お題;悋気

 


「医仙さまっ! 俺はどうしたらいいんでしょう!??」
「・・・・・」


最後と決めた時の旅を終えて、ウンスの中では一年だった空白時間が 高麗では四年の時が流れていて、彼女が知らない出来事もいくつもあった。
近衛隊を離れたチェ・ヨンの後釜の隊長にチュンソク、副隊長にチュモ、・・・そして・・・。
『近衛隊の末っ子』と評されていたトクマンもまた 副隊長になっていた。
ただ 隊長チェ・ヨンに丸投げされていた業務が山ほどあった副隊長の仕事が チュンソクであれば一人でこなせても 普通は無理であったため、副隊長二人体制になったのである・・・。


ウンスの不在の間に武閣氏であった妻と婚姻したチュンソクや、ウンスが高麗に戻るな否や婚姻にこぎつけたチェ・ヨンに続くように、近衛隊の面々も婚姻が続いた。
大抵は 元隊長や現隊長を見習うように ただ一人の妻として婚姻しているのだが、例外はある。
・・・それが、『槍と共に 女好きまでトルベから受け継いだ男』と評されている トクマンである。


実は名家の出身であった彼が いい家の出の妻を娶ったところまではよかったのだが、二人目三人目と手を出すのは あまり褒められない。
そして その二人目や三人目だった女人たちが コロコロと入れ替わるのも 問題なのである。


「・・・また 第二夫人に実家に戻られちゃったの?」
「『また』って酷いです! 医仙! 家を出たのは三人目ですが、どうしてこうなっちゃうんでしょう?!」


どうやら先日娶ったばかりの第三婦人に出ていかれたらしい。 彼女は商家の出の平民なので、見切りが早かったのだろう。
第一夫人は貴族階級で家同士の絆が深いために離縁できないでいるだけで 愛想をつかされているのを知っているウンスとしては、乾いた笑いを浮かべるしかない。


「・・・トクマン君って 女性を大事にしてる感じがしないわ」
「え? なんでですか?」
「複数の女性を妻に持つって 多分ものすごく大変なことだと思うわよ? 一人ひとりを一対一で大切にするだけでなく、それぞれの間に入らないといけないじゃない?」
「え? なんですか?それ」
「・・・トクマン君、あなた ただ女性を娶ればいいってもんじゃないわよ? あなたがいない間 女性たちは女性たちしかいない屋敷にいるわけだから 何か揉め事がおきるかもしれない。 第一夫人をちゃんと立てて それでも嫁いできてくれた第二第三婦人たちを大事にしているの?」
「難しくてわかりません、医仙」
「・・・・・」


以前から思っていたことだが、トクマンは素直で忠実な人間ではあるが、想像力は皆無らしい。
言われたことをこなすのは器用なのだが、想像力がないため 先を読んで先回りすることができず、あくまでも『言われたことをこなす』タイプなのである。


「う~ん・・・」


どうしたらトクマンにも分かってもらえるか。ウンスは悩んだ。
ふと頭を上げると 同じ部屋の隅で 何やら打ち合わせをしている夫とその腹心の姿が目に入る。


「ねぇ トクマン君。 あすこに うちの主人とチュンソクさんがいるじゃない?」
「はい」
「今何を話しているかはしらないけど、『もしも』の話よ? 『チュモはよく頑張っている』『チュモを副隊長にしてよかった』って言ってたら どう思う?」
「えええ??! そんなっ! 酷いです! 俺も頑張ってます!」
「チュモ君を羨ましいと思う?」
「もちろんですよ!」
「・・・じゃあ、それを 女性相手に生かせない?」
「・・・は?」


ウンスの話が全く分からない方向に飛んで行ったため、トクマンは素っ頓狂な声を上げる。


「だって、トクマン君ってば 夫人の前で他の夫人の話ばっかりするって聞いたわよ?」
「・・・・・え?」


夫たちが同じ隊に所属しているだけという繋がりではあるが、ここ高麗にも『奥方ネットワーク』のようなものは存在する。
女人で医員であるという唯一の存在のウンスがいれば 尚更、その手の情報は回ってくるのだ。


「悋気起こして欲しいならば やりすぎで逆効果よ?」
「え? 医仙っ! それは・・・」


思わぬ展開に驚いたトクマンがしどろもどろになるが、ウンスは続けた。


「第一夫人の前で 第二夫人や第三夫人を褒めてばかりいるんですってね? それは愛想をつかされるわ」
「・・・なっ」


何でそれを知ってるんですか?と叫びそうになったトクマンだったが、すんでのところで堪えた。 部屋の反対側にいたはずの彼女の夫とその腹心がこちらにやってきたからである。
ちなみに トクマンは『夫がそばを離れている間の医仙の護衛』のはずで、ここまで近寄ってくるまで気づかなかった彼は 完全に護衛として任務失格だ。


「・・・なんだ、トクマン。そのようなことをしているのか? それは逆効果だぞ?」
「・・・そういうチュンソクさんも、『都合悪いことは全部奥方のせいにしていて 勝手に恐妻にされてる』って話だけど?」
「ぐっ・・・。医仙 それは・・・」


フォローしようとしたのか間に入ろうとするチュンソクを すっかりスイッチが入ったウンスがバッサリ切る。
ちなみにチェ・ヨンは 元々トクマンを庇う気はないようで、ウンスの傍らへと移動した。


「イムジャは情報通だな」
「武官の夫はお役目とはいえ 都を離れることが多いもの。 妻たちは助け合っているのよ?」
「ああ。感謝している」
「・・・・・」
「急な打ち合わせで待たせたな。帰りにマンボの店に寄ろうか」
「ええ! お饅頭食べたいわ!」
「・・・・・」


妻の扱いに慣れているチェ・ヨンが ウンスの機嫌をとりながら 帰っていく途中で 意味ありげな視線を部下二人に残した。
チュンソクは心得たとばかりに 大きく頷いて見せる。


「・・・トクマン、お前 医仙のおっしゃったこと分かったか?」
「多分、ですけど・・・」
「まず、目の前の夫人以外の話をしないことだな。褒めるのは目の前の相手だけでよい。 あとは、平等に接するべきなのだろうが、一番負担が大きい第一夫人を優遇すべきだろうな」
「・・・はい」
「だが、大護軍のように 奥方を立てつつ 自分の思うように持っていくには 俺もまだまだだな。・・・あの方も昔は相当医仙に振り回されておいでだったが」
「大護軍はやっぱりすごいですね!」
「・・・お前は結局それだよな」


キラキラとした瞳でチェ・ヨンのすごさを語るトクマンに、チュンソクはため息をつく。


・・・その後 ウンスの忠告が生かされたかどうかは 残念ながら分からないのだった・・・。



 

 

 

 

猫しっぽ猫からだ猫からだ猫あたま  熊しっぽ熊からだ熊からだ熊あたま  黒猫しっぽ黒猫からだ黒猫からだ黒猫あたま  ビーグルしっぽビーグルからだビーグルからだビーグルあたま  牛しっぽ牛からだ牛からだ牛あたま

 

 

 

 

 

 

書いててよく分からなくなった話滝汗

(それでも公開する)

 

チュンソクの嫁の名前を忘れたPandoria・・・(オリキャラですが)

探すのも手間なので(幕間だとは思うけど) 時間もないし(現在30日夜)

トクマンの結婚話も書いたような・・・?(チュモが見合いだとは書いた記憶が)

 

そういえば ドラマに名前だけ出てくる近衛隊は チュモじゃなくてチョモだと聞いた気がします・・・。

久々にシンイの世界に戻れて楽しかったけど 忘れていることが多すぎて困った・・・。滝汗