人は、失って初めて
大切なものに気づく。
健康はその代表的なものではないだろうか。
頑健な身体と安定した精神。
それこそは人間最大の宝物だろう。
だが健康な人ほど、
そのありがたさに気づかない。
20代前半の頃だ。
おれは、毎日死にたいと思っていた。
おれにはひどい希死念慮があった。
あることがきっかけで、
おれは寝たきりになった。
体がほとんど動かなかった。
床ずれになりかけて、全身が痛い。
看護師の助けがなければ、寝返りも打てない。
夜は、ほとんど眠れなかった。
何よりも辛かったのは、トイレだ。
当然、自分でトイレには行けない。
術後しばらくは管が入っていて、小は楽だった。
問題は大きいほうだった。
おむつを履いていたのだが、
どうしても出ない。
おれは便秘になった。
トイレ以外の場所で排泄することに、
心のどこかで強い抵抗があったのだと思う。
2週間近く出ないまま。
腹はもうパンパンだ。
最終的に、浣腸をすることになった。
あれは本当によく効く。
すぐに出た。
風呂に入れないのも辛かった。
頭はフケだらけになり、
髪が大量に抜けた。
年をとれば、
誰しも最後はこうなるのかもしれない。
だが、
ひとりでトイレにも風呂にも行けないという現実は想像以上に辛く、
そして恥ずかしかった。
そのときになっておれは初めて、健康のありがたさに気づいた。
何気ない日常を、
何不自由なく暮らせていたこと。
それがどれだけ尊く、奇跡のようなことだったのか。
医者や看護師の人たちは本当にすごい。
おれの人生は後悔ばかり。
しかしいくら悔やんでも、
本当に健康だったあの頃には
もう2度と、戻れない。

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