「よし・・・一先ずコレで良いんだな?」

「うん、バッチリ。ありがとうサトル♪」

「ったく、シート汚すんじゃねえぞ」


最初のお願いは、気に入りのアイスクリーム屋でトリプルのアイスを買うことだった。

満面の笑みを浮かべた彼――ヒカルは、まるで子供のように真ん丸い顔で頬張っている。

彼が慎重にコーンを持ちながらシートベルトを装着したのを確認し、俺はエンジンをふかした。




3年前、中々相方のできなかった俺に友人が教えてくれたのは「とあるメーカーの自動車に乗ってるとモテる」というものだった。

まるで都市伝説のようなその噂に半信半疑だったが、中古車屋を勤めていたその友人に半ば強引に決められ、その半年くらい後に、共通の知り合いからヒカルを紹介された。

三十路も過ぎたオッサンな俺に、当時17歳の青年はいくらなんでも若すぎるんじゃないかと思ったが、二人で飲みに行くうちにだんだん話が合い、程なくして付き合い始めた。


しかし、俺の仕事の都合や、ヒカルの若干夜型な大学生活が災いし、中々2人で会う機会は減っていき、こうやって2人でドライブをするのも、実に何週間ぶりかのことだった。


「お前そういうの好きだよな」

「うん。この真ん中のやつ、季節限定なんだよ~初めて食べた」

「え、それお前、こないだも食ってなかったっけ?」


ヒカルはアイスが大好物だ。

俺は彼の食べているアイスをチラチラと確認する。


黒くて艶のある車は細い路地を抜け、交通量の多い国道を滑るように走っていく。

交差点の赤信号で止まった時、ヒカルが残り2つになったアイスを俺の口に向けた。


「これ。すんごい甘くて美味しいの♪」

「ん・・・」

拒否はできそうにない位の超至近距離。


「なんつって。あ~げない」


ぽかんと口を開けた俺がばかばかしくなるほど絶妙なタイミングで、信号が青に変わった。


「・・・で、次は何処だっけ?」


軽くイライラした俺は気を紛らわすように、次の目的地をヒカルに委ねる。


「え~云ったでしょ?駅前に新しくできた電器屋さんに行くの!」


鋭い目線を俺に向けながら彼は云う。


「オレが二十歳になったお祝いに、ゲーム買ってくれるって約束したじゃん!もう忘れたの??」

「わりぃ・・・覚えてねえや」


はぁ・・・と、溜め息を吐きながらヒカルは、助手席側の窓を開けた。

申し訳ないと思いつつも、若干気まずい空気の漂う車内。次の赤信号で俺も運転席側の窓を開けた。少し雲は出ているが晴れた天気。時折吹き抜ける風が、俺の顔を撫ぜていく。


そういえば、俺が仕事で忙しくて中々会えなかったお詫びに、今度いくつかお願いを聞いて欲しいというのを、昨夜の電話でヒカルから何となく聞いていた。アイス奢ってっていうのは覚えていたが、その時夢うつつだった俺は、それ以降聞き流してしまったのだろう。


「分かった、じゃあ俺が買ってやるよ。」

「んん!」

普段とは違う返答に振り向くと、既にアイスを食べ終え、残ったコーンを口に咥えてクチバシに見立てたヒカルが目を細めていた。


赤信号の呪縛から解き放たれた車は、アクセルを踏み込んで勢いよく走り出した。

ヒカルはさっきまでの落胆が無かったかのような甲高い歓声を上げ喜んでいる。



電器屋の屋上駐車場に車を止めた。

すると、ヒカルはやおら携帯をポケットから取り出し、何かをチェックしているようだった。


「どうした?」

「ん!?あ、いや、、何でもないよ」


若干落ち着かない様子ではあったが、すぐに車を降り店内へ向かった。

車内にいたときとは明らかに違う。何かしら不安か、焦りか、はたまた苛立ちか、そういったものを内に隠しているような感じだった。

何かあったのか訊こうとしたが、ヒカルは一目散に目的の場所へ駆けていってしまった。


一応、ゲームは学生時代に飽きるほどやった。社会人になってからは疎遠になってしまったので、最近のトレンドなんて知ったことではない。ココは自称ゲームオタクなヒカルにお任せするつもりだ。


