あっ!


あの子はAB型だった。
「珍しい血液型だね」とその頃は思いもしなかった、どうでもよかった。
あの子は双子だった。
おんなじ顔した妹がいて、「目が茶色いね」と抱き合って笑った。

オレンジ色した自転車がいつも私の家の玄関の前にあった、盛りのついた猿のように愛し合っていた、花火はあっという間に終わった、土手を二人乗りした自転車はどこにもなくなった。
アコースティックギターはすぐにやめてしまった。あの子は今日も歌っていた。「君の歌だよ」と言っていたあの歌のフレーズも忘れてしまった。
青春は一瞬だから良いものだと彼が教えてくれたのだろう。

振られてしまった私は確か保健室で泣いた。
担任は私に言った。「縁があれば必ずまたもう一度出会う、だけどあなたが大人になって、もっと好きな人が出来ることを誰も責めやしないよ」と。


もうきっと私を思い出すこともないだろう、でも私は時々思い出すよ。初めての恋人だったと思っている。初めて人を本気で好きになって、初めて人とキスをして、初めて人と本気で喧嘩をした。
あの青くて酸っぱかった日々はたった数年でもまだ色褪せないまんま残ってしまっている。20年近く経った今も、覚えている。


あの子はAB型だった。
あの子は双子だった。
あの子はオレンジ色の自転車に乗っていた。
あの子はフォークシンガーだった。
あの子はバレーボールをしていた。
あの子はよく泣いていた。
あの子は、



もうどこか遠くの国の他人のようなもので、
きっともうあの記憶もあったのかどうかよくわからなくて、そうして歴史の1ページにも記載されない小さな恋の物語は誰も知らない、これからも語られることもなく最初からなかったみたいに私だけが知っているお話なんだろう。

あの子と私の話は、誰も知らない。


あの子がAB型だった、ってことだけを、
居酒屋で思い出したかのように話すだけの、
その程度の青春だった。



いいんだよ、
最高の青春だったよ。
私だけが、知ってればいいのさ。
あの子がAB型だったってことも。