朝は憂鬱

 

 

 

 

白い壁、高い天井、部屋中に並べられた四角いベッド、そしてそれらに横たわる女性たち。

 

ピンク色のシーツの上でくつろぐ彼女たちは同色の白衣を着た女性たちにバーコードリーダーのような機械を押し当てられている。

 

 

なんだここは?私はなぜこんなところに?

 

 

あまり言いたくないが、彼女らは白衣の女性に向かって・・・マ、股を開いている・・・!!!

 

どうやらVIO脱毛でも受けているらしい。そして私自身も例に漏れずベッドに横たわっている。

 

正直、施術を受ける気はない。そもそも脱毛サロンに行くお金なんてないはずだ・・・なぜなら、私はニートだからだ。。。

 

 

迷わずベッドから降りて部屋から出る。そこは廊下で、いくつもの部屋の扉が並んでいる。

 

私がいたのは一番玄関に近い部屋だった。すぐに外に出ようと下駄箱に近寄るが・・・

 

 

ない、、、私の靴がない!!!

 

 

並んでいるのは色とりどりの女性ものの靴ばかり。ぺったんこな奴や、ヒールのあるやつだ。いつも履いている革靴が見当たらない。

 

 

背後から気配!!

 

 

振り向くと、看護師と同じピンク色の白衣を着た男性がいた。この施設の偉いやつっぽい。

 

「どうかしましたか?」

 

男が話しかけてくる。

 

「いや、帰りたいのに靴がないんですけど」

 

「それはいけませんね」

 

奴の声のトーンが下がる。

 

「もうすぐあなたの順番ですよ、お部屋に戻ってください。」

 

 

「いや、わたしは脱毛とかいいんで。」

 

「いけません、女性たるものムダ毛を放置するなんて。それにあなたは当院で施術を受けると決まっているのですよ。」

 

 

廊下の奥から女性たちが顔を出す。なんだなんだというような様子でいぶかしげにこちらを見る。

 

沢山の女性たちの視線に気圧される。この感覚、覚えがある。気分が悪い・・・

 

お前は何をやっているんだ、というような目線。いくつになっても女性の視線は痛い。

 

 

蛇に睨まれた蛙のように固まっていると周囲の景色が変わり始めた。

 

まるで水の底から水面を見上げた時のように歪んでいく景色。ピンクと白を基調とした明るい雰囲気の背景が黒とグレーとオレンジの暗い色彩に替わっていく。

 

歪みの中でも女性たちの目は変わらず私を見据えていた。すっかり景色は変わった。

 

 

教会みたいな場所。彼女たちは修道女みたいな揃いの黒ワンピースにその身を包み、わたしを見ている。

 

 

やがて呆れたようにくるりと踵を返す。どこへ行くのだろう。

 

瞬間、私の心に「置いていかないで!!」というような焦りの気持ちが芽生えた。

 

思わず声が出たのだろうか、彼女たちは怪訝そうに振り向く。手には資料を挟む用のファイルを持っている。

 

彼女たちが何かを言っているのがテレパシーのように伝わってくる。

 

言葉ではなく感情や意思のようなものが伝わる。

 

 

(○○ちゃん、○○の○○、どうなった?)

 

(えっと、、、何のこと?)

 

(これだよ、課題で出てたでしょ)

 

目の前にファイルが差し出される。プリントが挟まっていた。

 

宿題か何かだろうか。

 

(・・・。ごめん、こんなものは初めて見たよ。これは何?)

 

(・・・?うそでしょ、持ってないの?)

 

(やばいじゃん、もう時間ないよ)

 

なんかざわざわし始めた。私だけ置いてきぼりを食らっているような気分だ。

 

 

急にいたたまれなくなって視線を逸らす。教会の外、道路を挟んで反対側の通りに衝撃的なものを見つけてしまった。

 

(!?...嘘、でしょ)

 

その通りは私の住んでいる住宅街の一角だ。見慣れた景色だ。いつも通りかかるクリーニング屋もある。

 

しかし一つだけ異様なものがあった。その存在に心底ブルッた。ビビった。縮み上がった。

 

 

それはデカかった。周りの家の3~4倍くらい。田舎のせいぜい二階建て程度の住宅街そこからズドンと突き抜けた長髪ひげ面男の像。

 

キリスト像か・・・?

 

 

北西向きに建っている像の顔に夕陽が差し、そのご尊顔がよく見える。どーなってんだこれは。

 

周りの修道女たちは課題どうすんだどうすんだと騒がしい。そういえば、私も彼女たちと揃いの黒ワンピースを身に着けている。

 

なんてこった・・・つまり私はこの修道院でお勉強してる女学生って訳か。こんな良くわからんおっさんの宗教に入信した覚えはないぞ。

 

わたしはこれから自分の身に降りかかるであろう出来事を想像し、心底うんざりした。

 

 

...

 

......

 

...背中が痛い。

 

首も肩も凝っている。

 

太もももゴリゴリの筋肉痛だ。

 

かたい床の上で寝てたらそりゃあそうなるわな。

 

汗と熱気の混ざった空気。朝はいつもこうだ。

 

ホカホカの布団から体を起こし、部屋のふすまに向かって歩き出す。

 

よろめいて壁に手をつく。眠気はないが、ぼーっとしている。とりあえずトイレ行こ。。。

 

またいつもと同じ朝。よどんだ空気の自室。ここから出ることが一日の始まりであり、ここに戻ることが一日の終わりである。

 

繰り返す臭くて汚い日常にうんざりしながらも、ここから抜け出すことは簡単ではない。

 

(今日もダラダラ過ごして罪悪感溜めて、眠剤飲んで寝るんだろうな。)

 

 

いつもと同じ。何も変わらないクズの一日が始まる。