「ねえ、この本体ってサトル持ってたっけ?」

「なんだこれ・・・Will??このリモコンみたいなので遊ぶのか?」

「え~Wii知らないの~!?まあ、オレが欲しいソフトはこのハンドルもって遊ぶんだけどね」


何が何やらだ。

とりあえず、俺はヒカルの云われるがままに見本を手渡された。

何千円のソフト1本くらいかと思ってたが。。。ゲーム機本体に、リモコンとハンドルも1つずつ。

完全に予算はオーバーしているが、ヒカルは実に満足げだった。


「それ友達と一緒にやってさ~。すっげー面白かったんだよね~♪サトルも一緒にやろ!」


云い終わるが早いか、またもやヒカルがポケットに手を突っ込む。取り出したのはやはり携帯。


「あ・・・ゴメン。俺ちょっと電話してきていい?サトルは先に車戻ってて!」



屋上の喫煙所。

煙草の煙を、深い溜め息混じりに吐き出して、俺は空を睨んだ。


此処に着いてから10分以上経っていたが、アイツは戻ってきていない。
運転中は雲間から覗いていた青空も、今やすっかり分厚い雲に埋め尽くされ、生ぬるい湿った風さえ吹いていた。微かではあるが雷鳴も聞こえた気がする。

ちょうど3本目の吸殻を捩じ込んだところで、ようやくヒカルは現れた。

手には携帯ではなく、お茶のペットボトルとオレンジ炭酸ジュースのペットボトルをそれぞれ持っている。


「ごめん、遅くなっちゃった・・・」


駆け寄りながら俺にお茶の方を差し出す。

よくみると炭酸の方は既に3分の1くらいの量が減っていた。


「誰と電話してたの?」

「親。さっきからメールばっか来てて、無視してたら今度は電話かかってきちゃって・・・」

「そっか。何話してたの?」

「んっと・・・とりあえず車行こう」


俺はお茶のペットボトルを受け取り、ぐいっと一口飲んでから歩き出した。

ヒカルの表情は、今の空模様のように晴れない。俯いたまま、何か考え込むように目線を落としたままとぼとぼと歩いていた。


車のキーを挿し、エンジンをかけようとしたとき、フロントガラスに水滴が斑に落ちてきた。


「げ~、雨じゃん」

「夕方から雨とかだったっけ?」


たちまち雨脚は強くなり、雷鳴がさっきより確かに聞こえてきた。

ワイパーが規則正しく雨水を掻き分けるが、先ほどの国道は動きを奪われた車で詰まっており、いつ終わるとも知れない果てしない渋滞に巻き込まれてしまった。


軽く舌打ちをしてラジオをつけたとき、ヒカルが静かに口を開いた。


「ウチの親って何かすごい厳しくてさ、まじめに勉強しろとか、バイトとかすんなとか、大学卒業したらどうすんだとか、すげーうっさいの」


目線は変えずに、只ブツブツと愚痴をこぼしていた。


「お前のこと心配してんだろ。親を不安にさせないよう頑張れば良いじゃねえか」

「うん・・・でもさ」


云いかけた口を途中で止め、やおら視線を俺のほうへ向けた。


「オレ・・・サトルとずっと一緒にいたい・・・」


いきなりの思いもよらない一言に振り向くと、彼の顔は不安で一杯に満たされているのがわかった。

溢れ出しそうな感情が彼の目を潤ませている。


急な出来事で動揺してしまった俺は、一先ずお茶を口に含んで次の行動を模索していた。


「そ、そんな・・・明日すぐ離れ離れになるわけじゃないんだし、大丈夫だって・・・」


何とかしてこの場を取り繕おうとするが、この言葉がヒカルに聞こえているのか、虚ろな目でうな垂れている。


牛歩とでも形容すべき車の流れは結局、自宅にたどり着くのに普通だと15分程度なのが1時間近くかかってしまった。

ヒカルの感情をフォローしきれないまま。


駐車場にバックで駐車し、エンジンを止めると、車内は激しい雨の音で包まれる。

ふぅ と一息ついてシートにもたれると、何故か懐かしい感覚が舞い戻ってきた。


2年と数ヶ月くらい前だっただろうか、2人が付き合おうと決めた日も、こんな風に激しい雨の降る車内で・・・

