読書感想文(3) | Papytat~東京農工大学生協読書部~

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「アイアンマン2」の似非ロシア人がツボだったナカムラです。
あのキャラを主人公にしたら、「シンシティ」みたいで面白いと思ったり。


「掏摸」中村文則

「土の中の子供」で芥川賞を獲った作家、中村文則の小説。
新聞で以前に紹介されていて、ちょっと興味を持っていたので。

街で生きる独り者のスリが、のっぴきならない事態に巻き込まれて…という筋書きをみると
「スティング」とか「オーシャンズ」のような爽快な展開を想像するかもしれませんが、
そんなことはありません。

極めて淡々と語られる物語からは、白昼夢のような印象を受けます。
身に染み付いてしまった衝動のままに、半ば無意識のまま掏摸を続ける主人公。
時折、ふと見上げる、手の届かない高い塔。埋み火のように蘇る、他人との関係を求める心。

作者は、この小説を書くために、ずいぶん長い間スリの練習を続けたそうです。
その努力は、スリの描写のためだけではなく、自分の抱えていた「衝動」を掏りとり、
言語化するためだったのではないでしょうか。
「衝動」を安売りせずに、紙の上で表現しようとする試み。
その点では、この作品はけっこう成功しているように感じました。

高城高にも似た、和製ハードボイルドの雰囲気を持つ小説です。
ぜひどうぞ。



ところで、

参考にしようと思って、amazonのレビューを読んでる時に思ったのですが、
読書する上で、感情移入ってそんなに大事なんでしょうか。
感情移入した、できた、できなかった、しないように気をつけた。
この手の台詞の多いこと。
さらには、
感情移入できない=ダメな作品、読む価値ない作品

という式まであるようで、どうにも釈然としません。

「感情」を「移入」するのですから、つまりは自分の感情と作品を照らし合わせた時に
理解できるか否か、ということでしょう。感情を物差しに他人を計るのはどうかと思いますし、
なによりつまらない。

耳に心地いい台詞ばかりを追いかけるより、
わけわからんことばかり言っている奴の真意、本質を掴もうとするほうが
魅力的に思います。
「掏摸」の作中の言葉を引けば、
本を読むのは「あらゆる誤差を望む」行為であったほうが楽しい。


てなことを以前友達に言ったら、
「疲れてる時にはそんな面倒な読み方したくない」
とあっさり。それもそうですね。