この学校に転校してきた女、前田
その女に優子さんは興味深々だ
・・・おもしろくねぇ
毎回、毎回、優子さんの口から出てくる『前田』という名前
・・・全然、おもしろくねぇ
自然に出てくる舌打ちに、隣にいたトリゴヤはビクッとおびえ
ブラック、シブヤは目をそらした
ゲキカラだけは、こっちを見てニヤニヤしてやがる
『うん、こいつは殴っていいよね』
と席を立ったと同時に開けられるドア
「おっはー、おっはー、おっはー」
えくぼを浮かべた優子さんが、天使のような笑顔で入ってきた
「なんだ、なんだ?空気暗いな~」と言いながら、部長専用椅子に腰を掛けた
さっきまでおびえてた子羊たちの、安堵の息がもれる
「いい天気だなぁ~」
そういって窓の外を見る優子さん
「サド、行こうぜ」
この言葉に、いつもドキドキしながら返事をする
「あ、はい」
天気がいい日に、真っ先に向かう先は、この学校を見渡せる屋上だ
てっぺんの人しか入れない、いわば聖域ともいわれる場所
そこに、優子さんと一緒に立てるのは、幸せな事なのだ
心の中でガッツポーズして、すました顔を作って部屋を出た
青く晴れた空に、大きく手をひろげ背伸びをする優子さん
その後ろで、自分は優子さんの背中を見つめる
小さいな、可愛いな、ギュウってしたいな。
なんて事を思っても
いつ振り向かれてもいいように、ポーカーフェイスを保つ
「なぁ、サド~」
「はい」
「もうすぐ卒業だな」
「そうですね」
卒業という言葉に、寂しさを感じていたその時
「前田の事だけどさ~」
優子さんの可愛い、そのお口から出る“前田”という名前に敏感に反応する自分の心臓
優子さんは前田の事が好きなのだろうか
くそおもしろくねぇが、前田ってやつは顔は可愛い
喧嘩も強いし
や、でも、でも、愛嬌ねぇーぞ、あいつ!
いや、自分も愛嬌ねぇか・・・・
ショボーンと落ち込む自分の心
いやいや、なによりも前田と競ったって、優子さんの気持ちは自分にはむいていないだろう
独りよがりもいいとこだ
「おい、サド?聞いてるか?」
おっと、自分の世界に入りこんでしまっていた・・・・
「あ、すいません。前田がなにか?」
「あたしは、ここのてっぺんを前田に任せようと思う。サドはどう思う?」
どう思うって言われても、“くっそおもしろくないです”などとはいえるはずもなく
「優子さんが決めたのなら、自分は」
と、心にも思ってない返事をする
ここを任せるっていう事は特別な事なのだ
ただ喧嘩が強いってだけじゃ駄目だ。マジな心。人を引き付ける力
それを前田は持ってると、優子さんは判断したっていう事なのだ
それとも、他に理由が?
優子さんはやっぱり前田の事が
「あたしは、お前とみるこの場所が好きだ」
「え?」
唐突に言われた言葉に、一瞬ポーカフェイスが崩れる
「前田もこの場所を、大切な誰かと一緒に見れるといいな」
言い終えた後、振り返った優子さんは八重歯をのぞかせ、ニッと笑い言った
「なぁ、サド。卒業しても、あたしの側で、あたしと同じ景色見てくんね?」
崩れ去ったポーカーフェイスを、元に戻すのには時間がかかりそうです
自分、単純なのでがっつり勘違いさせてもらいますよ
優子さん、そのプロポーズお受けいたします