俺たちにしか聞こえないくらいの小さな声で、互いの気持ちを告白しあったのを、ぼうっと思い出していた。


「なぁ」

「うん?なあに?」


俺はヒカルに、後部座席に座るよう促した。

一瞬外に出るだけで、頭や肩が雨でびしょびしょに濡れてしまう。

濡れた髪をそのままに、俺たちはシートに並んで座った。

大きな体が2つ。端に今日買った荷物を寄せた所為で、さらに窮屈に感じる。


俺はヒカルの顔を寄り近くで凝視するために、彼の肩に腕を回しぐっと近づけた。


「こうやってると・・・あの日のときみたいだよな」

「あのときってぇ?」


ヒカルはとぼけてるのか、表情を変えないまま俺の目を見つめた。


「ほら・・・俺たちが付き合い始めた日のことだよ」

「あぁ・・・」


はにかみながら、俯いて答える。


「あの時はこんなに狭くなかったけどね」

「んだな」


ヒカルの指摘におどけて相槌を打つ。

俺の腕の中で丸くなっていく彼を、放すまいとして俺は抱き寄せる。

濡れたときの湿気のおかげで、髪や汗のにおいが普段より色濃く感じられる。


「ヒカル・・・」

「ん・・・?」


胸板の上には今、ヒカルの額が乗せられている。

俺は何とか、彼に伝えたい気持ちを紡ぎ出す。


「その・・・ゴメンな。」

「・・・」

「寂しく・・・させたよな。でも、俺はずっと・・・お前の傍にいるから」

「・・・」

「だから、その・・・元気出せよ。笑った顔を見せてくれ」


云ったきり、狭い車内は沈黙で満たされた。

外は相変わらず激しい雨の音が聞こえている。

ヒカルは体を小刻みに震わせていたが、顔を完全に下に向けているため表情を窺い知ることは出来ない。

しばらく背中をさすっていると、額を俺の胸板から放し、俺のほうに顔を向けた。

何だか、照れ笑いのような微笑を浮かべている。


「えへっ・・・ありがと、サトル」


右手で目じりを拭い、今の精一杯の笑顔を俺にくれた。


「大丈夫だよ・・・俺がついてるから」

「うん・・・」


ヒカルはしっかりと俺の目を見つめて離さないでいる。

吸い込まれるようにゆっくりと、俺は彼の顔に近づいていく。


密接した空間の中で、俺たちは長いことキスをしていた。

彼の唇は、ほんのりと柑橘系の味を香りをさせている。

さっき口にしていた炭酸ジュースの所為だろう。


俺はお前のその眩しい笑顔が決め手だったんだ。

簡単に手放したりするかよ。


背中に回した腕に、より力を込める。


「あ」


唐突に唇を離し、ヒカルは目を真ん丸くさせた。


「ん、何だよ?」

「今日の晩御飯・・・買ったっけ?」


その一言に、俺たちは唖然とする。


「あっ、やっべぇ」

「じゃあ今日はオレがちゃちゃっと作っちゃうよ。はい、運転手さんスーパーまでお願いしまーす♪」

「はいよ、了解」


俺はヒカルに肩をたたかれながら本日2回目の運転を依頼された。

雨は止み、オレンジ色の夕焼け色を映した雲が千切れ始めている。


「お腹すいたなあ。あ、先にこないだ行ったタイヤキ屋さん行こ」

「はぁ・・・程々にしとけよ」

「よし、しゅっぱーつ」

「聞いてんのかお前」


元の席に戻った俺は、再び車のキーを挿した。

調子のいいエンジン音を上げ、俺たちを乗せた車は再び走り出した。

梅雨明けが報じられたばかりの7月。
鬱陶しかった蒸し暑さも消え、吸い込まれるような青い空に、悠然と泳ぐ白い鯨のような雲がゆっくりと通り過ぎていく。

そんな昼休みのこと。俺は校舎の屋上出入り口、その日陰になっているところに仰向けに寝そべっていた。
開け放たれた扉から吹く風は耳元で音を立てるほど強く、そして思いの外ひんやりとする。
兎に角心地良い。俺はこの時の為に学校に足を運んでいるようなもの、と、錯覚を覚えてしまいそうなほど。目を閉じれば風の音しか聞こえなくなる。このままあの空の海に入り込んで・・・・・

