夕食に出かけた僕は、人通りのない廃墟のビルだらけのブロックから、幹線道に出た。
街路樹の落ち葉が風に舞い、涼しいというより、肌寒い中秋の風景が目の前に広がっていった。
ネットに接続されない僕は、素手でこの街に向かい合わなければならない。
地図はあるが、現実の街の光景とリンクしない。
頼りになるのは地図からみた幹線道の距離と、そこから見た「より」を頼りに歩いて行く。
僕らがオフセット法と呼ぶ素朴な測量手法の応用だ。

カフカの小説「城」の中で、城がKを呼んだ時、測量士を求めていたはずだ。
小説の中で測量士であるKはただひたすら歩き、懇願し、探求するが、測量士らしいことは
一度としておこなっていない。
あの中で基準点となるものは何一つ無いからかも知れない。

目的地に着く。
そこは病院教会と訳したらいいのだろうか。
少しひねると薬師寺というふうになるのかも。
尼僧がいそうな教会らしき建物の横にビールレストランがあった。

「なかなかいい店を知ってるね」と横の席の、北京で経済学を教えているという一見ぱっとしないチェコ人は言った。
雲の下はイラクかトルコだろうか。エミレーツの中での話だ。
その男から話しかけてきた。

エミレーツ航空は個々の座席にモニターがついていて、映画やゲームなどができるようになっている。
男は使い方がわからない様子。
使い方を教えると、こちらが少しだけ英語を話せることが分かったのか、少しづつ打ち解けてきた。
プラハ人の彼から僕も聞き出したいことは山ほどある。
気候・治安・食事・・・

見知らぬ世界を旅するには予習が大事だ。
しかしネットでは分かるようでわからないことが多い。
自然と会話が盛り上がった。

「いい店知ってるね。ネクタイ?そんなものは必要ないよ」
プラハに着いたらまず最初に行こうと思っていたレストランの名を出すと、彼が反応した。