Youtubeの中に溢れているピアノ演奏の動画を見ることは、ピアノの演奏をレコードやCDで聴いていた時代から考えると、本当に手軽で今まででは考えられないほどの宝の宝庫である。

トリフォノフというピアニストのラフマニノフの第3番の動画がYoutubeの中にあった。

まだ、2020年の時点で29才。ロシアのピアニストである。このトリフォノフの経歴は詳しくは知らなく調べてみると、19才で2010年第16回ショパン国際ピアノコンクール第3位、2011年ルービンシュタインピアノコンクールで第1位、2011年第14回チャイコフスキー国際ピアノコンクールで第1位という、世界で活躍しているピアニストでもなかなか持っていないほどの受賞歴を持っていた。2015年、フランスでのラフマニノフ第3番の演奏会のこの動画を見たときには衝撃が走った。どのようなピアニストにおいても、動画でこれほどまでの気迫、演奏家魂が伝わるピアニストを見たことがないからだ。リヒテルやホロヴィッツ、またルービンシュタインのようなピアニストを代表するような人たちが、若いころにどのように演奏したのかは、誰も知ることはできない。もちろん限りない魅力を放っていたことは間違いない。しかし、この現在では有名なピアニストに限らずYoutubeなどを通してさまざまな演奏を見ることができる。ピアニストの時代は、すでにその最盛期を過ぎている言われているこの時代に、トリフォノフは奇跡的な存在と言えるであろう。まさに世紀の天才である。それは感受性の広さと深さだけではない、現代の若いピアニストには数少ないパデレフスキーのような真の英雄的な心を持っているからである。この真の英雄的な心を根底に持ちながら幅広い感性で、その1回のライヴの演奏に命を懸けているような演奏を、また、天才と言える技巧で弾いて進んでいく。もしかしたら、自分達は心の中で想像してトリフォノフのような表現ができると思う人は結構いるのかもしれないが、トリフォノフはそれを実際に魔法のように弾いているのである。だから天才なのである。世界は広く、世代は変わっていく。100年の間にはさまざまな天才は生まれてくる。そのような中でもトリフォノフは歴史に残る天才、現代ピアノ界の奇跡である。