落ちている領収書は、僕にとって「1,000円札」と同じだった。

 

社会人1年目で200万円を貯めた僕に、突然言い渡されたアメリカ・メキシコへの緊急出張。 

 

そこで待ち受けていたのは、想像を超える「出張手当」のカラクリと、

 

先輩が放った「一撃20万」という謎の言葉だった。

 

 

~前回のあらすじ~ 

 

【第1章】5話完結「罰金を会社に払わせろ」部長から渡された7枚の領収書が禁断の1歩へと・・・

 

営業部の経費精算を任された僕は、

 

部長から「小遣い」として渡される他人の領収書で、

 

駐車違反の反則金すら利益に変える味を占めてしまう。

 

麻痺していく良心と膨らむ貯金額。それは、底なしの闇への入り口だった。

 

領収書は「お宝」に変わる。サラリーマン営業職の特権

 

 

入社してから1年。

 

僕は相変わらず、地味で、それでいて強欲な日々を過ごしていた。

 

僕の日課は、街中に落ちている「領収書」を集めること。 

 

特にコインパーキングの出口付近は、お宝の山だ。

 

多くの人にとって、それはただの感熱紙のゴミに過ぎない。

 

しかし、営業職の僕にとっては、1枚が1,000円、ときにはそれ以上の価値を持つ「現金引換券」に見えていた。

 

 

「また1,000円稼いだ」

 

 

そう心の中で呟きながら、財布のポケットに領収書を滑り込ませる。

 

売上目標を常に達成している僕の部署では、少々の経費には誰も口を出さない。

 

昼食代、夕食代、移動費。

 

すべてを会社のお金で賄い、自分の給料には一切手をつけない生活。

 

 

その結果、社会人1年目にして貯金額は200万円を超えていた。

 

だが、そんな「小銭稼ぎ」の日々に、劇的な変化が訪れる。

 

ある日の午後、僕は常務と部長に呼び出され、重厚な扉の会議室へと足を踏み入れた。

 

アメリカメキシコの拠点でトラブルが発生した。お前に行ってほしい」

 

任務は、現地の現場改善と不良品の削減。

 

そしてもう一つ、妙な指示を受けた。

 

 

 「現地の日本人スタッフの『ガス抜き』も任せたぞ。接待も移動も、全部経費で落として構わん」

 

 

出発はわずか1週間後。

 

僕の戦場は、日本から一気に太平洋を越えた先へと広がった。

 

海外出張のイロハと、先輩の不敵な笑み

 

渡航先はアメリカ、カリフォルニア州サンディエゴ。 

 

日曜日出発、翌週の日曜日帰国という、時差を考えればかなりハードなスケジュールだ。

 

初の海外出張を前に、少し緊張していた僕の元に、一人の先輩がニヤニヤしながら近づいてきた。

 

 「ほな、そろそろ買い物いこか!」

 

先輩に連れられて向かったのは、大型のトラベルショップ。

  • 頑丈な大型スーツケース

  • 海外用の変圧器

  • 機内で使う便利グッズ

 

自前で買えば5万円は軽く飛んでいく代物ばかりだ。

 

しかし、先輩は迷わずレジで「領収書」を切らせた。

 

 実は僕の会社には、初めて海外出張に行く社員に対して「5万円の特別準備手当」が支給される制度がある。

 

「これ、領収書で落とせば、手当の5万円はそのまま丸儲けやな」

 

先輩のアドバイスのおかげで、準備費用は完全に浮いた。

 

これだけで、僕の口座には5万円の純利益が確定したことになる。

 

しかし、先輩の口から出たのは、さらに衝撃的な言葉だった。

 

「おめでとう。これで『一撃20万円』確定やな」

 

一撃20万? 意味が分からず聞き返そうとしたが、先輩の目は笑っていなかった。

 

この1年、先輩の背中を見てきて分かったことがある。

 

この人が言う「金額」は、必ず僕の手元に残る「現金」のことだ。

 

空港で渡された「魔法の紙」と2つの鉄則

 

出張当日、日曜日の朝。

 

 驚いたことに、先輩が空港まで車で送ってくれた。

 

チェックインを済ませ、保安検査場に向かおうとする僕に、

 

先輩は「餞別(せんべつ)」として2つのものを手渡してきた。

 

1つは、1ドル札が10枚入った封筒。 

 

もう1つは、当時の為替レートが細かく印字された1枚のレシート。

 

先輩はそれを「魔法の紙」と呼んだ。

 

「ええか。この海外出張でしっかり稼ぐための鉄則を2つ教えといたる」

  1. チップ以外はすべてクレジットカードで支払うこと。

  2. ホテルのランドリー代や飲み物代は、すべて『宿泊費』として一括請求させること。

 

「これさえ守れば、帰国する頃には20万の意味がわかるはずや。ほな、気をつけて行けよ」

 

 

背中を押され、僕は16時間のロングフライトへと飛び出した。 

 

機内の窓から遠ざかる日本を眺めながら、

 

僕はまだ、これから起きる「大失敗」と、

 

海外出張に隠された凄まじいマネーリテラシーの正体を知る由もなかった。

 

 

次回予告

 

16時間のフライトがスタートした僕は、大失敗に気づく。

 

あるものを忘れてしまった僕が取った行動は・・・