桜満開のうららかな季節なのに、前代未聞の外出自粛、みなさまいかがお過ごしでしょうか。おうちでのんびり過ごし、いっそこの逆境を家族との絆をつよめる機会にしている、レジリエンスの高い人もいるようです。

 けれど、いつ収束するかわからない不安、自分がウィルスをgive or takeしちゃうかもしれない恐れ、日常の行動が制約されて鬱々とした気持ちを抱え、ともにうちに籠ってる家族との会話がぎくしゃくしたり、つい八つ当たりしちゃったり…、という人も少なくないのではないでしょうか。

 

 こんなときだからこそ役立つ、「共感力」を発揮するためのカウンセリングスキルをひとつご紹介します。

 名づけて、「そうなんです」と言わせる魔法

 

 「共感」の前提として、「傾聴」という言葉は、聞いたことのある方も多いと思います。相手の言葉にしっかりと耳を傾けること。相手がしゃべっている途中で遮ったり、言葉をかぶせたりしないこと。これは、基本中の基本。

 でも肝心なのは、傾聴したあとに、どう反応するか。

 

 例えば、離れて暮らす老親からの電話。

 「ごみ捨てに外に出て、近所の人と立ち話するだけでも移るんじゃないかと思うと、こわくて仕方ないわ。」

 「ただでさえ足腰弱くなってるのに、運動教室はお休みになっちゃうし、散歩だけじゃ物足りないし…」

 しっかり最後まで傾聴したあと、情報収集は抜かりなく、冷静な判断力を具えたあなたは、こんな“的確な”返事をしていませんか?

 「ごみ捨ては不要不急の外出じゃないから、自粛しなくても大丈夫だよ」

 「運動教室は都知事の指示に従ってるわけで、むしろ良心的と思わないと」

 

 ちっちっちっち(と人差し指を振る)。

 カウンセリング的には、まずここでやるべきは、相手の気持ちを推し量り、その気持ちに共感を示し、相手に『そうなんです』と言わせるような言葉を投げ返すこと。

 「ちょっとのことでも移るんじゃないかと思って、不安なんだね」

 「近所の人とおしゃべりできなくて淋しいね」

 「運動不足だと、気分までふさいでくるよね」

 「こんなときこそ思いっきり身体を動かして、すかっとしたいよね」

 そうすれば、電話の向こうで親は必ずや大きく首を縦に振り、「そうなのよ!」とおっしゃるにちがいありません。

 

 人は、ネガティブな状況に置かれたとき、ついそれを針小棒大に、必要以上に悲観的に捉えがちです。第三者的に見れば明らかな過剰反応、そんなに大袈裟に考えなくても…と思えても、本人はすっかりネガティブの殻に閉じこもり、周りが見えなくなっています。

 そこで、一旦その気持ちを受け入れて、その気持ちを的確に表現する言葉を相手に返してあげる(カウンセリング用語で「感情の反映」といいます)のです。そうすると、相手は自分の気持ちをちゃんと受け止めてもらえた、理解してもらえたと安心し、こちらへの信頼を高めます。

 「そうそうそう、そうなのよ」という反応が返ってきたら、こちらのものです。相手が心を開いて、こちらの言葉に耳を貸すゆとりが出てきた証拠。冷静なアドバイスはここから。

 「でも、ごみ捨ては自粛しなくていいよ。近所の人とは電話でおしゃべりしたら?」

 「運動教室は諦めて、YouTubeでやってる「みんなの体操」、トライしたら?」

 

 もし「そうなんです」を引き出せなかったら、共感不足か、「感情の反映」が的外れだったということ。「そうなんです」の反応を得るにはどんな言葉をかけたらよいか、ヒントを得るべく相手に質問してみます。

 「気にしてるのは、どの部分? ごみ捨て? ご近所とのおしゃべり?」

 「今、一番やりたいことは、どんなこと?」

 

 「そうなんです」と言わせるテクニックは、いろんな場面で応用できます。

 たとえば職場で将来のキャリアに悩み、あーでもないこーでもないと堂々巡りしている部下に、「いろんな可能性を考えると、迷ってしまいますよね」

 どでかいミスをしてしまった部下に、つい叱責モード、速攻リカバリー策の詰め詰めモードになる前に、「ミスをしたくてやったわけじゃないですよね」

 しょげていた部下が「そうなんです!」と顔を輝かせたら、そこですかさず次のステップに導くわけです。

 

 「共感を示しましょう」と言われても難しいけれど、「『そうなんです』と言わせましょう」と言われれば、具体的に何か出来そうな気持ちがしませんか?

 「そうなんです!」と思った方は、ぜひ実践してみてください。