更に、今回のエントリーでは、朝木明代市議の転落死事件について、警察と検察がどのように捜査に関わったかを実際に見ていくことにします。転落死事件の捜査の経過の概要は、下記のとおりです:


平成7年9月1日 午後10時42分頃

 東村山駅前交番勤務の巡査長に「女性が倒れている」との通報


同日 午後11時16分

 明代市議を収容した救急車、転落現場から出発

 防衛医科大学病院に搬送


平成7年9月2日 午前1時頃

 防衛医科大学病院において明代市議の死亡を確認

 千葉副署長自宅にて事件の第1報を受ける

 千葉副署長、ただちに現場に赴いて、以後の捜査指揮に当たる


 防衛医科大学病院から東村山署に明代市議の死体が運ばれる

 千葉副署長、東村山署において実施された死体の検案に立ち会う


同日 午前4時45分過ぎ

 死亡者が明代市議であることを確認

 明代市議の検視(検視を担当した検察官は、信田検事


同日 午前7時頃

 千葉副署長、初動捜査の結果、事件性は薄いとの判断を下す


 以後、東村山署は、引き続き捜査を行う(捜査指揮は、千葉副署長)。


平成7年12月22日

 被疑者不詳の殺人事件として、東京地検八王子支部検察官に送致

 東村山署による発表(山田正治署長)

 「他人が介在した状況はなく、犯罪性はない」


  東京地検八王子支部における担当の検察官は信田検事


平成9年4月14日

 東京地検 不起訴処分

 東京地検による発表(松尾邦弘次席検事)

 「朝木明代の死亡にかかる被疑者不詳の殺人被疑事件については、必要な捜査を遂げ、本日不起訴処分にした。朝木の死亡には自殺の疑いが強く、他殺の確証は得られなかった」


 上記のように、転落死事件についても、万引き事件と同様に、警察が第1次的な捜査を行い、検察官送致の後に検察が引き続いて捜査を行うという原則が守られています。

  

 でも、転落死事件の場合は、検察官送致の前に信田検事が朝木明代市議の死体の検視を行っています。だったら、信田検事も捜査に関与しているんでしょう?という疑問があるのは当然でしょう。


 このあたりの事情は、 「-誰が読んでもよくわかる-裁判員読本 」(著者:小嶌信勝 元仙台高検・廣島高検各検事長)の「2. 殺人事件の捜査について 」に分かりやすく書いてあります。確かに、検察官は、異常死と思われる死体が発見された場合、法律の規定によって検視をします(刑事訴訟法第229条)。しかし、その後、警察の捜査の指揮を行うわけではないのです。即ち、信田検事は朝木明代の死体について検視をしていますが、その後の警察の捜査の指揮をとったわけではないのです。実際、検察官送致の前の警察の捜査は、千葉副署長がとっています。


 矢野穂積市議も瀬戸センセーも、信田検事が転落死事件の次の日に検視を行ったことをもって、その後、信田検事が警察の捜査の指揮をとったものと印象付けたいのでしょう。しかし、それは実際の警察の捜査の実務では起こらないことなのです。


 というわけで、転落死事件についても、やっぱり、信田検事が検察官送致の前の捜査において警察官を指揮する余地はありません。瀬戸センセーのブログの8月18日のエントリー「【連載】朝木明代元東村山市議殺害事件(3) 」では、「(6)東村山署は創価学会検事の指揮で、これを「他殺」ではなく「自殺」として取り扱った」なんて書いてますが、これは、実務上は異常なことです。はっきりとしたソースがない限り、この記載は信用することができません。


 以上に延々と述べましたように、検察官送致の前の警察における捜査は、検察官が指揮するわけではありません。ですから、現職警察官が、内部告発で
  「創価学会の信者と見られる検察官からの捜査打ち切りによって」
  「しかし、この事件はその捜査指揮を創価学会の検事が担当したのです」

とか言っているのは、それ自体、うそ臭いと私は思うのです。


 次回のエントリーでは、検察官の警察官に対する指揮権(刑事訴訟法193条第1項~第4項)について言及しつつ、現職警察官が内部告発で「検察側からの圧力があって捜査を断念せざるを得なかった」と発言していることについて疑問を呈したいと思います。