原子価結合法とLCAO-分子軌道法(6) | 化学の電子状態のブログ

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今回と次回は、水素分子の基底状態の電子軌道の波動関数を求めます。VB法(原子価結合法)とシンプルLCAO-MO法の2つの方法を使いますが、今回はVB法を使って解きます。2つの方法は同じハミルトニアンおよび波動方程式を使います。しかし波動関数の初期設定が、2つの方法で異なります。積分値は、前述したように8PRO積分表を引用します。こうすると、三角関数、指数関数、および対数関数が全く出てきません。

 

◎水素分子
Ψは、水素分子の電子軌道の波動関数です。Eは、水素分子の全電子エネルギーです。

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2つの代表的なアプローチ

上記の波動方程式とハミルトニアンを使い、水素分子の電子軌道の波動関数Ψと全電子エネルギーEを求めるわけですが、前述したように波動関数Ψは、2つの方法で異なります。

 

●VB法(原子価結合法)

波動関数Ψを、VB法では次のように初期設定します。
(i) 次のような水素原子の1s電子軌道を使います。

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(ii) 水素原子Aと水素原子Bが、結合しない距離で離れているとします。

(ii-i) 水素原子Aに電子1が入ると、核Aと電子1の距離をrA1として、このrA1を変数とした水素原子Aの電子軌道は次のようになります。
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(ii-ii) 水素原子Bに電子2が入ると、核Bと電子2の距離をrB2として、このrB2を変数とした水素原子Bの電子軌道は次のようになります。
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(iii) 電子1を持つ水素原子Aと、電子2を持つ水素原子Bが、結合する距離まで近づき結合します。

(iii-i) 水素原子Aと水素原子Bが結合して水素分子が生成します。この状態の水素分子の波動関数Ψaを次のようにおきます。
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(iii-ii) 結合すると、水素原子Aに電子2、水素原子Bに電子1という電子が入れ替わった状態もあるはずです。この、もう一つの状態の水素分子の波動関数Ψbを次のようにおきます。
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(iv) 水素分子の規格化されていない波動関数Ψ

(iv-i) 2つ状態、上記の(iii-i)の状態と(iii-ii)の状態が、それぞれCa%とCb%づつであるとすると、トータル100%の水素分子の波動関数Ψは次のように表わせます。
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(iv-ii) 永年方程式をたて、水素分子は同核であることよりCa=±Cbを代入して解くと、Ca=1とCb=±1が得られます。ゆえに水素分子の波動関数Ψは、次のように2種類の波動関数Ψ+とΨ-であることがわかります。
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(v) 水素分子の規格化された波動関数Ψ

(v-i) 得られた2種類の波動関数Ψ+とΨ-を個々に規格化すると、次のような規格化された波動関数が得られます。
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Sは重なり積分です。

また1s軌道を代入すると、さらに詳しい型の波動関数として表わせます。

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(vi) 電子スピンも考慮した水素分子の規格化された波動関数Ψ

(vi-i) 最終的に電子スピンも考慮した水素分子の電子軌道の波動関数Ψは次のようになります。
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Ψ-は3種類の電子スピン状態が縮重しています。

このΨ+Ψ-が、VB法により得られた水素分子の電子軌道の波動関数です。そしてΨ+の方が、水素分子の基底状態の電子軌道の波動関数です。

 

※以上の計算では次の項目は省略しています。
・永年方程式とその解法
・波動関数の規格化
・水素分子のエネルギー
・電子スピン状態の縮重
・重なり積分