期待無くば絶望も無し3
招福市場の出口へ向けて歩き出した直後だった。
ストローから口内へ吸い上げられた珈琲が一滴、舌先に滑り込んで染みたとき「ぐわん」と地面が揺らいだ。
美都子は立ち止まって、眩暈を落着けようと大きく深呼吸をした。すると鼻腔の奥で香ばしい香りが広がり風味が少し遅れてやってきて、ふあんと漂う。
「おいしい……」
そう呟いて美都子はしゃがみこんだ。後ろで「ほらね」と声が聞こえた気がして振り返ると、黒猫が足に擦り寄ってきてニャァと鳴いた。
「可愛い子猫…私、立てなくなったみたい。」
猫はじっと美都子の目を見つめて逸らそうとしない。何かを訴えかけるような仕草に、美都子は大きく息をついて立ち上がった。それと同時に黒い動物は軽やかに招福市場の中を駆けていった。曲がり角のほうにつくと立ち止まり、ニャァと鳴いて振り返る。美都子は何故か呼ばれているような気がして後をつけるように走り出した。
「ねえ、ねこちゃん、私置いてかれるのは嫌なの。もうちょっと待ってほしいな。」
「ねぇ、私、何を期待してるんだろう。追いかけたって、どうせ何も起らないって分かってるのに。君の事追いかけちゃうよ。もしかして面白いことになるんじゃないかなって」
招福市場は昼間なのにどの店も開いていなかった。独り言がアーケードにこだまする。
「ねえ!私を何処につれてくの?何を見せたいの?何も無かったらがっかりするからね!」
3度目の角を曲がったとき、彼女はここに居るはずの無い人物をみつけて息が詰まった。
「総ちゃん……」
紛れも無い、最近別れたばっかりの元恋人の姿だった。