「お~ま~たせっ」

聞きなれた声と共に、冷たく重い衝撃が瞼の上に圧し掛かる。

「ぅおわあぁぁあっ」

驚嘆が、思わず溢れ出た声と共に体を駆け巡り、刹那に訪れた出来事を視認する。
寝そべった俺の頭のすぐ傍で、大きな影がしたり顔で僕を見下ろす。両手には飲み物のパックらしき四角形を携えていた。

「おはよおございまあ~す。なんちって」
「ったくオマエは・・・人を呼んでおいて待たせてんじゃねえよ」
「ごめんごめーん。購買とか混んでてさ。はいコレ」

うわべだけの謝罪と一緒に、片方の手に持っていた茶色い紙パックを俺に差し出す。
コーヒー牛乳と書かれたそれを、俺は眉間にしわを寄せながら受け取る。

「あれ、そういうのもダメだっけ?」
「牛乳ってつくものはみんな無理っつったろ」
「あぁ、でもそれはカフェオレと一緒・・・」
「じゃねーよ」

むしりとったストローを突き立てながら突っ込みを入れる。
そうかな~ と、ケタケタ笑い声を上げながら、やつは白と青のデザインの牛乳にストローを立てていた。

そんなイタズラ好きなあいつに誘われて、一緒に昼飯を食べるのも恒例になっていた。高校入学時から独りだった俺を無理やり連れ出し、色々云われるままについてきて、コレが3年目の夏。国立大志望の彼はこんなとこで飯食ってる場合でもないだろうに、昼休みになったら相変わらず俺をココに呼びつけるのだ。

色白の肌は学生服のワイシャツと同じくらい白い。ふっくらとした丸い体は、俺が初めて見た時から変わらないか、それよりも若干大きくなっているような気がする。刈り上げた襟足と眉の上で切りそろえた髪は、先週切ったばかりだという。

「そういえばさ、進路どうするの?」

リスかと思うくらい頬に溜め込んだまま訊く。

「ん、俺は実家を継ぐよ。だから進学はしない」
「えぇ!なんで!?」
「別に・・・もうオベンキョとかまっぴら御免なの」
「それは知ってるけどさあ」
「じゃあ何に驚いたんだよ」
「体育系の大学行くのかと思ってたから・・・」

まあ確かに、親父が柔道やってたのもあって体を動かすことに関しては自信がある。だが、そうまでして進学する意味を見出せない。もともと学歴だのに執着のない俺には、早く自分ひとりで稼げるようになりたいという気持ちのほうが強かった。

「実家は、お米屋さん・・・だっけ?」
「まあ、それもあるな。農家やってるから、まずはそれを引き継ぐことかな」
「ふ~ん・・・」

牛乳パックにさしたストローを吸いながら彼は頷く。

しばしの沈黙のうちに太陽が一欠けらの綿雲に隠れる。風が少し弱まる。
俺は以前から気になっていたことを再び思い返し、既に消えかけている口の中のものを未だに咀嚼していた。

「ねぇそれ食べていい?」

彼の指が俺の弁当に入ってる唐揚げを指す。それを見て慌てて俺は掬い上げ頬張った。

「ちぇ。お腹空いてないのかと思った」

事実そんなに食が進んでる訳ではなかった。その“気になっていること”が、実のところ彼が屋上に来る前から胸の中で引っ掛かっていたからだ。
もらったコーヒー牛乳を少しだけ飲む。もともと牛乳は苦手だが、どちらかと云うと今はこの甘ったるさの方が気に食わない。

