしい!と思わせたとしても、その礎となる常に努力する姿勢があるからこそ、視聴者はアン・ボヒョンという存在をさらに愛さずにはいられないのだろう。そんな彼の言葉を聞いてほしい。


──今まで参加した作品で、悔し涙を流した経験はありますか?

僕は、普段からあまり泣くことがありません。さらに、作品の中で悔しいと感じたことがないかもしれません。ただ、演じる上で“悲しい”“悔しい”という感情を表に出すことはもちろんあります。「梨泰院クラス」は、韓国ですごく有名なウェブトゥーンが原作でしたし、僕が演じたチャン・グンウォンから全てのストーリーが始まっていくと言っても過言ではない重要なキャラクターだったので、悔しがったり、怒ったりする感情を導き出すためにすごく努力しました。

──繊細な性格だとご自身を表現されていますが、どういうときにそれを感じますか?

一見、サバサバした性格だと多くの人に思われがちなのですが、実際はかわいいものが好きですし、綺麗好き。結構、細かいところに気を使うタイプです。食事をするときもちゃんとテーブルセッティングを考えたりしますし、部屋を掃除するときも、綺麗に物を揃えたり、並べたくなってしまうんですよね。そういう意味で、ちょっと繊細な方なんだろうなという気はしています(笑)。「ユミの細胞たち」で演じたウンと似た部分とも言えます。


──日本ではこの秋、「ユミの細胞たち」のシーズン2の配信が開始しました。ボヒョンさんが演じたウンは“プライド”を重要視するキャラクターでしたが、ご自身は“プライド”とどのように付き合っていますか?

ク・ウンというキャラクターに共感できないという意味ではないのですが、僕自身はプライド細胞──つまり自尊心がそれほど強くありません。演じる上でも、豊かな感情を調整する核となるのは、僕の場合はやっぱり“感性細胞”なんじゃないかなと思います。僕のプライム細胞はむしろ感性細胞に近いですね。

──“感性”を重要視されているならば、感受性が豊かとも言えますね。では、何かに対してモヤモヤしたり、言葉にできないような感情を覚えることもあると思います。“モヤモヤ”を誰かに共有したりするのでしょうか?

個人的に、もどかしいことがあっても、苦しいという感情を出したり、言葉にすることはしないですね。誰かとシェアしてもどかしさを減らそうとするのではなく、どうにか自分の中だけで解決しようと努めます。最近は忙しくてなかなか行けていませんが、もともとバイクに乗るのは好きなので、バイクでドライブに出かけたり。キャンプも好きなので、アウトドアで食べたり飲んだりします。あとは焚き火。火をじっと見つめて、ただぼーっとしちゃうことってあるじゃないですか。そういうことで、頭を空っぽにして整理する時間をつくろうとしますね。


──10月23日から衛星劇場で放送される、「軍検事ドーベルマン」では、軍の検察官であるト・べマン役で主役を演じていますが、この作品を通じて学んだことはありますか?

私が演じたト・べマンは、非常に男らしいんだけれど、繊細な部分も持っているキャラクターでした。演じながら、「あ、自分はこういう演技もちゃんとできるんだ」と感じました。加えて、法廷ものの作品なので、聞き馴染みのない法律用語がたくさん出てくるんですね。自分は難しい言葉をうまく使いこなせるだろうか、と初めは不安もありました。でも、準備に時間をかけることができたので、視聴者のみなさんにも受けとめてもらえたんじゃないかなと思いましたし、この作品を通じて、また少し自信を得ることができました。

──共演者と演技について議論することはありますか?

作品ごとに、キャスティングが決まった後は、相手役の方と演技についてよく話し合います。「ユミの細胞たち」は、3Dアニメと実写が混ざり合う作品だったので、いろいろ心配な部分がありました。その点に関しては、ユミ役のキム・ゴウンさんとたくさん話合いをしましたし、「軍検事ドーベルマン」も韓国で初となる軍の中の法廷を扱ったドラマということで、チョ・ボアさんと一緒に悩みながら一生懸命役と向き合いました。


──俳優という仕事をしていて、やりがいを感じる瞬間は?

“演技”には正解がありません。自分なりに頭を抱えながら撮影に挑むわけです。現場で演技を終えた時に、監督はじめスタッフのみなさんが「すごくよかった!」と言ってくださったときに達成感があります。あと、「軍検事ドーベルマン」の撮影時は、自分の身体が高くて体が大きいため、アクションシーンで代役を立てることが難しかった為、なかなかスタントにお願いすることが難しく。自分でアクションをこなすことがほとんどでした。そこでいい画が撮れたり、周りから拍手をもらえると、すごく気分がいいですね(笑)。

──今回、日本の空港に着いたときにRADWIMPSの「スパークル」(『君の名は。』の主題歌)がイヤホンから流れてきたそうですね。日本のドラマや映画で最近観た作品やお好きな作品はありますか。


『君の名は。』(2016)は本当に好きな作品で、「スパークル」は寝る前によく聴いています。日本映画の中で好きな作品は、『いま、会いにゆきます』(2004)ですね。あと、アニメも大好きで、『千と千尋の神隠し』(2001)は、20回くらい観ています。ちなみに、アニメだけじゃなく漫画もすごく好きで、漫画本はかなり持っている方だと思います。