日常を騙る非日常。
現実を嗤う非現実。
虚しさを感じながら、呼吸を一つ、二つ、三つ。体を巡る酸素と血液で、自分が今ここに存在していることを確認する。
コツコツと靴でアスファルトを叩き、現在地点を確認する。
それから一歩、二歩、三歩…。足を前に進めていく。
日々は手の平から通り過ぎていく。掴み取れずにただ過ぎ去っていく。今日という日も誰の記憶にも残らず終わっていく。何も残せずに終わっていく。憎らしく思えども、それは変わらない。
家路の途中、ふと横に目をやる。二階建ての民家、その窓が見える。窓際には、赤い花が一輪。
花はさりげなくも凛と咲き、この家に住む人々の暮らしを飾る。飾り気がない花瓶に生けられた花。その鮮やかな赤は日々に溶け込んでいた。その様は、無闇に飾り付けられた者が哀れに感じられるほど美しかった。
記憶の片隅に残る存在。
逃げ込んだ先の非現実で、自分を語った。それで貰える赤いマークは、記録として残る。だが、語られた内容なんて誰が覚えている?
ここは日常でも現実でもない。ここで起こったことは半永久的に残り続ける。記憶ではなく、記録として。ここで語った思い出も、あの人の顔も。

夕暮れ時、冷たくなった手を擦り合わせた。明日こそ、何かを残したいと強く思った。今生きている日常に、今存在している現実に。

あの窓際の花のように。