「あのさ」
「ん?」

彼は、咀嚼を続けながら顔をこちらへ向ける。2本あったホットドッグが、後一欠けらくらいになろうとしているところだ。

「おまえ、東京の大学に進学するんだよな」
「うん、まあ東大じゃないけど」
「知ってるよ」
「知ってるならなんで訊くの」

彼の視線が完全に俺の顔を捉えているのを感じる。このままだと胸が苦しくなりそうだから俺は視線をもっと前に向けた。

「そしたら、東京に行っちゃうんだよな」
「うん、一人暮らしするの。ちょっと夢だったんだよね~」

いかにも楽しみだという風に喋る。もちろんそれだけが進学の目的ではないだろうが。

「まあ第一志望は・だけどね」
「そうなのか?」
「ん~行きたい所は他にもあるけど、それだと凄い遠いしさあ。迷ってるんだよね~」
「あんまり遠いと、頻繁にこっち戻ってこれねえじゃねえか」
「うん、でもなあ・・・」

ホットドッグを包んでいたラップをくしゃくしゃにしながら彼は頭を傾げた。
再び沈黙が続いた。太陽を隠していた雲が流れ、再び屋上に明るい日差しが戻る。

「俺だったら絶対東京行くね。んでいっぱい遊んで・・・」
「ボクは遊びに行くんじゃないの。一緒にしないでよ~」
「ホントか~?東京行ったらお前だって絶対遊ぶって」
「そんなことないもん。そっちこそ、変なやらしいお店とか行くんでしょ~?」
「バッ・・・・お前、そんなこと」

誰よりも気にかけている存在に思わぬ所を衝かれ、言葉に詰まる。流石に心が平常でいられなくなりそうになる。
それを隠そうとして弁当の白飯を一気に平らげようとしたときだった。

「あ、もう予鈴なってるよ。着替えなきゃ」

着替えなきゃ??
立ち上がり際に彼はもうひとつ、手提げ袋を俺の傍らに落とした。中身は俺の着ている柔道着だった。

「へ?次数学じゃねえの?」
「朝の話聞いてなかったの~?5時限目は数学の先生休みになったから、その代わりに体育になったって・・・選択は柔道取ってるんでしょ?」

呆然としたまま、俺は手提げ袋の中身だけ受け取った。
とりあえず、弁当の残りを口中に納め、コーヒー牛乳で流す。
チラッとあいつの方向に目をやると、既に彼は上半身裸になって体操着に手をかけているところだった。
見慣れた顔とはいえ、少なからず恋心――かどうかは分からないが――を抱いている相手の裸。丸っこく膨らんだ真っ白い肌が眩しすぎる。思わず吹き出しそうになった。

「何してんの、早くしないと間に合わないよ~?」

その言葉で我に返り、急いで支度に取り掛かった。

「ねえ」
「ん?」
「あのさ~・・・」

今度は俺があいつの方に顔を向けた。

「夏休みになったらさ、一緒に東京行かない?」

俺にとっては願ってもない質問だ。

「良いけど・・・どうしたんだよ」
「ホラ、志望校の見学って云うか、オープンキャンパスってのに行きたくてさあ。一人じゃ寂しいからついてきてくれないかなあと思って」
「ああ、いいよ」
「まじ!?やあったっ」

小さくガッツポーズを、したいのは俺の方だった。

「そしたらさ、俺こないだテレビで見たんだけど・・・」
「いっとくけどあくまで目的は志望校見学だからね、違う所にお金使いたくないからっ」

予想はしてたがしっかりと釘を刺される形になった。
ただ、2人で何処かに出かけるなんていつ以来だろう。まだ先のことなのに、楽しみでいてもたってもいられなくなる。

そうか・・・あいつが東京行くのも、まだ先のことだ。卒業するまでに、俺には知りたいことがまだまだ沢山ある。そこで俺があいつに抱いてるものを、ハッキリしておきたいんだ。
さっきまで感じていた不安や心配のような「気になっていたこと」が、ひとまずは落ち着きそうだった。
風は再び強まり。俺らの髪を逆立てている。その中で、白い体操着姿の彼が、太陽の光を受けてひときわ光って見えた。